「歳をとった甲斐がないじゃないか」
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「歳をとった甲斐がないじゃないか」
- 合理的思想だけでいいのか -
少なくとも日本では
数えで歳を言うことは
日常生活ではほとんどなくなった。
(中国人に歳の数え方の話を聞くと
今でもよく混乱してしまうが)
それでも新しい年になると、
「今年はいくつになるなぁ」を
考える機会が多い。
歳をとって考え方が
ジジ臭くなるのはヤだなぁ、
ババ臭くなるのはヤだなぁ、と考えている方、
気にすることはありません。
今日は、
小林秀雄さんのこの話を聞いてみましょう。
聞くのは、
現代思想について―講義・質疑応答
(新潮CD 講演 小林秀雄講演 第4巻)
(以下水色部はCDからの抜粋)
下記HTML5のaudioタグによるMP3 Player
(ブラウザによって表示形式は違うようです)
どのくらいありますかね。
みんなもう老人のクセにですな、
青年に媚びて物事を考える人がたいへん多いね。
私はそう思う。
青年のように考えないと時勢に遅れるとかな。
そういうふうに考えている成熟した大人を
僕はあんまり見過ぎています。
どうして歳をとったならば、
歳をとらなければわからないようなことを
考えないか。
歳をとったひとが、
若者と同じように考えてどうする!
との強いメッセージ。
どうして歳をとったなり、の考え方が
軽視されているのか。
小林さんは次の一点を指摘している。
軽蔑されているのは、なんでしょうね。
これを「合理的思想」というンです。
合理的思想ってものに歳がありますか。
ないんだよ。
子どもでも2に2を足せば4なんです。
老人でも4なんです。
だから
正しいことは老人にとっても正しいんです。
青年にとっても正しいんです。
これが真理なんです。
正しいことなんです。
だから年齢ってものを考えない。
「合理的な考え方」は、現代社会において
たしかに威張りすぎている気がする。
合理的な考え方のみで物事を見ると、
若い人も老人も同じことを言うようになる。
年齢に依存しないロジック、
それが「合理的」ということだ。
歳をとった甲斐がないじゃないか。
いつまでたっても
青年らいしいヤツなんていうのは。
甲斐がない。
何のために歳をとっているんですか。
歳をとればとるほど
立派な老人にどうしてならないんでしょうな。
いいセリフだなぁ。
「歳をとった甲斐がないじゃないか」
「いつまでたっても
青年らいしいヤツなんていうのは」
「何のために歳をとっているんですか」
新しい年、
「歳をとった甲斐」を考えながら
ヘンに若ぶることなく、
その歳らしく過ごしていきたいものだ。
(どうでもいいことだが、
小林さんの話し方を聞いていると、
志ん生の落語を思い出してしかたがない。
ちょっと意外なそっくりさん、を
発見した気分)
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今日は。そういえば赤瀬川源平も以前、「老人力」というのを発表して、そこで
年を取ってボケる(と普通言われる)ことを、逆に「老人力がついた」と前向き
に解釈して元気を出していくことが、生き甲斐にもなり、決して悪いことではな
いと提唱して大変賛同されたことがありましたね。その居直り力の点では小林秀
雄以上のものだったと思います。合理的云々ではなく、正真正銘の老化現象とい
うマイナスをプラスと逆転してしまうのですから。
あの本、物置部屋のどこかでホコリかぶっていると思いますが‥‥。
投稿: 平戸皆空 | 2016年1月11日 (月) 12時14分
平戸皆空さん、
コメントをありがとうございます。
この講演は1961年のものですが、
小林さんは、50年以上も前に、
「合理的」ということが幅を利かせすぎている点を、
痛烈に指摘しています。
さすがです。
一方で、
「歳をとった甲斐」ってなんだろう、と
折りに触れ考えているのですが、
明確な答えにたどり着けていません。
明確な答えがでない疑問を抱えていることこそが、
「歳をとった甲斐」なのかもしれませんが。
投稿: はま | 2016年1月13日 (水) 20時05分