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2016年12月

2016年12月25日 (日)

渤海からのカレンダー

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渤海からのカレンダー

- 宣明暦(せんみょうれき)の渡来 -

 

前回、「日本海」について
この本を紹介させていただいた。

 蒲生俊敬著
 「日本海 その深層で起こっていること」
 講談社ブルーバックス

この本、ブルーバックスなので、
海水の「熱塩循環」を始め
科学的な視点での解説が多いのだが、
日本海に関する歴史的なエピソードも
数多く盛り込まれている。

その中からひとつご紹介。
(以下水色部、本からの引用)

 8世紀から10世紀にかけては、
高句麗の後継として698年に建国された
渤海(ぼっかい)
(当初の国名は振で、926年に滅亡)
とのあいだで実施された国際交流
(遺渤海使)がよく知られています。

今から1300年も前の話だ。

 

727年に渤海からの使節が
蝦夷(えぞ)地に来着したのをきっかけに、
翌728年には、わが国から初めての
遣渤海使が日本海を渡ります。

遣渤海使は811年の15回めで終了しますが、
渤海はその後も熱心に使節を派遣し続け、
929年の34回めまで継続されました。

727年-929年この間だけで約200年。

渤海使の推定交易ルートが下図。
なお、参考にしているのは、
 高瀬重雄(1984)
 「日本海文化の形成」名著出版

Nihonkai

秋田県能代から島根県松江(千酌)、
そして平城京まで、
なんと多くのところと繋がりがあったことか。

 

渤海からの使節は、
秋から冬にかけての北西季節風を利用して
日本海を横断し、対馬暖流に乗って
日本海沿岸の港に到着しました。

一方、帰路は4~8月に日本海を北上し、
リマン寒流を利用して渤海沿岸に
到着していたと思われます。

彼らは航海術に長(た)けていたようで、
海路図からは日本海の海流を経験的に
うまく利用していた
ようすが見てとれます。

古い話とはいえ、
航海術はこの時点ですでに長い歴史があり、
風や海流をうまく利用していたようだ。

 

 交流が始まった当初の渤海は
新羅と対立しており、同国を牽制するために、
やはり新羅と敵対していた
わが国との連係を求めました。

しかし、まもなく
新羅との緊張状態が緩和したことによって
軍事同盟的な色彩は薄れ、渤海との関係は
交易を中心とする文化的なものへ
変わっていきます。

軍事目的から文化交流へ。

では、実際にはどんなものが
やりとりされていたのだろう?

 渤海からは、
貂(てん)・熊・豹・虎などの毛皮や、
人参、蜂蜜、陶器類、仏具、経典などが
わが国にもたらされました。

一方わが国からは、
絹などの高級な繊維加工品、黄金や水銀、
工芸品、つばき油、金漆(こしあぶら)などが
輸出されました。

養蚕のあまりできない渤海で、
絹製品はとりわけ珍重されたといいます。

そして、このルートで輸入された
もっと大きなもの。

それは、その後800年以上に渡って
日本で使われることになる「カレンダー」だ。

 この時代に、渤海を経由して
唐から伝えられた貴重な文物があります。

859年の渤海使によってもたらされた
宣明暦(せんみょうれき)」です。

当時の唐で使用されていた
高精度の太陰太陽暦であるこの暦は、
862年から
江戸時代中期にあたる1684年まで、
実に822年間もの長きにわたって使用され、
年月日に基づく人々の
日常的生活の拠りどころとなりました。

800年間も使われた宣明歴。
その入国のルートとなったのが、
日本海だったようだ。

宣明歴も1685年には、
輸入物ではなく、日本人
渋川春海の手によって編纂された和暦、
貞享暦(じょうきょうれき)
改暦される。

渋川春海については、
冲方丁著『天地明察(てんちめいさつ)』
で広く知られるようになった。

貞享暦のほうは、
70年の寿命だったようだが。

 

2016年も年の瀬。
さてさて、来年は
どんなカレンダーになることでしょう。

今年もご訪問ありがとうございました。
どうぞ、よいお年をお迎え下さい。

 

 

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2016年12月18日 (日)

地図二題

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地図二題

- 北方領土と日本海 -

 

ロシアのプーチン大統領が
2016年12月15日,16日訪日。

安倍首相と日露首脳会談が開かれたが、
昨日17日の朝日新聞一面は、
相変わらずこんな見出しになっていた。

A161217hoppou

「領土交渉は進展なし」

手もとに米国で買った
 HAMMOND
 ODYSSEY ATLAS OF THE World
という地図帳がある。

米国産のこの地図に、
北方四島を含む国境は
どんなふうに描かれているのだろう?
ちょっと見てみよう。

Russia2

国境線は国後島の南側。
すぐ北側にはRUSSIAの文字が。
やはりロシア領になっている。
ただしコメントが添えてある。
(ご興味があればクリックしてご覧あれ)

こちらにも。

Russia1

コメント部だけを書くと

Occupied by Russia since 1945,
 claimed by Japan.

