オーストリア旅行記 (34) 古楽器博物館(3)
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オーストリア旅行記 (34) 古楽器博物館(3)
- ヤマハが得たもの -
前回に引き続き
新王宮の中の古楽器博物館での
写真を挟みながら、
ウィーン国立歌劇場管弦楽団と
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の
楽器のエピソードを続けたい。
今回も、引用の文章は
挿入している写真の説明
というわけではない。
その部分は承知のうえ
お付き合いいただければと思う。
参考図書は、
広瀬佳一、今井顕 編著
ウィーン・オーストリアを
知るための57章【第2版】
明石書店
(以下水色部、本からの引用)
(前回からの続き)
ようやく完成した
「日本製」ウィーンモデル。
その完成度と実績は
前評判を大きく覆していく。
【ヤマハ製 ウィーン式
ホルン、オーボエ、クラリネット】
ウィーンの音楽家のなかで
「日本人にコピーを器用に
作る能力はあっても、
心を表現する伝統ある本物は
作れるわけがない」
という意見が主流だった。
しかし今日では現実の結果を前に
「日本人だからこそ、
このように優れた楽器を
完成させられたのだ」と、
まったく異なる評価が
語られるようになった。
2010年現在、
ウィーン方式の管楽器のうち
ヤマハで作られているのは
ホルン、オーボエ、
そしてクラリネット
(中級クラスのモデルのみ)だ。
ホルンは日本国内では
特注品となっている。
「採算性がない」と、
多くの工房から見捨てられてしまった
ウィーンモデル。
ヤマハがやったからと言って
急に採算性があがるわけではない。
それでもあえて挑戦したヤマハ。
その過程と結果は、
採算以外の大きな価値を
ヤマハにもたらした。
【ヤマハが得たもの】
成立しないプロジェクトだが、
楽器メーカーとしての夢を追い、
音楽文化への貢献という
使命を果たし、
これらを通じて得られる
世界最高峰の音楽家との交流は、
ヤマハに単なる採算を超越した
価値とステータスを
もたらす結果となった。
ウィーンモデルと呼ばれる楽器と
日本の楽器メーカ「ヤマハ」との物語を、
楽器博物館の写真を交えながら
3回に分けて続けてきた。
耳の肥えたウィーンの音楽家に
その価値をちゃんと認めてもらえた、
というのがなにより誇らしい、
いい話だ。
適当にペタペタと写真を並べながら
話を続けてきたが、
最後に楽器の写真だけ
もう何枚か貼っておきたい。
こういった、「多」弦楽器は
ほんとうに多種多様。
演奏も難しいだろうが、
それよりもなによりも、
演奏前の音合わせ、つまり
調弦(チューニング)に、いったい
どれほどの時間がかかることだろう?
どこで聞いたのかは覚えていないが
「リュート奏者が50年生きていると、
45年はチューニングしている」
なんていう冗談交じりの話を
おもわず思い出してしまう。
そう言えば、似たようなものに
「オーボエ奏者が50年生きていると、
45年はリードを削っている」
というのもあったかも。
いったい何が出典やら。
試しにググってみたが、
なにも引っかからないし。
いずれにせよ、
並べられた多くの弦楽器を
歩きながらゆっくり眺めていると、
「弦の本数」と「低音の取り込み」に
さまざまな挑戦のあとが見て取れる。
通奏低音に特徴のあるバロック音楽が
低音を要求していたのかもしれない。
この共鳴箱は形も大きさも強烈だ。
実物の展示とはいえ、残念ながら
生の音を聴くことはできない。
でも、どんな響きを奏でるのか
想像するだけでもたのしい。
一方で、
「今も演奏会で眼にすることがあるか」
を問いかけながら見てみると、
多くが淘汰されてしまっている。
普及し残る楽器と
博物館の展示品になってしまう楽器。
何がその運命を分けるキーなのだろう?
ちなみに、楽器以外の
関連小物も楽しめる。
たとえばコレ。
クラリネットのリードケース
樹脂やグラスファイバー、
カーボンファイバーが登場する前の
チェロのハードケース。
正真正銘の木製。
こりゃ、重かったことだろう。
最初に書いた通り、
この博物館は訪問者も少なく、
静かにゆっくり観られるので
楽器好きにはお薦め。
とにかくコレクションが膨大なので
時間には余裕をもって
お出かけ下さい。
帰るときも来る時同様
宮殿の大理石の空間を
夫婦で独占。
静かに歩くことができる。
なお、各楽器の説明書きは
ドイツ語のみなので
リアルタイムで詳しく知りたい方は、
グーグル先生にお供してもらって下さい。
もちろん「ドイツ語習得ののち」が
理想ではありますが。
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