« 宇宙が音楽か、音楽が宇宙か | トップページ | 学ぶことの美しさと強さ »

2016年11月 6日 (日)

打席のピッチャーへ

(全体の目次はこちら


打席のピッチャーへ

- 球種に込められたメッセージ -

 

今年2016年のプロ野球・日本シリーズは
日本ハムの10年ぶりの日本一で終わった。

翌日の新聞には
 「41歳黒田 8球のメッセージ」
なる見出しでこんな記事があった。

A161030kuroda

(以下水色部、
 朝日新聞2016年10月30日の記事からの引用)

  投手と打者の「二刀流」を極めようとする
日本ハムの大谷翔平選手と、
現役引退を表明して臨んだ広島・黒田博樹投手。

22歳と41歳には、
言葉を交わさない野球のプレーを通しての
会話
があった。

「プレーを通しての会話」
どんな会話があったのだろう。


直接対戦したのは札幌ドームでの第3戦。

黒田が先発、大谷が3番・指名打者だった。

 3打席、計8球。二塁打2本を放った大谷には
安打よりうれしかったことがある。

ほぼ全球種、打席で見られた。
 間合いだったり、ボールの軌道だったり

 勉強になりました」。

2人だけの空間で繰り広げられた駆け引きを、
すがすがしい表情で振り返った。

黒田投手は、大谷選手に、
ほぼ全部の球種を披露していたのだ。

大リーグを目標に据える大谷選手にとって、
ドジャース、ヤンキースで
5年連続2桁勝利を挙げた黒田投手の球を
打席から見られる貴重なチャンス。

二度とない機会への期待に、大先輩は応え、
後輩はそのメッセージを受け取った。

いい話だ。

真剣勝負の中、
ピッチャー同士だからこそ伝わるメッセージ。

 

2010年5月15日の交流戦、
広島-日本ハム(マツダ)。

広島は当時22歳の前田健太(現ドジャース)、
日本ハムは同じく
23歳のダルビッシュ有(現レンジヤーズ)が
先発した。

セ・リーグの本拠で指名打者制はなく、
お互いが打席に立った。

ダルビッシュは当時、
「(前田が)どんな球を投げるのか
 興味があった。
 相手も僕の球を楽しみにしていたと思うので、
 ほとんど全部の球種を投げた
」と明かしている。

この日のことは
 「ダルからマエケンへ『10球』メッセージ」
なる見出しで、
高山通史記者が記事を書いている。
(以下薄緑色部、日刊スポーツの記事からの引用)

ダルビッシュは3歳年下、
同じ両リーグを代表する本格派右腕へ
「10球」のメッセージを送っていた。

試合後に
向こうも興味あると思うので、
 いろいろな球を投げた
」と明かした。

その試合で、打者の前田健とは3打席対戦。
通常、
右打者を攻める球種をほとんど選択したという。

日本No.1右腕と呼ばれる自分の手の内を見せ、
今後の成長へつなげてほしい-。

先輩としての粋な思いが込められていた。

もちろん打席に立つ前田選手も

「いつもは打ってやろうと思って
 打席に入るんですけれど、
 どんなボールを投げるのか
 見てみたいと思っていた
」。

とダルビッシュ投手が想像していた通り。

 

 黒田が投げた球種には、
大谷が今、投げていないものがある。

大リーグで主流の、
打者の手元でわずかに変化するツーシームや
カットボールだ。

「いつか必要になったときに、
 参考にできる軌道があるのとないのとでは違う。
 今後に生きてくれば」と大谷。

残像を頼りに、黒田の後を追う

「2人だけの空間で繰り広げられた駆け引き」が
大谷選手に確かな「残像」を残したのなら、
それらが将来生きてきたとき、一番うれしいのは、
大谷選手自身ではなく黒田選手なのかもしれない。

 

 

(全体の目次はこちら

 

 

 

 

« 宇宙が音楽か、音楽が宇宙か | トップページ | 学ぶことの美しさと強さ »

スポーツ」カテゴリの記事

ニュース」カテゴリの記事

コメント

hamaさん、こんばんは。

超一流な人間は自分の生き様をわかる人に伝えておきたいのでしょうね。黒田投手も大谷投手に伝えたかったのでしょうし、その意味を理解して打席になったのでしょうね。二刀流で活躍する大谷選手ですが、黒田投手は打者の大谷選手ではなくて、投手大谷に伝えたのだと考えます。凄いことですね。

ダルヒッシュ選手と前田選手については初めて知りました。お互いに高みを目指して隠すのではなくて見せ合って鼓舞して言ったのでしょう。

最後の文書もよく分かる気がします。自分が気にかけた後輩が活躍するのを観る方がその人に取っては嬉しいことだと思います。私達の実社会でも通じるのではと思いますね。

hamaさん また面白い記事を紹介していただき有難うございます。
今年は自分の贔屓のチームが早々にシーズンを終えてしまったので、ポストシーズンの試合はあまり興味がなかったのですが、それでも、なかなか地上波では見られない大谷の動きは生で見てみたいと思っていました。この黒田との対戦は見逃しましたが、やはり頂上で戦っている人たちは違うんだなあと感じました。
そして、その頂点でギリギリで戦っている選手のことを、素人にもきちっとわかるように記事してくれるのがジャーナリストの役割だとも思いますね。
大谷も、いずれは大リーグに行くのかもしれませんが、日本よりもさらに役割分担のきちっとしている大リーグでどのように活躍してくれるのか楽しみです。そして、大リーグで活躍した上で、日本に戻ってきて、日本の野球界にも、またいろいろなものを残して欲しいですね。

omoromachiさん、
Khaawさん、

丁寧なコメントをありがとうございました。

先輩から後輩へ、
プロフェッショナルなメッセージが伝わることは、
かっこいいだけでなく、うらやましいことだと思います。

「間合いだったり、ボールの軌道だったり」と
大谷選手が言っている通り、
私のようなド素人からは考えられないくらい、
いろいろなことが伝わっているのだなぁ、と。

こういった「後輩への引き継ぎ」の話が、
最近、妙に心に響くようになりました。
まさに「歳のせい」なのでしょう。


♪ この一生だけでは辿り着けないとしても
  命のバトン掴んで願いを引き継いでゆけ ♪

中島みゆきさんの「命のリレー」という曲の歌詞を
思い出したりもします。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 打席のピッチャーへ:

« 宇宙が音楽か、音楽が宇宙か | トップページ | 学ぶことの美しさと強さ »

最近のトラックバック

2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