« 壁が次々と倒れていく時代にあって | トップページ | 36年前の青函トンネル »

2016年3月20日 (日)

「きれいな海」には「餌がない」?

(全体の目次はこちら


「きれいな海」には「餌がない」?

- 餌はすべて植物由来 -

 

今日は、

本川 達雄 著
「生物学的文明論」新潮新書


から一部紹介したい。
(以下水色部本から引用)


【サンゴ礁の海は美しい】

 サンゴ礁には驚くほど多くの種類の魚がいます。

彼らは目で見て相手を識別しているんですね。
たくさんの中から自分のパートナーを選びだす。
そのためには、目立った方がいい。
ここで多様だということと、
はでで美しいこととが結びついてきます。

 とはいえ、
美しくても見えなければ話になりません。

サンゴ礁の海の水が、
ガラスのように透明度が高いからこそ、
鮮やかな色が見える。
美しい水が、美しい動物たちを進化させたのです。

美しい海と、色鮮やかな魚たち、
つい一緒に思い浮かべてしまうが、
ちょっと考えると、
美しい海は、魚にとって住みにくいはずなのだ。

それはなぜか。
「美しい海」には「餌がない」からだ。

 

【そもそも餌の源は?】

 サンゴ礁には動物がものすごくたくさんいます。
ということは、サンゴ礁には
餌が豊富にあることを意味しています

われわれ動物は、
植物のつくり出したものを食べさせていただいています。
米もそうだし、牛肉だって、牛が草を食べてつくったもの。

だから元をたどれば食べものはすべて植物由来
デンプンなど、
植物が太陽の光をあびて光合成により作り出したものを、
私たち動物は食べさせていただいているのです。

まさによく見る食物連鎖の図。

餌はすべて植物由来、
つまり直接食べることがなくても、
間接的には「植物」が絶対に必要なのだ。

 

【サンゴ礁に植物(藻類)は、いるの?】

 サンゴ礁にたくさんの動物がいるということは、
サンゴ礁には、
光合成する植物がたくさんいるだろうと想像できます。

海の中で光合成するものは藻類です。

北の海だったらコンプやホンダワラなどの、
藻類の立派な林があります。

ところがサンゴ礁では、
いくら探しても藻類の林など、見あたりません。

サンゴ礁に藻類はいない。

 

【植物プランクトンなら?】

 水中で光合成する藻類としては、
もう一つ、植物プランクトンがあります。

水中を漂っているごく小さい藻類です。
珪藻(けいそう)や渦鞭毛藻(うずべんもうそう)など、
いろいろな仲間がありますが、
どれも顕微鏡を使わないと見えないほど小さなものです。

この微細な藻類が太陽の光を受けて光合成します。

 ところがサンゴ礁の水は非常に透明でしたね。
ということは、植物プランクトンも
サンゴ礁にはあまりいないということです


だって、プランクトンのような小さな粒子が
たくさん水中に浮いていれば、
水が濁ってしまいますから。

 水が透明ということは、
水中に食用となる有機物の粒子も
あまり含まれていない
ということでもあります。

植物プランクトンもいないようだ。

 

【熱帯の海は貧栄養!!】

サンゴ礁や、それをとりまいている外洋の海水中には、
栄養となるものが乏しいのです。

栄養分が貧弱なのを
貧栄養(ひんえいよう)と言いますが、
熱帯の海は貧栄養

きれいだけれども、
とても暮らしにくい
環境なんですね。

事実、サンゴ礁のまわりの外洋には、
それほど生物はいません。

きれいな海は、餌が少ない海なのだ。

 

【サンゴ礁で、
 たくさんの生物が生きていけるのは「なぜ」?】

 なのに、サンゴ礁には、
ものすごくたくさん生物がいます。
一体これはどういうことなのでしょう?

