オーストリア旅行記 (10) サウンド・オブ・ミュージック(その6)
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オーストリア旅行記 (10) サウンド・オブ・ミュージック(その6)
- 岩壁馬術学校 -
オーストリアのザルツブルクを、
映画「サウンド・オブ・ミュージック」を
キーに巡っていく六回目。
これまで同様、
映画のDVD/Blu-ray
で補足・確認しながら、
振り返ってみたい。
(以降、映画からのシーンは黄色枠で)
【祝祭劇場】
世界的な音楽祭のひとつとして
知られている「ザルツブルク音楽祭」の
メイン会場となっているのが
この祝祭劇場。
ご覧の通り
大きなというか「長い」建物だが、
その起源はなんと
1607年に建てられた
大司教の「厩舎」だとか。
つまり馬小屋。
岩山に沿う細長い形状をしており、
その長さは225mにもなる。
現在、「祝祭劇場」には
大小2つのホールと、
岩山を削ってつくられた
「フェルゼンライトシューレ」の
合計3つの劇場がある。
訪問したときは
音楽祭のちょうど10日前だったので、
スケジュールが大きく張り出されていたが、
まさに3つの劇場フル回転のプロブラムが
組まれていた。
道を挟んだ対面に、
同じように「長く」広がっているのは
大学の図書館だ。
正面入口前に広がる
マックス・ラインハルト広場と呼ばれる
広場からは、
左手にフランティスカーナ教会、
右手にザンクト・ペーター教会、
の塔が見える。
ザンクト・ペーター教会の塔の後ろには、
ホーエンザルツブルク城塞が。
城塞の威容もかなり見慣れてきた。
さて、この祝祭劇場。
内部を案内してくれる
ガイドツアーがあるという。
ツアーの時間がわからなかったので、
ツアーオフィスを兼ねた
劇場のギフトショップに行って
事前に時間を尋ねてみた。
ザルツブルク音楽祭が
10日後に迫っていたので、
公開エリアに制限があるようだったが、
まぁ、準備の様子も含めて、
雰囲気が感じられればそれもうれしい。
妻と相談のうえ、
翌朝9時のツアーに参加することにした。
「予約はできないので、
予定時間の15分前に来て下さい」
翌朝、集合場所に行くと、
12人が集まっていた。
ガイドさんは、
*ザルツブルク音楽祭が
10日後に迫っているので、
劇場内では様々な準備が進められており、
いつもは案内している大ホールに
今日は案内できないこと。
*小ホールである
モーツァルトホールは案内できるが、
こちらも今日はリハーサル中ゆえ、
ホール内での写真は禁止されていること。
などなど、丁寧に音楽祭前の
特殊な状況を説明し、
理解と了解を求めていた。
【フェルゼンライトシューレ】
ガイドツアーで最初に案内されたのは、
最も見たかった
「フェルゼンライトシューレ」だった。
「サウンド・オブ・ミュージック」の終盤、
一家がコンクールで歌声を披露する、
実に印象的な劇場だ。
岩山の山肌を掘った岩むき出しの面が、
そのまま劇場の奥の壁となっている。
つまり、岩山に張り付くように
劇場が作られている。
フェルゼンライトシューレの意味は
Felsen(岩壁)、
Reitschule(馬術学校)。
1693年、
ヨハン・エルンスト・フォン・トゥン大司教
(Johann Ernst von Thun)は、
大聖堂建築のための採石場跡に、
馬術学校を設立した。
そこでは、乗馬のトーナメントも
行われていたという。
舞台を取り囲んでいる三層に重なった
96のアーチからなる岩盤は、
馬術学校当時の観客席である。
ガイドツアーの説明は
「ドイツ語」と「英語」で進んでいく。
二人のガイドさんがいるわけではなく、
ひとりで二言語を担当。
ちなみに、その時の我々12人のグループは
8人がドイツ語、4人が英語、を希望。
ドイツ語での説明の後、
英語組4人が集められて英語で説明を聞く、
を繰り返す感じでツアーが続く。
ただ、ドイツ語がわからないので
これは単なる想像だが、
明らかにドイツ語の説明の方が
