オーストリア旅行記 (21) 森林先進国オーストリア
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オーストリア旅行記 (21) 森林先進国オーストリア
- 林業を「かっこいい仕事」にした秘密 -
ウィーン行の電車を待っていた
アットナング・プッハイム
(Attnang-Puchheim)駅。
ホームからはこんな列車が見える。
日本では見ることが少なくなった、
貨物列車かつ裸の材木。
そう言えば、旅行の初日、
ウィーンからザルツブルクに
向かう電車の窓からも
こんな景色を見ていた。
ハルシュタットのハイキングで
偶然目にしたのも、住宅街の中に
大量にストックされた薪(まき)だった。
生の材木や薪を見て
思い出した本はコレ。
藻谷浩介、NHK広島取材班(著)
里山資本主義
角川oneテーマ21新書
(以下水色部は本からの引用)
オーストリアの林業について
興味深い記述があったのだ。
引用が長くなってしまいそうだが
文字ばかりではつまらないので
花の写真を挿入しながら書いていきたい。
写真はすべて、ハルシュタットで
ハイキングをしながら撮ったもの。
ヨーロッパのど真ん中に、その影響を
最小限に食い止めている国がある。
それがオーストリアだ。
オーストリアと言われて
何を思い浮かべるだろうか。
モーツァルトやシューベルを生んだ
音楽の国?
ザッハトルテに代表される
チョコレートの国?
いやいや、実は
それだけではないのである。
経済の世界でも、オーストリアは
実に安定した健康優良国なのだ。
それは数々の指標が物語っている。
ジェトロが公表している
データ(2011)によれば、
失業率は、EU加盟国中最低の4.2%、
一人当たりの名目GDP(国内総生産)は
4万9688米ドルで世界11位(日本は17位)。
対内直接投資額は、2011年に
前年比3.2倍の101億6300万ユーロ、
対外直接投資額も
3.8倍の219億500万ユーロと、
対内・対外ともに
リーマンショック直前の水準まで回復した。
では、なぜ人口1000万に満たない
小さな国・オーストリアの経済が
これほどまでに安定しているのか?
その秘密こそ、里山資本主義なのだ。
オーストリアは、
前章にみた岡山県真庭市のように、
木を徹底活用して
経済の自立を目指す取り組みを、
国をあげて行っているのである。
ひとりあたりの名目GDPは
オーストリアが世界11位で、
日本は17位。
日本の方が下位なのだ。
同じくらいの大きさで、
森林面積でいうと、
日本の約15%にすぎないが、
日本全国で一年間に生産する量よりも
多少多いぐらいの丸太を生産している。
知られざる森林先進国・
オーストリアの秘密を探っていこう。
オーストリアの人々は、
最も身近な資源である木を
大切にして暮らしている。
まずは、森林先進国の基盤をなす、
山林所有者への教育を見てみてよう。
【山林所有者への教育】
授業中、
先生たちが口を酸っぱくするのが、
林業は短期の利益を追求するのではなく、
持続可能な豊かさを
追求しなければならないという理念だ。
この研修所では、
50年間手入れせず放置し続けた区画と、
そのすぐ隣に間伐などによって
人の手を入れ続けた区画を用意。
生徒たちに見比べさせ、
健康な森林がいかに美しく、
木もまっすぐ立派に育つのかを
実感させる。
そして、どの木を切っていいのか、
どの木はまだ切るべきでないのか、
先生と生徒が議論しながら学んでいく。
「森を持つなら、手入れを
しっかり行わなければならない。
手入れされることによって、
森は健康であり続ける。
それによって、
これからもずっと守られるんだ。
これがオーストリアの
林業の哲学なんだ」
日本では、
お金にならない多くの山林が、
間伐されることもなく
放置されている。
これに対し、オーストリアでは、
山林所有者に森を
すみずみまで管理することを
義務づけている。
【林業従事者は3K?】
日本では林業従事者というと、
危険、きつい、汚いといった、
いわゆる3Kのイメージがあるが、
オーストリアではどうなのだろうか。
実はオーストリアでも、
20~30年前くらいまでは、
林業はきついのにお金にならないと
認識されていたらしい。
しかし今は、
この認識は大きく改善されたという。
その理由を、森林研修所の所長、
ヨハン・ツェッシャーさんは三点
挙げている。
【3K改善の理由 その1】
作業環境が安全になった。
林業に従事する者は
みんな教育を受けることが
義務づけられたため、
学ぶ機会が増え、安全に対する意識が
飛躍的に高まった。
【3K改善の理由 その2】
山を所有する森林農家が、
森林および林業というものが、
ちゃんとお金になる産業であると
認識するようになった。
そして、それは、
きちんとした林業教育を
受ければ受けるほど、
経済的に成功できるということも。
そうした状況を
後押ししているのが
バイオマス利用の爆発的な発展だ。
これによって、
森林に新たな経済的な
付加価値ができたのだ。
逆に言えば、森林所有者が
森林に関わる動機付けが、
大きくなった。
【3K改善の理由 その3】
「これはとても重要なことだが」と
前置きして所長が強調したのは、
林業という仕事の中身が
大きく変わったことだという。
”高度で専門的な知識が求められる
かっこいい仕事”になった。
今のご時世、
ただ山の木を切っていればいいという
時代ではない。
林業に従事する以上、
経済に関することも
知っていなければいけないし、
生態系に関する知識も
なければいけない。
さらには、
最新のテクノロジーも
知る必要がある。
その一方で、林業という仕事が
体系化されるにつれて、
同僚や会社と協力しながら
仕事をする必要も高まってきた。
社会的能力も
必要とされるようにもなったのだ。
そういう風に、高度な専門性を持つ
職業に対する金銭的な対価が、
昔に比べて上昇するのは当然だろう。
林業という職業は
とてもエキサイティングな
ものになった。
誤解を恐れずにまとめてしまうと
林業を
(1) 安全な作業環境に
(2) 経済的に成功できる産業に
(3) 社会的に「かっこいい仕事」に
変化させることを
教育で実現しているわけだ。
税金を投入し、経済的に援助することが
産業を「保護」することではない。
我が国の林業再生に向けても
学ぶところは多い。
完全に話が横道に逸れてしまった。
次回はまた、
旅行記の方に戻って続けていきたい。
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