「1945年からロシアに占領されており、
 日本がクレームしている」

うーん、なんとも冷静で客観的な記述だ。

外国の地図は、
その国からの視点を教えてくれる。

 

グーグルマップ等、
Web版の地図の登場と
スマホやカーナビの普及で
地図帳の大きな制約だった、
「固定縮尺」と「ページ割」からは
今はすっかり開放された。

技術的な改革が進む一方で、
「編集の意図」を前面に押し出して
興味深い「形」を見せてくれている
地図もある。

佐渡市が、
「環境にやさしい歴史と文化の島」として、
東アジア諸国との交流に視点をおいて
平成22年3月に刊行した地図

逆さ日本地図「東アジア交流地図」

もそのひとつ。

佐渡を中心に、
北の札幌市と南の福岡市を結ぶ線が
水平方向になるように回転。
大陸を下部に、
日本列島を上部に配置している。

そうするとこんな姿が現れる。

Easia

たったこれだけのことなのに、
見慣れた日本列島を見失ってしまうほど。

日本海がいかに閉じた海なのかもよくわかる。

この地図、
購入はこちらから簡単にできる。

なお、「日本海」については、
今年出版された

 蒲生俊敬著
 「日本海 その深層で起こっていること」
 講談社ブルーバックス


がたいへんおもしろい。

日本海を取り囲む4つの海峡
間宮、宗谷、津軽、対馬は
幅が狭いだけでなく、どれも浅い。
そのため、日本海は
まさに海洋としての閉鎖性が高い。
そのことにどういう意味があるのか。

内容については、
改めて別な機会に紹介したいと思う。

お正月の読書に向けて、
本を探している方にはお薦め。
直接は見えないけれど、
「その深層で起こっていること」に
思いを馳せることができる。

 

 

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2016年12月11日 (日)

読書の3R

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読書の3R

- きよはる、あきみ、きんのすけ -

 

本屋の立ち読みでの記憶なので、
雑誌名もコメントした方の名前も
思い出せないのだが、
雑誌の「読書」特集の記事の中で、

「読む本はどうやって選ぶのですか?」

の質問に、

「読書は3Rです」


と答えていた方がいた。

3Rとは、
 Recommend (推薦)
 Respect (敬意)
 Risk (リスク)


自分にとって信頼できる、ウマが合う、
そういう方の「推薦」図書を素直に聞く。

どんな本であれ、著者には
本を書きたいほどの衝動、熱意があったはず。
その思いに対しては常に「敬意」を払って読む。

どんなに人がおもしろい、すばらしい、と言っても
自分にとっては全く響かない本もある。
ハズレはあってあたりまえ。
「当たり」とは限らない「リスク」を
いちいち気にしない。

うまいことを言うなぁ、と感心したので、
3Rだけは今でも忘れずにいる。

なぜ、こんなことを急に書いているのか。

ここここ
井上陽水さん自身の言葉を続けて書いたが、
陽水さんで、もうひとつ思い出したのが、
この本だったからだ。

小林聡美著「読まされ図書室」
宝島社文庫


すごい題名。「読まされ」って。

著名人の推薦図書を小林さんに無理やり読ませ、
感想を聞いちゃおう、
というちょっと変わった本。
3RのRecommendだけで突っ走っている。

まぁ、でも、確かに小林さんなら何を読んでも、
ちょっとおもしろい感想を言ってくれそうではある。
不得意な分野であってもRespectを忘れていないし。

で、この本に、推薦者として井上陽水さんが登場する。
陽水さんは
松本清張の短編時代小説「白梅の香」を推薦。

さて、小林さんはどう読むか?

不得意領域への警戒感いっぱいに感想は始まる。
(以下水色部本からの引用)

井上陽水さんが懸念するように、
私のこれまでの人生において、
松本清張はあまりにもなじみのない世界だ。

そもそも、
ごくごく一般的なイメージの松本清張の世界は、
私が一番苦手とする領域である。
推理小説。サスペンス。

ただでさえ心配事や不安の多い日常の生活の中で、
なぜにわざわざまた違った不安や緊張感を
味わいたいのか、まずその心理が理解できない

なるべく頭を悩まさずに、ぼーっと、
ひたすらぼーっと暮らしたい私には、
そういう趣味はまったく理解できないのである。

「なぜにわざわざまた・・」
なんとも小林さんらしいコメントだ。

『白梅の香』は推理小説やサスペンスではなく
時代小説なのだが、そちらも苦手だったようだ。

それでも、ある方法により楽しんでしまうあたり、
さすが小林さん。

 と、いままで休止状態だった脳の部分を
フル活動させて、初めて読んだ松本清張
偉そうなことは何ひとつ言えないが、
時代小説を楽しめたのは大いなる進歩である。

どんな方法をとったのかは本に譲るが、
最後、こんな小ネタが披露される。

 北九州が誇る松本清張と井上陽水
二人に共通することは、
作品におけるそのクールなテンションと
本名が訓読み(きよはる・あきみ)であることも
興味深い発見
であった。

