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2017年5月21日 (日)

記憶は正確じゃダメ

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記憶は正確じゃダメ

- ゆっくり学習することの意味 -

 

前回の、
「脳は体が作る」 に引き続いて、

池谷裕二 著
進化しすぎた脳
― 中高生と語る
  「大脳生理学」の最前線
(以下水色部本からの引用)

から、脳の話をもう少し続けたい。
題名通り中高生との対話で
話は進んでいく。

今日のテーマは「記憶」

 

こんな話から始まっている。

たとえば何かを見た時、見えたものを
パシャッと写真に撮ったかのように
覚えるというのは、
コンピュータだったらできることだが、
人間はそんなことをしていない。

それはどうしてなのだろう?

著者池谷さんは、
最初にこう言い切っている。

なんでかわかる?

記憶というのは正確じゃダメで、
あいまいであることが絶対必要。

「正確じゃダメ」
「曖昧であることが絶対に必要」

とは、どういうことだろう。

いくつかの例で考えてみると
はっきりしてくる。

たとえば僕は今日
この緑色のチェック柄の服を着てるね。
そしてこんな髪型だね。

もし記憶が完璧だったら、
次に僕と会ったときに、
着てる服が違ったり、
髪に寝癖がついていたりしたら
別人になっちゃうんじゃない。

写真のように覚える、とは
絵としては完璧でも、
特徴抽出はしていない、ということ。

そのことが伝わりきれてない、というか
イメージしきれていない学生さんから
こんな質問がでた。

100%そのままではないけど、
それでもやっぱり声色(こわいろ)とか、
そこまでは変わらないんじゃないですか。
顔の形とか・・・

まさに期待した質問。
池谷さんはすかさず答える。

そう、だから脳は
そういう特徴を抽出してるんだ。

完全に覚えるのでもなく、
また、完全に忘れちゃうんでもなく、
不変の共通項を記憶しているんだ。

洋服や髪型はもちろん、
時間経過による老(ふ)けや
後ろ姿にだって対応できる
人間の脳が持つ特徴抽出能力。

写真のような記憶では、
全く応用がきかない。

そういうときに
100%完璧な記憶というのは意味がない
だって、同じ状況というのは
もう二度とはこない
んだから。

環境は絶えず変化する。

だから、人間というのは
見たものそのものを覚えるんじゃなくて、
そこに共通している何かを
無意識に選びだそうとする。

特徴抽出の最もわかりやすい例は、
そう「文字」だ。

もっと端的な例では、文字がそうだ。
僕が黒板に書いた字は汚い。
でも、みんな読めるよね。

これだって、
「文字の特徴はこうだ」という
共通したルールがあるから
読める
んだよね。

 

リンゴだって、
よく見れば同じものは2個ないのに、
ちゃんと分類できているのは、
まさに特徴抽出ができているから。

リンゴって一個一個形が違うけど、
どれも〈リンゴ〉ってわかるでしょ


まさか、世の中に存在する
すべての〈リンゴ〉のパターンが
脳の中に完璧に準備されていて、
そのつど目の前にある現実の〈リンゴ〉と
照合しながら判新しているわけじゃない。

世の中のリンゴは多すぎる。

むしろ、脳の中にはきっと
リンゴのモデル〈理想のリンゴ〉があって、
ある最低の条件を満たせば、
いま見ているものをリンゴだと
判断できるようになっているんだと思う。

人間以外の動物はどうだろう。
写真のようにそのまま正確に覚えるのか、
特徴抽出して覚えるのか。

動物相手に実験していると
わかるんだけど、
下等な動物ほど記憶が正確でね
つまり融通が利かない。

しかも一回覚えた記憶は
なかなか消えない。

「雀百まで踊り忘れず」
という言葉もあって、
うわぁ、すごい記憶力だな・・・と、
一瞬尊敬に近い気持ちも
生まれるかもしれないけど、
そういう記憶は
基本的に役に立たない

思ってもらったほうがいい。
だって、応用が利かないんだから。

 

さて、特徴抽出しようとすると、
当然時間がかかることになる。

違う時間、違う環境での様子を
関連付ける必要があるからだ。

記憶があいまいであることは
応用という観点から重要なポイント。

人間の脳では記憶は
ほかの動物に例を見ないほど
あいまいでいい加減
なんだけど、
それこそが人間の臨機応変な
適応力の源にもなっているわけだ。

そのあいまい性を確保するために、
脳は何をしているかというと、
ものごとをゆっくり学習するように
している
んだよね。

学習の速度がある程度遅いというのが
重要なの、特徴を抽出するために。

(中略)

そのためには
学習のスピードがあまりにも速いと、
特徴を抽出できない

時間が必要な例をちょっと見てみよう。

たとえば、きみらが池谷という人間を
記憶する過程を考えてみようかな。

いま僕は正面を向いて立っているでしょ。
その姿だけを見て
「これが池谷」というのを
写真のように覚えちゃったとするでしょ。

そうすると、次に僕が右を向いたら、
その姿は別人になっちゃうよね。

そこで、
「右を向いた姿こそが池谷だ」と、
もう一回完璧に覚え直してもらったら、
こんどは右向きの姿だけが
池谷になっちゃって、正面姿は
違う人になっちゃうでしょ。
わかるかな。

ふたつの姿を結びつけるためには、
<記憶の保留>が必要なんだ。

つまり、正面姿の池谷を見ても
「これは池谷かもしれないけど、
 ここは判断を保留しておこう」。

そして、右を向いた池谷を見て
「ふ-ん、これも池谷なんだな。
 ということはさっきの正面姿との
 共通点は何だろうか」
とまたも記憶を保留する。

そうやって、ゆっくりゆっくり
脳は判断していく
んだ。
もちろん無意識にね。

もし、学習のスピードが速いと、
表面に見えている浅い情報だけに
振り回されてしまって、
その奥にひそんでいるものが
見えてこなくなっちゃうのね。

関連付けるための<記憶の保留>か。

スピードが速いと、
「表面に見えている
 浅い情報だけに振り回さ」れる。
なんだか、記憶だけの話とは
思えなくなってきた。

 

 

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コメント

はまさん、こんばんは。

人間の記憶の凄さですね。曖昧さの中でも要点を捉えているので応用を効かすことが出来る。人間が他と比べて急速に進化した原因の1つだと思いました。

本題とはちがいますが、こんな抽象的な記憶をAIが学習しだしています。未来の人間がAIに支配されないためには何が必要なのかを考える必要が出て来たのかも知れませんね。

omoromachiさん、
コメントをありがとうございます。

>こんな抽象的な記憶をAIが学習しだしています。
ここのところAIは、深層学習などの飛躍的な進歩で
思ってもみなかったような成果を叩き出していますね。

「ネコにはヒゲがある」といった
人間が言葉で表現するような特徴抽出とは
まったく違うアプローチで、
まさにAIとしての学習をしているわけで。

ただ、どんなアプローチをとるにせよ
アウトプットに価値を見出すのは人間だけですので、
人間は「価値を評価する眼」を
鍛えるしかないと思っています。

AIのつまらない暴走に振り回されることだけは
絶対に避けなければならないと思いますが、
共存としてどんな未来があるのか、
楽しみでもあります。

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