 この謎を解いたのが日本の生物学者の川口四郎、
1944年のこと
です。

川口先生は、サンゴの体の中に小さな褐色の球
たくさん含まれていることに気づきました。

大きさは100分の1ミリ。
顕微鏡でなければ見えません。

この褐色の球を取り出して海水中で飼育したところ、
形をかえ、殻を分泌して身にまとい、
鞭毛という細い毛を二本生やして泳ぎだしました。

この姿を見れば、これが何ものかがわかります。

渦鞭毛藻という植物プラントンの一種です。
植物プランクトンがサンゴの体内に入っていたのです。

100分の1ミリの褐色球の発見。
そこに植物プランクトンがいたなんて。

 

【植物はサンゴの中に!】

 この藻類は褐色をしており、
褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれています。

褐虫藻はサンゴの細胞の内部に棲んでいます。
たくさん入っていましてね、
細胞の半分が褐虫藻で埋まっていることすらあります。

だから、サンゴは半分植物だともみなせるもの、
サンゴの林は、褐虫藻の林でもあるわけです。

これでサンゴ礁に植物を見かけない謎が解けました。
植物はサンゴの中に隠れていたのです。

植物は水の中ではなく、
動物の中にあった、ということになる。

 

【動物と植物の共生】

 サンゴは動物です。
褐虫藻は藻類、広い意味での植物です。
二つは全く違った生物です。

違った生物が緊密な結びつきをもって
一緒に生活しています。
こういう現象を共生と呼びます。

共生していると、どんないいことがあるのだろう。

 

【共生のメリット1】

 サンゴは共生すると、
いいことが、いろいろあります。
最大の利益は、
褐虫藻から食べものをもらえることです。

 われわれの場合、
主食は米や麦という炭水化物ですよね。
これに相当するものを褐虫藻が光合成してつくりだし、
それをたっぷりとサンゴに与えてくれます。

たっぷりもたっぷり、褐虫藻が作った食べものの、
なんと9割近くをサンゴに与えてくれる
のです。

炭水化物は主食にあたりますが、副食の方も、
サンゴは褐虫藻からめんどうをみてもらえます。

必須アミノ酸といって、タンパク質をつくるためには、
どうしても摂取しなければならない
アミノ酸がありますが、
それを、褐虫藻が提供してくれるのです。

 結局、バランスのとれた食事をふんだんに、
褐虫藻は用意してくれる
わけで、
これはサンゴにとって、
非常にありがたいことです。

共生のメリット1:食事を提供してもらえる。

 

【共生のメリット2&3】

 褐虫藻は、くれるばかりではなく、
逆にいらないものを取り除くという形でも、
サンゴの役に立ってくれます。

 サンゴは動物ですから、
とうぜん、排泄物を出します。

これは窒素化合物ですね。
これを肥やしとして褐虫藻がもらいうけます。
だから、サンゴはトイレに行かなくてもいい。
褐虫藻がその場で処理してくれます。

 サンゴは動物ですから、呼吸します。
呼吸で吐き出した二酸化炭素を、
褐虫藻が光合成で使ってくれます。
逆に光合成で生じる酸素を、
サンゴは褐虫藻からもらいます。
だからサンゴは、呼吸もあえてしなくていいんです。

共生のメリット2:排泄物を処理してもらえる。
共生のメリット3:酸素ももらえる。

 

【究極のらくちん生活】

 私たちがあくせく働くのは、
食べものを手に入れるためです。
サンゴにはその心配がありません。

その上、トイレに行く必要もなく、
呼吸の心配すらいらないわけで、
これは究極のらくちん生活ですね。

こんな生活が、褐虫藻と共生することにより、
可能になったのです。

サンゴにとっての共生メリットは大きい。
では、褐虫藻にとってサンゴとの共生には、
どんなメリットがあるのだろう。

この話、もう少し続けたい。

 

 

(全体の目次はこちら

 

 

 

 

« 壁が次々と倒れていく時代にあって | トップページ | 36年前の青函トンネル »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

科学」カテゴリの記事

コメント

「白河の 清きに魚も 住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき」って狂歌のネタとして相応しい話ですね

MFSGEORGEさん、
コメントをありがとうございます。

まさにその通りですね。
ある視点でのみの「クリーンさ」を追求した世は、
住みにくい気がします。いつの時代も。

「いろいろなものがごちゃごちゃと共存している」
そのことが持つタフネスさ、みたいなものは
直接は見えにくいけれど、住みやすさを支える
大事な基盤のひとつだと思っています。

生きていれば誰だって、自分が想定した条件なんて、
時間と共にどんどん変わっていくわけですから。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1756499/64557216

この記事へのトラックバック一覧です: 「きれいな海」には「餌がない」?:

« 壁が次々と倒れていく時代にあって | トップページ | 36年前の青函トンネル »

2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