オーストリア旅行記 (28) ウィーン国立歌劇場(3)
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オーストリア旅行記 (28) ウィーン国立歌劇場(3)
- 驚きの奥行きと建築家の悲しい運命 -
ウィーン国立歌劇場の
ガイドツアーの3回目。
いよいよ舞台裏だ。
今は公演がないので、
ガランとしている。
ここで一番驚いたが、
奥行きの説明。
幅が25mに対して
奥行きは、
本舞台と奥舞台合わせて
なんと50m!
客席の奥行きよりも、
舞台の奥行きの方が大きい。
そのうえ脇舞台まであるという。
上下動とスライドを組合せて
舞台が入れ替わる様子を
ぜひ見てみたいものだ。
しかも、最初の説明にあった通り、
ここの公演プログラムは日替わり。
つまり舞台装置も毎日変わる。
リハーサルと本番と入替えを考えると、
スタッフの皆さんの忙しさは
相当なものだろう。
舞台裏の次に案内されたのは正面階段。
空襲による破壊を免れた貴重なエリアだ。
劇場の階段とは思えない贅沢な空間。
階段の左右の壁には
二枚の顔のレリーフがある。
この劇場を設計した二名の建築家、
ファン・デア・ニュルと
アウグスト・シカート・
フォン・ジカルツブルク。
いやま世界を代表する歌劇場なので、
建築家のふたりもレリーフとなって
自らの作品を
さぞや誇り高く眺めていることだろう、と
思いがちだが、
現実は正反対だったようだ。
なんとも悲しい物語。
ガイドツアーでも簡単に触れていたが、
下記の本を参考に
少し詳しくみてみたい。
参考図書は、
広瀬佳一、今井顕 編著
ウィーン・オーストリアを
知るための57章【第2版】
明石書店
(書名または表紙画像をクリックすると
別タブでAmazon該当ページに。
以下、水色部は本からの引用)
コンペを勝ち抜いたこの壮大な建築物が
ウィーン市民の前に
初めてその姿を現したころ・・・
「ギリシャとゴシックと
ルネッサンスの様式が入り乱れた、
節操に欠けたデザイン」
と酷評されたのである。
それに加え、
建築工事開始後になってから
劇場正面の大通りの地表面が
1メートルも
かさ上げされることになり、
その結果この劇場は
「沈没した箱」
「建築文化の敗北」
「食べ過ぎて横たわっている
象のように重い」
などとこきおろされた。
道路工事の不運があったにせよ、
その評判は散々だったようだ。
「沈没した箱」と評したのは
ときの皇帝フランツ・ヨーゼフ1世。
多くの酷評に
ふたりは最悪の事態を迎えてしまう。
(1830~1916年)はじめ、
建設省、新聞、建築家や
一般市民の非難の声に耐えきれず、
ファン・デア・ニュルは
1868年4月3日に56歳で自殺、
同年6月11日には
ジカルツブルクも54歳にして
失意のどん底に力尽き、
両人とも建物の完成を待たずして
世を去ってしまった。
なんということだろう。
建築家のふたりは自殺と憤死。
建物の完成も、こけら落としの公演も
見ていないのだ。
ふたりの死は、
皇帝フランツ・ヨーゼフ1世にも
影響を与えた。
国王は何事に対しても
個人的な見解を発言するのは
控えるようになったという。
外観の意匠が市民に理解され、
受け入れられるには長い時間が
必要だったようだ。
次に案内されたのは、
【大理石の間】
名前の通り
床もテーブルも壁の一部も大理石。
この空間に重厚な雰囲気はなく、
モダンで明るい。
幕間をシャンパン片手に寛ぐのに
ピッタリ。
壁には色違いの石を上手に組合せて
舞台裏やら楽器やら
歌劇場の日常が
じつにオシャレに描かれている。
今はがらんとした空間だが、
オペラの幕間で人が溢れている時、
ここはいったいどんな空気で
満たされていることだろう。
舞台の奥行きに驚き、
建築家の悲しい運命にしんみりし、
と感情の起伏が思いのほか大きい
歌劇場のガイドツアーだが、
ガイドさんの案内はまだまだ続く。
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