共生関係が、水中も水底も養う
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共生関係が、水中も水底も養う
- サンゴ礁の豊かな生態系 -
サンゴと
その体内にいる褐虫藻(かっちゅうそう)との
共生関係を
「きれいな海」には「餌がない」?
と、
サンゴが木のような形に成長するわけ
で見てきた。
では、この二者間で成立している良好な共生関係は、
サンゴ礁の豊かな生態系に、
どのように結びついていくのだろうか?
その点に注目しながら、引続き
本川 達雄 著
「生物学的文明論」新潮新書
を読んでいきたい。
(以下水色部、本から引用)
【体を覆う粘液】
体の表面をすっぽりと覆っています。
・・・
粘液は
口のまわりにある細胞から分泌されます。
分泌されたばかりの粘液は透明で、
サンゴの表面にぴったりと張り付き、
食品のラッピングフィルムのように体を覆います。
この粘液が大きな役割を果たす。
【粘液の役目1:清潔に保つ】
光が体の中に入りにくく、
褐虫藻の光合成の妨げになります。
粘液のフィルムで覆っていると、
ゴミがみな、フィルムにくっつきますから、
しばらくたって汚れがひどくなったら、
それを剥ぎ落として、
新しいフィルムに貼り替えてやればいい。
粘液のフィルムは、体を清潔に保つための、
使い捨てのラップフィルムなのですね。
サンゴはフィルムを定期的に貼り替えます。
たとえばあるハマサンゴは、
満月ごとに貼り替えています。
ここでの「清潔」とは、共生している
褐虫藻の光合成を妨げないように
きれいにしておく、の意、というわけだ。
【粘液の役目2:体の保護】
水面から外に出てしまうことがありますが、
その時には、大量の粘液を分泌して体を覆います。
粘液には保水能力がありますから、これで、
体が乾燥してしまわないようにしているのです。
また、とつぜん砂などの粒子が
たくさん降り注いできたり、
高温や低温、雨などによる
海水の塩分濃度の低下などが起こっても、
サンゴはさかんに粘液を分泌して身を守ります。
【粘液の役目3:他の生物の餌に】
高分子でできており、
他の生物たちの良い食物になります。
サンゴの体から剥がれ落ちた粘液は、
海水中を漂い、
その半分以上はすぐに海水に溶けます。
粘液が溶けた海水は栄養がありますから、
その中で、バクテリアがさかんに増殖します。
それが動物プランクトンのよい餌になって
動物プランクトンが増える。
するとそれを食べて、より大きな動物が増え、
それをもっと大きな動物が食べて、
というふうに食物連鎖が進んでいきます。
ここで、いよいよ共生関係を越えた
他の生物との関係が登場する。
サンゴ自体が餌を作り出しているわけだ。
【粘液は水中も水底も養う】
集まって塊状になり、やがて海底に沈みます。
そして海底に棲んでいる
底生バクテリアの餌となり、
そのバクテリアが
底生動物たちの餌となっていきます。
このように、粘液は
水中を泳いでいる生きものも、
水底(みなぞこ)の生きものも、
どちらも養っています。
【生物多様性にあふれるサンゴ礁】
じつにさまざまな生きものが棲んでいます。
ところが、サンゴ礁をとりまいている外洋には、
あまり生物がいません。
外洋の水は貧栄養だからです。
・・・
サンゴ礁のさまざまな生きものたちを
養っている食べものは、元をたどれば、
褐虫藻が作り出したものです。
サンゴと褐虫藻の
たぐいまれな共生と無駄のないリサイクルが、
生物多様性にあふれたサンゴ礁生態系を
作り出しているのです。
このあと話は、
サンゴの天敵オニヒトデからサンゴを守る
サンゴガニとサンゴとの共生の話にも
広がっていくのだが、
その部分は、本のほうに任せたい。
興味のある方は、
ぜひ本を手に取ってみて下さい。
褐虫藻が光合成で作り出したエネルギーを元に、
動物であるサンゴが粘液を作りだす。
それはサンゴ自体の体と
褐虫藻の光合成を守るものでもあるけれど、
同時にそれは海中に溶けて栄養にもなる。
その栄養を元に食物連鎖が進んでいく。
サンゴと褐虫藻との二者間の共生関係が、
豊かな生態系に繋がっていくしくみが
実にわかりやすく解説してある。
生物多様性を支えているのは「餌」なのだ。
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