深谷の煉瓦(レンガ)
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深谷の煉瓦(レンガ)
- 東京駅から迎賓館まで -
埼玉県深谷市というと、
深谷ネギというネギが有名だが、
ここは明治の大実業家
「渋沢栄一」の出身地でもある。
第一国立銀行(現みずほ銀行)や地方銀行、
東京瓦斯(ガス)や王子製紙、
帝国ホテルやキリンビール、
一橋大学、同志社大学、日本女子大学校
東京海上火災保険や東京証券取引所、
などなど
渋沢栄一が設立に関わった企業や学校は
多種多様でその数、実に500以上。
まさに「日本資本主義の父」
と呼ばれるにふさわしい輝かしい実績。
どの会社も組織も、その後の発展と
日本社会への影響度、貢献度を思うと、
一生の間にこれほど多様な仕事が
できるものだろうかと、
にわかには信じられないほどだ。
そんな渋沢が
設立に関わった会社のひとつに
「日本煉瓦製造株式会社」がある。
1887年(明治20年)に設立。
明治になって、急速に増え始めた
欧米に倣った近代建造物のための
赤レンガを製造、販売していた。
会社は2006年に廃業してしまうが、
レンガを焼いていた窯(かま)は、
重要文化財として今でも深谷に残っている。
実際に窯を見に行ってみた。
【ホフマン輪窯(わがま)】
ドイツ人ホフマンが考案した
煉瓦の連続焼成が可能な輪窯(わがま)。
明治40年の建造で、
長さ56.5m、幅20m、高さ3.3mの
煉瓦造り。
陸上のトラックのような形状の
輪になっており、一周約120メートル。
見学は無料だが、
丁寧にも説明員がついてくれる。
ヘルメットを被り、
窯の中に入って説明を聞くことができる。
今は仕切りはないが、
内部を18の部屋に分け、
窯詰め・予熱・焼成・冷却・窯出しの
工程を順次行いながら移動し、
およそ半月かけて窯を一周したとのこと。
燃料の石炭は、粉にして上の穴から
15分おきに投入していたらしいが、
実際に窯に入ると、
その穴を下から見上げることができる。
生産能力は月産65万個。
1968年(昭和43年)まで
約60年間煉瓦を焼き続けた。
木造平屋の会社の旧事務所も
輪窯と一緒に
国の重要文化財となっているが、
内部は今は史料館となっている。
あんな大きな窯が、
最盛期には6基もあったらしい。
各窯建屋の内部はこんな感じ。
一番下に窯。
煙突の途中にあるハの字にご注目。
窯の上にあった建屋の屋根の跡。
この屋根の跡は今も煙突に残る。
あの高さにまで建屋があったわけだ。
さて、この大規模な工場で作られた煉瓦は、
いったいどこに使われていたのか。
史料館で100円で購入した
「深谷の煉瓦物語」という小冊子から
代表的な建造物を紹介したい。
(1) 東京駅 丸ノ内本屋
明治41年に着工し、大正3年に完成。
辰野金吾の設計による
国内最大級の煉瓦建築。
深谷の煉瓦が約833万個使われた。
(2) 旧信越本線碓氷第三橋梁
(碓氷峠鉄道施設〉
横川~軽井沢間の碓氷峠鉄道敷設工事は
明治24年に開始。
けわしい峠を縫う11.2km余りの区間には
26ものトンネルと18の橋が必要で
そのほとんどが煉瓦で作られた。
使った煉瓦1800万個。
500人以上の尊い犠牲を出しながら
明治26年初めに開通。
(3) 法務省旧本館 明治28年完成
(4) 日本銀行本店本館 明治23-29年
(5) 表慶館 明治41年完成
(6) 旧横浜正金銀行本店本館
明治37年完成
(現・神奈川県立歴史博物館)
(7) 旧東宮御所(迎賓館赤坂離宮)
明治41年
(1)-(6)はすべて重要文化財、
(7)は国宝。
(4)-(7)は、外見だけを見ると
石造建築のように見えるが、
実はいすれも深谷の煉瓦を使って建設され、
表面に石材を張って仕上げたものらしい。
鉄筋コンクリート建築に
とって代わられるまで、
本格的な西洋建築の多くは
煉瓦造だったとのこと。
建築・建造物に限らないが、
開国後、短期間でよくここまで
新技術・新文化を取り込んだものだ。
欧米列強に追いつこうとしていた
日本の勢いを、強く強く実感できる。
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