松本清張の本も、
井上陽水の音楽も、どちらも好きで
かなり読んだり聴いたりして来たが、
本名のことはどちらも知らなかった。

ただ、「きよはる」「あきみ」では、
あの小説も、あの音楽も、
書けなかったような気がしてしまうのは
なぜなのだろう?

そういえば、夏目漱石の本名
夏目金之助(きんのすけ)を知った時も
同じような感覚に襲われた。

「せいちょう」「ようすい」「そうせき」
これらの音は、それくらい強く、
彼らの作品のテイストの一部になっている気がする。

 

 

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2016年12月 4日 (日)

ただあなたにGood-Bye

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ただあなたにGood-Bye

- ラジオは言葉を探す間(ま)も -

 

前回に引き続き、

2016年11月23日放送の
井上陽水の歌の世界を読み解く特別番組

『ミュージック ドキュメント 
 井上陽水×ロバート キャンベル
 「言の葉の海に漕ぎ出して」』


というTOKYO FMのラジオ番組から
陽水さんの言葉を紹介したい。

 

まずは、テレビのニュース番組の
エンディングでも使われていた
「最後のニュース」を。

最後の、
 ♪ただあなたにGood-Bye
の歌詞を意識してお聞きあれ。

最後のニュース
   作詞・作曲 井上陽水


闇に沈む月の裏の顔をあばき
青い砂や石をどこへ運び去ったの
忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ
みんな泣いたあとで誰を忘れ去ったの

飛行船が赤く空に燃え上がって
のどかだった空はあれが最後だったの
地球上に人があふれだして
海の先の先へこぼれ落ちてしまうの

今 あなたにGood-Night
ただあなたにGood-Bye

ある映画の最後にこの曲が使われ、
その部分の英語字幕を頼まれたキャンベルさん。
一度訳して、陽水さんに送るのだが、
最後の♪ただあなたにGood-Bye
の部分で、ダメ出しを食らってしまう。


キャンベル:
 ぼくはね、無意識にですね
 ただあなたにgood-bye
 というのは、
 あなたに向けてgood-bye
 というふうに思って、
 just for you good-bye
 just for you だと。

陽水:
 あなた、そうか
 あなただけに。

キャンベル:
 あなたに向けて。

陽水:
 じゃないんじゃない
 ていうこと言ったのかな。

キャンベル:
 うん、そういうふうに言われて
 ハッとしたんですね。
 ぜんぜんそのことに気がつかなかった。

陽水:
 ただ、あなたに、
 ちょっと違うかもね。

さて、陽水さん、
「just for you」が、
どう違うと言いたかったのだろう?

キャンベルさんが
「どんなふうに?」と再度問う。

ラジオは、
言葉を探す、迷う間(ま)も伝わる
からいい。

キャンベル:
 えっと、どんなふうに?

陽水:
 うーん、
 たくさんいるけれど、
 ただあなたに、ではなくて、
 なんかいろいろかける言葉も
 いろいろあるかもしれないけど、
 まぁ、good-bye 
 ただこの言葉ぐらいかな

 みたいなニュアンスですかね。

キャンベル:
 そうか、そうか。

多くの人の中の「あなた」ではなく、
多くの言葉の中の「good-bye」。


キャンベル:
 just for you good-bye
 ではなくて
 ぼくはそれを書き換えて
 また送り返したのですけれども
 simply to you good-bye
 というふうにさせてもらったんですね。

 たぶんそれはそのまま映画のエンドロールの
 字幕になってたと思うんですけれど

 simplyですね。

 いろんな人がいる中でひとりじゃなくて
 いろんなことが、ここでほんとは言えるし、
 言わないといけないかもしれないンだけど、
 でも、いまそっとgood-bye
 そっちだな、という。

陽水:
 まぁ、いろいろ言葉もあるけれど

キャンベル:
 すごく、
 今日のニュースにもいろいろなことがあり、
 この歌の中に歌われている
 いろんな環境の問題であったり、
 暴力、戦争、いろんなことがあるけれど、
 あなたにGood-ByeというGood-Night

いろいろ言葉もあるけれど、
ただgood-bye。

どこをどう切っても、
陽水さんらしさが溢れている。

 

 

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