渤海からのカレンダー
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渤海からのカレンダー
- 宣明暦(せんみょうれき)の渡来 -
前回、「日本海」について
この本を紹介させていただいた。
蒲生俊敬著
「日本海 その深層で起こっていること」
講談社ブルーバックス
この本、ブルーバックスなので、
海水の「熱塩循環」を始め
科学的な視点での解説が多いのだが、
日本海に関する歴史的なエピソードも
数多く盛り込まれている。
その中からひとつご紹介。
(以下水色部、本からの引用)
高句麗の後継として698年に建国された
渤海(ぼっかい)
(当初の国名は振で、926年に滅亡)
とのあいだで実施された国際交流
(遺渤海使)がよく知られています。
今から1300年も前の話だ。
蝦夷(えぞ)地に来着したのをきっかけに、
翌728年には、わが国から初めての
遣渤海使が日本海を渡ります。
遣渤海使は811年の15回めで終了しますが、
渤海はその後も熱心に使節を派遣し続け、
929年の34回めまで継続されました。
727年-929年この間だけで約200年。
渤海使の推定交易ルートが下図。
なお、参考にしているのは、
高瀬重雄(1984)
「日本海文化の形成」名著出版
秋田県能代から島根県松江(千酌)、
そして平城京まで、
なんと多くのところと繋がりがあったことか。
秋から冬にかけての北西季節風を利用して
日本海を横断し、対馬暖流に乗って
日本海沿岸の港に到着しました。
一方、帰路は4~8月に日本海を北上し、
リマン寒流を利用して渤海沿岸に
到着していたと思われます。
彼らは航海術に長(た)けていたようで、
海路図からは日本海の海流を経験的に
うまく利用していたようすが見てとれます。
古い話とはいえ、
航海術はこの時点ですでに長い歴史があり、
風や海流をうまく利用していたようだ。
新羅と対立しており、同国を牽制するために、
やはり新羅と敵対していた
わが国との連係を求めました。
しかし、まもなく
新羅との緊張状態が緩和したことによって
軍事同盟的な色彩は薄れ、渤海との関係は
交易を中心とする文化的なものへと
変わっていきます。
軍事目的から文化交流へ。
では、実際にはどんなものが
やりとりされていたのだろう?
貂(てん)・熊・豹・虎などの毛皮や、
人参、蜂蜜、陶器類、仏具、経典などが
わが国にもたらされました。
一方わが国からは、
絹などの高級な繊維加工品、黄金や水銀、
工芸品、つばき油、金漆(こしあぶら)などが
輸出されました。
養蚕のあまりできない渤海で、
絹製品はとりわけ珍重されたといいます。
そして、このルートで輸入された
もっと大きなもの。
それは、その後800年以上に渡って
日本で使われることになる「カレンダー」だ。
唐から伝えられた貴重な文物があります。
859年の渤海使によってもたらされた
「宣明暦(せんみょうれき)」です。
当時の唐で使用されていた
高精度の太陰太陽暦であるこの暦は、
862年から
江戸時代中期にあたる1684年まで、
実に822年間もの長きにわたって使用され、
年月日に基づく人々の
日常的生活の拠りどころとなりました。
800年間も使われた宣明歴。
その入国のルートとなったのが、
日本海だったようだ。
宣明歴も1685年には、
輸入物ではなく、日本人
渋川春海の手によって編纂された和暦、
貞享暦(じょうきょうれき)に
改暦される。
渋川春海については、
冲方丁著『天地明察(てんちめいさつ)』
で広く知られるようになった。
貞享暦のほうは、
70年の寿命だったようだが。
2016年も年の瀬。
さてさて、来年は
どんなカレンダーになることでしょう。
今年もご訪問ありがとうございました。
どうぞ、よいお年をお迎え下さい。
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