国境線の持つ意味
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国境線の持つ意味
- 国の境になるべきものは -
前回に引続き、
4月から放送中のNHKカルチャーラジオ
歴史再発見「アフリカは今 カオスと希望と」
のテキストを中心にアフリカの歴史と今を
もう少し見てみたい。
講師はジャーナリスト松本仁一さん。
(以下水色部、テキストからの引用)
前回書いた通り、
かつてアフリカで繁栄していた
ガーナ、マリ、モノモタパ、
などの王国は、どこも
治安の維持された安定した国家だった。
それが、どうして、
現在の混乱したアフリカの国々に
繋がっていくことになるのだろう?
【アフリカにあの男が到着】
ポルトガルの航海者パスコ・ダ・ガマは
インド航路開発のため
二隻の艦隊でリスボンを出発し、
喜望峰を回ってインド洋に出た。
アフリカ東海岸で最初に寄った港は、
今のモザンビークのソファラだと見られている。
ガマが寄港したソファラ。
そこで彼が見たものは。
そこで彼が受けた扱いは。
【みすぼらしいポルトガルの船】
アラブ人商人と交易して栄えていた。
ガマはポルトガル国王にこう報告している。
「われわれが入港すると、回りには倍以上もある
大型のアラブ船が何隻も停泊していた。
われわれの船はみすぼらしいほど小さかった。
黒い人々は、
故国ポルトガルよりはるかに洗練された街に住み、
豊かな生活をしている」
ポルトガルの船がみすぼらしく見えるほどの
活気ある港。
ポルトガルより洗練された豊かな生活。
欧州に比べて、遅れているどころか
ずっと進んだ国だったのだ。その時は。
【野蛮な異国人扱いのポルトガル】
しかし港の役人はちっとも来ない。
さんざん待たされてやっと役人が乗船してきた。
「役人は青い絹の服、絹の帽子を身につけ、
堂々とした態度だった。
われわれが贈り物を差し出すと、
中を改めもせず後ろの召使にやってしまった。
われわれは野蛮な異国人として無視された」
【平和に続いていたアラブとの交易】
長年にわたって平和的に続いていた。
その交易で大きな富を蓄えていたアフリカの王は、
西欧のみすぼらしい船など相手にもしなかったのだ。
アラブとの平和な交易で栄えていた港。
「みすぼらしい」船から、
それを初めて見たガマは、
その後いったいどうしたか?
なんということか...
【ポルトガルの二度目の訪問】
次回は20隻に上る大艦隊を送る。
艦隊には100門もの大砲が積み込まれていた。
モザンビークは
その武力攻撃の前になすすべもなく屈服し、
占領支配される。
以後5世紀にわたって植民地支配を受けるのである。
モザンビーク以外の他の王国も同じ運命をたどる。
そしてポルトガルのあと、
ドイツやフランス、イギリスが続いた。
ついに始まる西欧の植民地支配。
ただ、ここで注目すべきは、
植民地における入植者の支配そのものではなく
「国境線」。
【勝手に引かれる国境線】
そこに住む人々の生活などと関係なく、
自分たちの力関係でアフリカに国境線を引いた。
ひとつの例として、
東アフリカのケニアとタンザニアの国境を
見てみよう。
インド洋から北西に
まっすぐ伸びた国境線(下図紫色の線)が
キリマンジャロ山の手前で
急に北にカーブしてクランク状となっている。
【ケニアとタンザニアの国境】
1884年11月に開かれたベルリン会議で決まった。
ベルリン会議というのは、
欧州列強によるアフリカ分割の会議で、
翌85年2月まで3か月以上も続いた長い会議である。
その長い会議期間中に、
ドイツ皇帝のウィルヘルム二世が誕生日を迎えた。
英国のビクトリア女王が
誕生祝いに何が欲しいか尋ねる。
すると皇帝は
「万年雪のある山を一つ分けてもらえないか」
と答えた。
当時、英領ケニアには
万年雪をかぶった山が三つあった。
キリマンジャロ山 (5895メートル)、
ケニア山 (5199メートル)、
エルゴン山 (4321メートル) である。
ケニアの南隣りのタンザニアに
万年雪のある山はなかった。
ビクトリア女王は
「そんなものでいいの?」と気軽に承諾し、
一番南にあるキリマンジャロ山を
独領タンザニアにプレゼントすることにした。
それで国境が
不自然に曲がってしまったのである。
それから130年余がたった。
ケニア、タンザニアの両国は独立したが、
国境はまだ曲がったままだ。
そこに住む部族を全く考慮しない国境線。
それは何を生むことになるのか。
【原住民の部族を無視した国境】
英独の力関係だけで決まった。
国境線はあるところでは
一つの部族の居住地区の真ん中を突っ切り、
二つの国に分断した。
勝手な国境線はまた、
利害の相反する複数の部族を
一つの国の中に取り込むことになった。
一部族の強制的な分断と、
複数部族の強制的な一国化。
これでは国として「ひとつ」に
まとまるはずがない。
部族と国境線の話、
もう少し続けたい。
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