文字の博覧会 (3)
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文字の博覧会 (3)
- 現役の象形文字 -
「文字の博覧会」
からの報告の3回目。
前回までで
特に文字種の多い、
東南アジアとインドから
特徴的な文字を紹介した。
今日は違う視点で文字を選んでみたい。
参照するのは、これまで同様、当日のメモと
パンフレットとして売られていた
(以下、水色部と文字の写真は
上記の本からの引用)
まずは、「歴史」観点でこの文字から。
(3-1) ヘブライ文字
漢字として成立してから今までほとんど
その姿を変えていない。
その古さは2100年といえる。
しかし、
現在のイスラエルの国語であるヘブライ語を記す
ヘブライ文字は、
紀元前5世紀に聖者エズラが形を定めてから、
すでに2400年以上経っている。
その間、国は滅び、
民族は世界中に離散したにもかかわらず、
紀元前の「死海文書」と現在の新聞の文字が
ほとんど変わっていないのはまさに驚異である。
古代ヘブライ語とヘブライ文字は国と共に滅びたのに、
1948年にイスラエル共和国が成立すると
公用語として復活。
その文字が、
紀元前1世紀に書かれた手写本「死海文書」の文字と
ほとんど変わっていないというのだから、確かに驚く。
読むときは文脈に応じて母音を補う。
ヘブライ文字には漢字のように書道がある。
手写本はいずれも美しく書かれ、
一字一句の書き誤りもない。
この文字もまた第一回のラオ文字同様
子音字のみで、
読むときに母音を補うパターン。
それにしても書道があるなんて。
以前、米国人に英語で書道を説明しようとして
たいへん苦労したことを思い出した。
もちろん私自身の貧弱な英語力のせいだが、
英文書体を美しく書く
「calligraphyとどう違うのか?」の質問に
うまく答えられなかった。
まだ、スマホやタブレットもなかった時代で
書道の例さえ見せられなかったつらさはあるが、
仮に見せられたとしても、
どう表現すればよかったのだろう?
今でもすっきりした説明が思いつかないままだ。
聖書が今に生きている町で、
ユダヤ人街、イスラーム教街、
キリスト教街、アルメニア人街に4分され、
それぞれが宗教の最高の聖地となっているが、
互いに無干渉に暮らしている。
イスラーム教街ではヘブライ文字は
ほとんど見られず、
全てアラビア文字なのも面白い。
では、そのアラビア文字を見てみよう。
(3-2) アラビア文字
大文字、小文字の区別のない28文字を
右から左へ、英語の筆記体のように連続して綴る。
文字は
独立形、語頭形、語中形、語未形と
4つの形があり、
同じ文字でも位置によって形は変わる。
イスラーム教の文字で
『コーラン』は常に
アラビア語で書かれる。
IS関連のニュースが多い昨今、
イスラム教の聖典「コーラン」を
よく耳にするようになったが、
「コーラン」は「アラビア語」のみ、
というのが大きな特徴。
キリスト教が、
聖書の各「言語」訳どころか、
文字のない民族には新しい文字まで作って
布教しようとしていた歴史とは対照的だ。
私にはもちろん読めないが、
見ているだけで一種のリズムを感じる。
見ているだけで、と言えば、
アラビア文字を基にしたペルシャ文字も外せない。
(3-3) ペルシャ文字
ナスタアリーク体で書かれた、
ペルシャの詩人の自筆書。
アラビア文字を受け入れたぺルシャ人は、
これに若干の改良を加えた上、
ナスタアリーク体という優雅な書体を作り出した。
「炎がたなびくような書体で、
美しいリズムが紙面から伝わってくるが、
優雅すぎて活字にはならない」
と中西さんは指摘する。
新聞は他のアラビア文字と同じ
ナスヒー体で印刷されている。
「炎がたなびくよう」とはうまい表現だ。
ここからは
ちょっと形の変わった文字を見てみよう。
(3-4) ナシ象形文字
少数民族のナシ(納西)族の司祭である
トンパの間のみで継承されてきた文字で、
トンパ文字ともいう。
口語ではなく、解読は難しいとされている。
2003年ユネスコの世界の記憶遺産に登録された。
象形文字というと古代エジプトで使われていた
ヒエログリフがすぐに浮かぶが、
これは利用が限定的とはいえ、
まさに「現役」の象形文字だ。
こういった絵のような象形文字は、
なんと沖縄県にもあったらしい。
(3-5) カイダー文字
税金や米の収穫量などを記録するための文字で、
一部で昭和前期まで用いられた。
現役とは言えないまでも、
「昭和前期まで」使われていたとは。
全く知らなかった。
(3-6) ベルベル文字
北西アフリカで生き続ける文字で、
貴族階級の女性たちが守り伝えたとされる。
国民の3割がベルベル人のモロッコでは、
2011年にこのベルベル語も公用語になったらしい。
世界の文字の話、もう少し続けたい。
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