オーストリア旅行記 (25) ヴィレンドルフのヴィーナス
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オーストリア旅行記 (25) ヴィレンドルフのヴィーナス
- 高校世界史の授業の思い出 -
【ウィーン自然史博物館】
で、見たかったもののひとつが、
「ヴィレンドルフのヴィーナス」。
写真は撮れなかったので、
ミュージアムショップで買った
絵葉書の写真を添えておきたい。
名前は知らなくても、
教科書等どこかで目にしたことが
あるのではないだろうか。
なんと2万4千年も前のものと
推定されているらしいが、
実物は11cm程度しかなく、
目の当たりにすると
その小ささに驚いてしまう。
片手に収まってしまうサイズだ。
今このブログをiPhoneで
ご覧になっているとすれば、
そのiPhoneよりも小さい。
発見は1908年。
こんな小さなものを壊さずに
よく見つけ出したものだ。
では、どうして
実物を見てみたかったのか。
それは、
高校の世界史の授業の
小さな記憶と繋がっているから。
寄り道が多くて
ちっとも前に進まない旅行記だが、
今回も観光を離れて
しばし私の高校時代の
世界史の授業の思い出話に
お付き合い願いたい。
工学部をめざしていた私は
世界史の授業がある高校3年時、
いわゆる理系クラスにいた。
主力の理系科目でもないうえに、
私も含めクラスメイトの多くは、
当時の共通一次試験、
今のセンター試験の社会に
「世界史」を選んでおらず、
まさに受験に関係ない、
ということもあって
世界史の授業には
全く熱が入っていなかった。
と言うか
サボることばかり考えていた。
そんなクラスの世界史を任されていたのは
大ベテランのK先生。
やりにくかったであろう空気の中、
じつに淡々と授業を進めていた。
私は、と言えば、そういうわけで
数学や物理の内職(?)を
コソコソしながら聞いていた
不誠実な生徒だったのだが、
あれからウン十年、
「ながら」で聞いていたK先生の言葉が
自分でも意外なほど記憶に残っている。
「ヴィレンドルフのヴィーナス」の
写真が教科書に出てきたとき、
先生はこうおっしゃった。
「君たちはこの写真をみてどう思う?
君たちが期待している女性の体型とは
全然違っているだろう」
男子校での授業、
「女性の体型」という言葉に
内職をしていた生徒も皆
おもわず顔をあげた。
「大きな乳房とお尻、
太ったからだは、
子孫繁栄と豊かさの象徴。
人々の願いが込められた像は、
そういった部分が強調され、
女性の体型がデフォルメされている、
そう説明されることが多い」
ここで一呼吸おいて、
先生はこう続けた。
「でもね、それは違うンだ。
どう違うかって?
今の、私の妻を見てみなさい。
まさにこのままの体型だ。
デフォルメもなにもない。
若い時は細くて美しくても
女性はみんな歳をとると
こういう体型になるンだぞ、という
覚悟をも教えてくれているンだ」
軽い冗談に笑いながらも、
「覚悟」という言葉が妙に印象に残った。
男子高校生に
「女性」への「覚悟」を
初めて意識させてくれたヴィーナス。
今回、ようやくその実物に
会うことができた。
こんな目で見ている人は
他にいないだろうけれど。
この世界史のK先生、
他にもいくつもの印象的な言葉を
私に残している。
「為政者を動かす力は4つある。
権力、暴力、金(かね)、それに女だ。
歴史はこれらの力で動いていく。
この史実にはどの力が働いたのか?
そう思いながら歴史を見ると面白い」
こんな乱暴な説を、
聞いた方の生徒は
一生忘れないのだから、
先生という職業は恐ろしい。
そんな中、
最も強く残っているのはコレ。
当時はまだ「世界遺産」という言葉は
たぶんなかったと思うが、ずいぶん昔、
NHKがかなり力を入れて
世界各国の遺産を紹介する
「未来への遺産」という番組を
放送していたことがあった。
その番組に言及したあと、
先生はこう投げかけた。
「数年前『未来への遺産』という
NHKの番組があったけれど、
あそこで紹介されていた遺産は、
ピラミッドだって
万里の長城だって
すべて
『過去から未来への遺産』だ。
じゃぁ、
『今から未来への遺産』は何だ?
君たちは未来に何を残せるンだ?」
強烈な問いだ。
先生の熱いメッセージとは裏腹に
悲しいかな最近は
「未来への負の遺産」という言葉さえ
耳にするようになってしまった。
高校の時に一度聞いたきりなのに
それから数十年消えることのない
「『今から未来への遺産』は何だ?」
の問い。
それを私に残してくれたK先生には
今でも感謝している。
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コメント
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はまさん、こんばんは。
ヴィレンドルフのヴィーナスから紐解く世界史の授業の話、とても楽しく読ませて貰いました。女性には分からない思春期の男子の姿が思い出され、ついにやけてしまいました。 はまさんは男子校だったのですね・・・うっぷんが溜まったでしょう
高校の時に授業と関係しない話がいつまでも残っていることがありますね。先に生まれた経験を話された先生の言葉は、当時の先生と同じ年になって重みが増すこともあります。
私も歳をとって文系の楽しみを知ることが出来ています・・・この頃時間が足りないことにやっと気がつき始めています。
投稿: omoromachi | 2018年2月11日 (日) 23時50分
omoromachiさん、
コメントをありがとうございました。
授業の思い出って、ほんとうに不思議です。
今回の記事に書かせていただいたような
ほんとうにさりげないひと言や、小さなエピソードが
生徒の方には妙に鮮明にいつまでも記憶に残っていたりして。
先生というのは、そういう意味でこわい職業だとも思いますし、
同時にすてきな職業だとも思います。
投稿: はま | 2018年2月17日 (土) 23時12分