オーストリア旅行記 (32) 古楽器博物館(1)
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オーストリア旅行記 (32) 古楽器博物館(1)
- 楽器を持たずにリハーサル!? -
ここに書いた通り
新王宮の中にある博物館のひとつに
古楽器博物館がある。
音楽の都ウィーンならではの
楽器コレクションで
楽器好きにはたまらない空間だ。
しかも写真撮影もOK。
場所も新王宮の中という
ウィーンの中ではある意味一等地。
ところがところが
行ってみると中はガラガラ。
訪問者がほとんどいない。
王宮の中なので、
展示室に向かう階段からして
大理石のこんな豪華な空間なのに、
ご覧の通り、歩いているのは
我々夫婦ふたりだけという
まさに独占状態。
楽器に興味のある方、というのは
全体から見れば
「少数派」ということなのだろうか。
おかげで
王宮の中を、楽器を眺めながら
ゆっくり静かに過ごす、という
贅沢な時間を満喫できので
個人的にはなんの不満もないのだが。
館内には、
シューベルトが愛用したピアノ(写真左側)
をはじめ、
ベートーヴェン、モーツァルト、
ブラームス、シューマン、リスト、
マーラーなどなど
歴史的な作曲家が使用していた楽器が
多数並んでいる。
ただ、それ以上に興味深いのは
図鑑や音楽の教科書でしか
目にしたことがないような
めずらしい楽器の実物が
数多く展示されている点だ。
以前見た、米国ニューヨークの
メトロポリタン美術館の
楽器コレクションも素晴らしかったが、
それをはるかに凌ぐ質と量。
とはいえ、珍しい楽器の解説を
一台一台できるほどの知識もないゆえ
今日は、
ウィーン国立歌劇場管弦楽団と
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の
「楽器」についてのエピソードを
参考図書から引用しながら、
その間に
古楽器博物館で撮った写真を挟んで、
のスタイルで書き進めていきたいと思う。
つまり、引用の文章は
挿入している写真の説明
というわけではない。
その部分は承知のうえ
お付き合いいただければと思う。
写真へのコメントは
[]で記していきたい。
[鍵盤楽器は鍵盤の多彩さだけでも
おおいに楽しめる]
以前、
ウィーン国立歌劇場管弦楽団と
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の
関係について書いたが、
広瀬佳一、今井顕 編著
ウィーン・オーストリアを
知るための57章【第2版】
明石書店
(以下水色部、本からの引用)
を読むと、
この両楽団の「楽器」について
さらに興味深いことが書いてある。
【楽器は楽団所有】
美しい音は、
演奏に使用される楽器に
大きく依存している。
日本のオーケストラでは、
打楽器など
持ち運びができないもの以外は
演奏者各自が
自分の楽器を持ち寄って
演奏するのが当たり前だが、
欧米のオーケストラでは
「楽団所有の楽器」が
常にストック・管理され、
日常の活動ではそれらが使用される。
[当然のことながら、
今のピアノのような白黒の鍵盤が、
最初から確定していたわけではない]
[多くの試行錯誤の歴史がある]
【会場に用意されている楽器】
歌劇場専用の楽器が、
ウィーンフィルとしての
活動のためには
ウィーン楽友協会に
ウィーンフィル専用の別の楽器が
準備されているのだ。
極端な話、団員は
手ぶらでリハーサルに現れても
まったく困ることはない。
歌劇場用の楽器と
ウィーンフィル用の楽器が
それぞれの会場にいつも置いてある。
そんな運用になっていたなんて!
【楽友協会にある専用工房】
ウィーンフィルの事務局がある
ウィーン楽友協会
(ムジークフェライン)のなかに
工房があり、
1870年に建物本体とともに開設された
この工房で製作された楽器が
現在も年間数台のペースで
補充されている。
今日のウィーンフィルの
弦楽器の核となっているのは
1870年から90年頃にかけて
ここで製作されたものだが、
弦楽器としては
まだ比較的新しいものと言えよう。
楽器が各会場に確保されているだけでなく、
楽友協会の中には、
楽器を製造する工房までもがあるらしい。
それなら、
調整や修理ももちろん御手の物だろう。
【弦楽器の特徴】
楽器の胴体のもつふくらみが大きい。
横板にもたっぷりとした幅があり、
楽器の厚みが厚くなっている。
最大の長所は
アンサンブルに適していることだ。
コンサートホールの最後列まで
明瞭に音が届くソロ楽器というよりは、
合奏した時にお互いの音が
よく調和し合うのである。
楽器に塗られるワニスの質も
イタリア製のものと少し異なっている。
ウィーンフィルのあの美しい弦の響きには、
こんな楽器の特徴も
大きく寄与しているようだ。
弦楽器だけでなく、
管楽器にもウィーン方式と呼ばれる
特徴ある楽器がある。
その独特な美しい音色は
まさに魅力のひとつだが、
その特徴ゆえに
難しい問題にも直面していた。
次回はこの話から始めたい。
(全体の目次はこちら)
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