オーストリア旅行記 (55) マリア・テレジア(4)
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オーストリア旅行記 (55) マリア・テレジア(4)
- 義務教育と多文化の混在 -
シェーンブルン宮殿の庭園の一番奥、
丘の上のグロリエッテまで来たので、
ゆっくり丘を降りながら、
もう少し庭を散策したい。
庭は、200haにもおよぶ
イギリス式とフランス式が
混在した美しいものだが、
木々の刈り込みに
思わずシャッターを切ってしまった。
平面すぎるでしょ。
宮殿の
「マリア・テレジア・イエロー」が美しい。
庭の一角には、
植物園と動物園がある。
植物園のこの建物は1882年に完成した
ヨーロッパ大陸で最大の温室。
こちらの刈り込みも特徴がある。
植物園の方は静かだったが、
動物園の方は、多くの人で賑わっていた。
この動物園、1754年に作られた
世界最古の動物園だ。
創ったのは、マリア・テレジアの夫、
フランツ・シュテファン。
シマウマやフラミンゴなど、
当時のウィーンの人々が
見たことがなかったような動物を
インド、アフリカ、南アメリカからも
集めていたという。
そういえば、ウィーン自然史博物館
のところでも書いた通り、
自然史博物館もベースは
フランツ・シュテファンの
コレクションだった。
改めて自身の鉱物コレクションを見る
フランツ・シュテファンの絵を
貼っておきたい。(絵葉書で購入したもの)
壁一面コレクションで埋め尽くされている。
マリア・テレジアが君主として残したものは
これまでの記事に書いたような、
* 強い軍隊を作るための士官学校 や
* 民族や身分にとらわれず
有能な人材を重用する制度 や、
* 壮大な大改造を施した
シェーンブルン宮殿
だけではない。
* 教育と書籍の検閲を
教会(イエズス会)から解き放し、
自然科学が急成長していた
イギリスやフランスからの本が、
ウィーンに多く
入ってくるようにしたり、
【ウィーン イエズス会教会】
* 君主の権限が及ばない
貴族の力を削いで、
安定した税制を導入したり、
その改革の範囲は多岐にわたる。
その中でも、ぜひ書いておきたいのは、
イギリスよりも早く実現した
義務教育制度の確立だ。
「すべての地方、
すべての階級の子どもたちに教育を」
と全土に均一の小学校を新設。
金持ちの子どもだけでなく、
すべての子どもたちが教育を受ける
ことができるようになった。
さらに注目すべきは教科書。
軍隊とは違って、
こちらはドイツ語を強制はしなかった。
10以上の言語で教科書を用意。
商人の子どもも農民の子どもも
皆、自分たちの言葉で
教育を受けることができた。
その上で、
外国語教育も視野に入れていた。
「若者たちの教育は
国の幸福の源(みなもと)です」
とも語っていたという。
ここに書いた通り、
シェーンブルン宮殿の中を歩くと
内装の豪華さ以上に
文化の多彩さに驚く。
欧州各地方の風俗に限らず、
中国ありインドあり・・・。
一番大きなメインの広間
「大ギャラリー」の天井画には、
中央のフランツ・シュテファン、
マリア・テレジア夫妻を囲むように
フランドル地方の海上貿易、
ボヘミア貴族の狩猟、
ハンガリーの牧畜、
オーストリア・
ザルツカンマーグートの岩塩、
イタリア・トスカーナ地方のワイン造り、
ミラノの絹織物
などの様子が描かれている。
民族の多様性を尊重していたことの
証とも言えるだろう。
同君連合国家の形態を
伝統的にとってきたとはいえ、
ウィーンで食べる料理が、
ハンガリだったり、
ルーマニアだったり、
バルカン地方だったり、
セリビアだったり、
スペインだったり、
ボヘミアだったりと
その起源が多岐に渡ることも
様々な文化を受け入れてきた
歴史を物語っている。
音楽だけではなく
多様な文化を受け入れる器として
ウィーンを「豊かな」都に
発展させていったマリア・テレジア。
これら君主としての活躍が
16人もの子どもを生みながら
成し遂げられていったことも
最後に記しておきたい。
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