箱根関所
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箱根関所
- 大工の棟梁が原文を読んだ理由 -
今年の夏休みは「箱根」を楽しんできた。
小田急の箱根フリーパスを使ったので、
3日間、エリア内の乗り物が乗り放題。
車の運転ゼロでの箱根は初めてだ。
登山鉄道、バス、ケーブルカー、
ロープーウェイ、芦ノ湖海賊船、
行ったり来たり自由自在。
乗り放題なのは気軽でうれしい。
今回は中年夫婦ふたりでの小旅行だったが、
小学生くらいの男の子を連れて行ったら、
それはそれは喜ぶことだろう。
(ロープーウェイにはしゃぐ私に、
「ここに大きな小学生がいる」
と妻は笑っていたが)
火山活動により
一時運休していたロープーウェイも全線再開。
ただ、火山活動はまだまだ活発で
ロープーウェイから見下ろす大涌谷は、
硫黄(というか正確には硫化物)の臭いが
ものすごく、
乗客には厚手の濡れおしぼりが
「マスク代わりに使って」と配られていた。
さて、今回訪問した中で、
予想外に(?)たのしめたのは、
「箱根関所」と「資料館」。
思わずメモってしまったネタを
パンフレットや公式ホームページの情報で
補強しながら、
整理を兼ねて記しておきたい。
【入鉄砲はどこ?】
関所と言うと、
学校で習ったこの言葉が最初に浮かぶ。
「入り鉄砲と出女」
「入り鉄砲と出女」は、
どんな風に監視されていたのだろう。
正徳元年(1711)に幕府道中奉行が
箱根関所に出した5項目の取調べ内容を
見てみよう。
「御制札場」に掲げられている。
笠・頭巾を取り、顔かたちを確認する。
2. 乗物に乗った旅人は、乗物の扉を開き、
中を確認する。
3. 関より外へ出る女(江戸方面から
関西方面へ向かう女性:出女)は
詳細に証文と照合する検査を行う。
4. 傷ついた人、死人、不審者は、
証文を持っていなければ通さない。
5. 公家の通行や、大名行列に際しては、
事前に関所に通達があった場合は、
通関の検査は行わない。ただし、
一行の中に不審な者がまぎれていた場合は、
検査を行う。
あれ? 何度読んでも
「鉄砲」についての記述が
どこにもないじゃないか。
資料館の解説によると
全国にあった53の関所のすべてが
入鉄砲と出女に
目を光らせていたわけではなく、
関所によって取締まり項目が違っていたらしい。
そうだったンだ。
そんなことすらここで初めて知った次第。
【関所の復元】
今、関所跡に行くと、
江戸時代の関所が見事に復元されている。
柿渋と松木を焼いた煤(すす)を混ぜた
「渋墨(しぶずみ)」で黒く塗られた建物群は、
一見の価値がある。
この復元は、
江戸時代末期に行われた
箱根関所の解体修理の詳細な報告書である
相州御関所 御修復出来形帳
(慶応元年:1865)
が、静岡県韮山町(現伊豆の国市)の江川文庫から、
1983年に発見されたことが、きっかけだったらしい。
この「出来形帳」、
とにかく記述が詳細だった。
たとえば、材料の寸法については
「六尺三寸弐分」などと
細かく「分」の単位(1分=3mm)まで
記されているだけでなく、
金物の寸法、使用される釘の本数、
石垣の高さや長さ・位置などが
広範囲にかつ、こと細かに記されていた。
それを、大工の棟梁は、
古文書解読に長けた研究者によって
現代の漢字に直された
「読み下し文」で読むのではなく、
常に、原文の複写を
直接読むようにしていたと言う。
なぜなら、こうすると
「出来形帳」を記した
人の気持ちや時代背景が
古文書を通してよく伝わってきて、
復元工事にも力が入った、
からだという。
いい話だなぁ。
こんな話を聞くと、
復元された建物を見る方も
おもわず力が入ってしまう。
【土台の光付け(ひかりつけ)】
礎石の上に、木材の土台や柱がのるのが、
日本の建造物の基本形だが、
礎石は石ゆえ、表面はデコボコしている。
このデコボコの石に
木材をピッタリと取付ける加工技術が
光付け(ひかりつけ)。
厩(うまや)の土台は、こんな感じになっていた。
礎石の凸凹具合と、土台の木材の凸凹具合が
ピッタリと一致していることにご注目あれ。
石の上部に石灰を撒き、
木材と石との密着具合を確認しながら
石にピッタリと合う面を削りだしていく。
型を取っての加工ではなく、
石灰の付着を見ながらの加工は
3,4日かかるとのことだが、
それだけでここまでピッタリ密着できるなんて。
資料館では、柱の例がビデオで流されていた。
ちゃんと加工が終わると、
長い柱も一切の支えなしで
デコボコの礎石の上にまっすぐに立つと言う。
【栩葺(とちぶき)屋根】
土台部分の光付け(ひかりつけ)と同様、
ぜひ見ておきたいのは
屋根の栩葺(とちぶき)。
一枚一枚、職人が丸太から
木材の繊維の方向に沿って割った板は、
杉の赤身で、
幅が4~5寸(12cm~15cm)、
長さが1尺4寸(42cm)。
2寸4分(7.3cm)ずつずらしながら
腐食に強い竹釘で打ち付けていく。
一坪(1.8m×1.8m)で使用される
屋根板は370枚ほどにもなるらしいが、
重ねにより生成される段々の形状は
ほんとうに美しい。
小さな資料館だが、
教科書的説明や復元話のほかにも、
関所破りの話やら、
享保13年(1728)に、
将軍に献上された象が通った話やら
(あんな重いものを
どうして陸路で運んだのだろう?)
小ネタもいろいろ楽しめる。
光付け(ひかりつけ)や栩葺(とちぶき)などなど、
予備知識ありで見ると
復元建物をより細かく見られるので、
訪問時には、
「資料館」⇒「関所」の順
で見ることをお薦めする。
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