オーストリア旅行記 (38) カフェ文化
(全体の目次はこちら)
オーストリア旅行記 (38) カフェ文化
- ひとりでいたい、でも仲間が必要だ -
ウィーンの文化と言えば、
やはりこれに触れないわけには
いかないだろう。
カフェ文化。
【カフェ フラウエンフーバー】
Café Frauenhuber
ウィーン最古のカフェ。
夕日を背に外のテラスで食事をしたが、
食事のあと、
店内の写真を撮らせてもらった。
女帝マリア・テレジアの料理人
フランツ・ヤーン(Franz Jahn)が
1788年に開業。
1788年にはモーツァルトが
「ヘンデルのパストラーレ」を
1797年にはベートーヴェンが
「4本の金管楽器とピアノのための5重奏」
をここで演奏。
特に、モーツァルトが公衆の面前で
ピアノ演奏を行ったのは、
ここが最後になったらしい。
モーツァルトとベートーヴェンが
演奏したことのあるカフェというだけで、
もう寄らずにはいられない。
落ち着いた店内の雰囲気に
まさにピッタリといった感じの正装で、
丁寧な接客をする
ケルナー(ウェイター)さんが
ほんとうに印象的。
かなりなご高齢と思われるが、
所作と言うか身のこなしが美しく、
まさにプロフェッショナル。
ワイワイと
各国からの観光客が多くても、
店の独特な空気感が
キッチリ守られていることが、
なんとも気持ちがいい。
【カフェ ブロイナーホーフ】
カフェ「Café Bräunerhof」
ここにも、多くの芸術家が
集(つど)っていたと言う。
ところで、
「ウィーンといえばカフェ」
と言われるほどにウィーン文化を
代表しているもののひとつがカフェ。
「文化」と呼ばれるまでの
その独特な存在意義を
下記の本を参照しながら
覗いてみたい。
広瀬佳一、今井顕 編著
ウィーン・オーストリアを
知るための57章【第2版】
明石書店
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
まずは起源から。
即座にコーヒーやカフェを
思い浮かべる人も少なくないだろう。
確かに、ウィーンは、
東方に起源をもつ
この「黒いスープ」を、
ヨーロッパで最も早く
普及させた都市であった。
カフェの起源については、
数多くの伝説が
まことしやかに語り伝えられている。
たとえば-
1683年、
トルコ軍によるウィーン包囲の際、
トルコ語の才能を買われて伝令となり、
敵陣に潜入して
皇帝軍を勝利に導いた
コルチスキーが、戦後、
トルコの野営地に放置された
コーヒー豆を得て、
ウィーン初のカフェ・ハウスを
開店したというエピソードは、
あまりにも有名である。
しかし実際には、
このコルチスキーより以前に、
都市在住の東方商人らを相手に
コーヒーを出す店が、
すでに存在していたようだ。
すでに18世紀には、
カフェはウィーンの名物、
見どころのひとつに
数えられていた。
1720年に開業し、
国内はもちろん、全ヨーロッパの
主要な新聞・雑誌を常備していた
「クラーマー・カフェハウス」は、
やがて首都の知識人の結集地となった。
こんな感じで、どこのカフェでも
新聞や雑誌が読み放題になっている。
特に新聞のフォルダが印象的。
ただ、
大テーブルに相席で押し込まれた
大勢の客が、
騒がしくひしめき合う。
多くの風刺画や銅版画が
今日に伝えるように、
これが、18世紀前半までの
カフェの日常風景であった。
それが大きく変化を始めるきっかけが
18世紀、後半に起こる。
変化を見せはじめたのは、
1780年代のことである。
飲食店営業規制穏和の結果、
カフェの数がさらに増大すると、
多くの店主たちは、
生き残りを賭けて大改装に着手した。
内装は上流階級のサロンに擬せられ、
採光が不具合な立地でも、
クリスタル製の
豪華なシャンデリアが
明るく照らすようになった。
目抜き通りに面した店では、
軒先に植木鉢を並べた
「シャニ・ガルテン」、
今でいう
オープン・エアが創案された。
オープン・エアのテラス席は
このころの発明だったわけだ。
個人の孤独。
これこそ、その後、
19世紀から現在まで
人々を魅了し続けた、
ウィーンのカフェの
最大の特色にほかならない。
たとえば、20世紀前半に
活躍した文筆家で、
「カフェ・ツェントラール」をはじめ、
名だたる文学カフェの
常連としても知られる
アルフレート・ポルガーは、
カフェの魅力についてこう語った。
「一人でいたい、
けれど、
同時に仲間が必要だ。
こういう人々が、
カフェに通うのである」
ちなみに、上の引用に出てきた文学カフェ
【カフェ ツェントラール】
は、こんな感じ。
興味深いのは、歴史ある
「ツェントラール」のすぐそばに
これを発見したこと。
ウィーンの人には
どんな風に見えているのだろう?
第一号店をオープンさせたとき、
多くのウィーンっ子から、
「コーヒーを
紙コップで飲むなんて、
あり得ない」と、
猛反発を受けた
スターバックス・コーヒーが、
その後、若い世代を中心に
広く受け入れられ、現在、
市内に9店舗を展開している事実もまた、
ウィーンにおけるカフェ文化の変遷の、
その一面を
象徴しているのかもしれない。
(全体の目次はこちら)
« オーストリア旅行記 (37) オーストリア国立図書館 | トップページ | オーストリア旅行記 (39) ザッハ・トルテ »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 音語りx舞語り「春」日本舞踊編(2024.04.21)
- 名盤 CANTATE DOMINO(2023.12.17)
- KAN+秦基博 『カサナルキセキ』(2023.12.03)
- 「音語りx舞語り」が見せてくれた世界(2023.10.29)
- 平野啓一郎さんの言葉(2023.02.12)
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 黒目川 (2) 遡行(2025.01.19)
- 黒目川 (1) 遡行(2025.01.12)
- 新東名高速道路 中津川橋 工事中(2024.10.27)
- 新東名高速道路 河内川橋 工事中(2024.10.20)
- 漱石の神経衰弱と狂気がもたらしたもの(2024.09.08)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- どんな読み方も黙って受け入れる(2025.01.05)
- 付箋を貼りながらの読書(2024.12.29)
- 後日に書き換えられたかも?(2024.12.22)
- 内発性を引き出してこそ(2024.12.15)
- 生物を相手にする研究(2024.12.01)
「歴史」カテゴリの記事
- 「生きてみると、とっても大きい」(2024.12.08)
- 接続はそれと直交する方向に切断を生む(2024.08.18)
- 二ヶ領用水(6) 溝の口で寄り道(2024.07.07)
- 二ヶ領用水(4) 久地円筒分水をメインに(2024.05.19)
- 二ヶ領用水(3) 久地の合流地点まで(2024.05.12)
「社会」カテゴリの記事
- 接続はそれと直交する方向に切断を生む(2024.08.18)
- ついにこの日が来たか(2024.07.28)
- 「科学的介護」の落とし穴 (3)(2024.03.10)
- 読書を支える5つの健常性(2023.11.19)
- 迷子が知性を駆動する(2023.04.02)
「食・文化」カテゴリの記事
- ワイングラスにワインは 1/3 だけれど(2024.07.21)
- 食べるものを恵んでもらおう、という決め事(2023.08.20)
- 微笑むような火加減で(2023.03.05)
- 舌はノドの奥にはえた腕!?(2022.11.13)
- 鰆(さわら)を料理店で秋にだす(2022.10.02)
« オーストリア旅行記 (37) オーストリア国立図書館 | トップページ | オーストリア旅行記 (39) ザッハ・トルテ »
コメント