詳しいことまで触れている気がする。
もちろん、説明というのは
ただ詳しければいいというわけではなく、
こちらの英語力からすると
要点のみの短い説明の方が
かえって親切、とも言えなくはないが、
長いドイツ語の説明のあと、
英語の説明が妙に短かったりすると
ソフィア・コッポラ監督の映画
「ロスト・イン・トランスレーション」
を思い出してしまう。
(ソフィア・コッポラ監督の
東京を舞台にしたこの映画、
好き嫌いの別れる映画のひとつだが、
私は大好きだ。踏み込むと
話がどんどん横道に逸れそうなので
この映画の話はまた改めて)
題名の[lost in translation]とは
あえて訳せばまさに
「翻訳で失われるもの」という感じだ。
閑話休題
音楽祭が近いので、舞台上では
人と物が慌ただしく動いており、
リハーサルというかテストが続いていた。
映画ではこんなふうに使われている。
全体がよく見える
コンクールに向けての昼間の練習風景から。
空が見えていることにご注目。
50年以上も前のロケ時点では、
このようなオープンエアの
構造だったようだが、
現在は、開閉式の屋根がついている。
映画でのコンクールの本番は「夜」で
スポットライトが当たってこんな感じ。
それにしても、馬術学校の観客席を
逆に舞台にしてしまおうという発想には
ほんとうに驚かされる。
ちなみに、岩山そのままが
舞台となっているため、
「舞台裏」というものがない。
なので上演にあたっては大道具を含め
いろいろな工夫が必要だ、と説明していた。
劇場としていろいろ不自由な部分が
あるにも関わらず、
フルトヴェングラーやカラヤンといった
往年の名指揮者が、今も語り継がれる
伝説的なオペラを残した舞台でもある。
個人的には
「ここさえちゃんと見られれば」の
フェルゼンライトシューレが見られたので
それだけで大満足だったが、
フェルゼンライトシューレを出たあとは
モーツァルトホールに案内された。
ただ、最初に言われた通り、
こちらの撮影は許可されていなかったので、
残念ながら写真はなし。
公開のオペラに向けて、大道具も含め
舞台上の準備はかなり進んでいた。
モーツァルトホールを出たところには
横板の隙間の先に、こんなオブジェも。
小さな白い光の列はすべてビーズ。
地元オーストリアに本社がある、
ビーズで有名な
スワロフスキー社が作成したもの。
「モーツァルトの髪型」を表現したもの、
と言われているようだが、
オブジェ前の空間が狭く、物理的に
遠くに離れて見ることができないので、
ガイドさん自身も「確認のしようがない」
と説明して笑いをとっていた。
なお、劇場は幕間を過ごすロビーも
一見の価値がある。
広さや床の美しさにも目を惹かれるが、
他にはない大きな特徴が2点ある。
ひとつは、岩山の山肌が岩盤むき出しで
直接奥の壁となっている点。
フェルゼンライトシューレと同様、
ロビーは岩山に直接張り付いており、
奥の壁は、岩山の岩盤そのままだ。
近くに寄ってみると、
粗い岩肌の感じがよくわかる。
もうひとつの特徴は、
『テュルケンシュテッヘン』
(Türkenstechen)と呼ばれる
天井の巨大なフレスコ画。
しかもこのフレスコ画、
この大きさを活かした
トリックアートまで仕込まれている。
ちょうど岩盤ギリギリの
一番奥の部分。
見上げながら寄っていくと
描かれた柱がグゥーっと空に向かって
立ち上がっていく。
全体はまさに馬を中心に描かれた
巨大なものだが、
奥の一角だけ
仕掛けで遊んでいる感じ。
なお、入ってすぐのロビーは、
テュルケンシュテッヘンとは全く違う
こんな雰囲気の画で囲まれているが、
これは第二次世界大戦の時に焼けてしまい、
その後以前のように修復されたもので
特に古いものというわけではないようだ。
映画のほうも
「コーラスコンクール」まで来た(?)ので、
サウンド・オブ・ミュージック関連の
ネタは、
あともう一回書いて一区切りとしたい。
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