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2015年11月 8日 (日)

「青のない国」

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「青のない国」

- 小さな出版社の大人の絵本 -

 

週末になってくずれてしまったが、
先週の関東地方は天気がよかった。
晴れると透き通った秋の青空が美しい。
一面の「青」を見ていたら、ある本を思い出した。

 

風木一人/作、長友啓典・松昭教/絵
 「青のない国」 小さい書房

(以下 水色部は本からの引用)

「小さい書房」は、安永則子さんという方が、
たったひとりでやっている正真正銘の
小さな出版社だ。

 

山のふもとの小さな町に、ひとりの男が暮らしていた。

と静かに物語は始まる。

男は植物が大好きで、
休みになるとよく山にでかけた。

草花の観察を楽しんでは、
気に入ったものがあると掘って持って帰り、
自分の家の庭に植えた。

庭には、季節ごとに色とりどりの花が咲き、
おいしい果物もたくさんなった。

 

ある日、男は山道で
見なれない枯れかけた植物を発見した。

それを傷めないよう、根から丁寧に掘りあげた男は、
大事に持ち帰り、庭に植えて宝のようにかわいがった。

植物はまもなく元気を取り戻し、
すくすくと大きく育っていった。

それでも、植物名のほうは、
図鑑で調べてもまったく手がかりがない。

「これは新種なんだろうか」

やがてつぼみが7つ付き、ついに花が咲いた。

男は思わず息をのんだ。
見たこともない美しい色だった。

どんな花にも似ていなかったし、
何色と呼んでいいかさえわからなかった。

 

やがて、夏が終わり、種が取れ、冬になった。

春になると、男は取れた種をまいた。

そしてまた、丹精に世話をすると
こんどはたくさんの花をつけた。

このすばらしい花をだれかに見せたい。

男は、子どものころから仲のいい
画家の友人に見せた。すると彼は、

ひと目で花に夢中になった。

そして意外なことを口にした。

花を見つめていた友人がふいに言った。
「これ・・・青じゃないか?」

男は一瞬ぽかんとしてから笑った。
「そんなバカな」

青い花などあるわけがない。
青い色そのものが、
この国にはないのだから

 

男の国には「青の神話」と呼ばれる伝説があった。
遠い昔にあった「青」という色が、あるとき、
世界から完全に消えてしまった、という話だ。

そして青いものがなくなった世界では、
もはや青がどんな色なのかも忘れられてしまう

 

画家の友人は、絵の教室をひらいていた。
花の美しさに感動した彼は、
生徒たちに花の絵を描かせることにした。

「先生、こんな色の絵の具ありません

「そりゃあないだろう。
 ぼくだって持ってない。

 でも色にこだわらなくていいんだよ。
 美しいものを見れば心が動く。
 心が動けば筆が動く。
 それが絵だ


 気持ちのままに描いてごらん。
 考えない方がいい。
 さあ、楽しんで」

同じ色の絵の具はなかったが、
生徒たちは、思い思いの方法で絵を描いて楽しんだ。

 

生徒たちは、うちで、職場で、学校で、
青い花のことを話した。

小さな町のこと、ウワサはすぐに広まった。
男のしずかな週末は一転した。
たくさんの人が
「青い花」を見せてくれとやってきたのだ。

「これがまぼろしの花か」
「なんてすばらしい色だろう」
「神話の世界からよみがえったんだ」

人々は口をそろえてほめたたえた。
花を見て心動かされない人はいないようだった。
感動のあまり涙を流す者さえいた。

「青い花」であることをうたがう者はいなかった。
「青」がどんな色かだれも知らないはずなのに。

それほど美しさは圧倒的だったのだ。

人々は花を見て、満足し、幸せな顔つきになった。

すると男もしだいに、
それが「青い花」であるような気がしてくるのだった。

男はだれが来ても同じように歓迎し、
丁寧に庭を案内した。

「入場料をとったら」とアドバイスする人もいたが、
「花をみてみなさんが喜んでくれれば」と
欲はなかった。

 

ある日、「社長」の名刺を持った紳士が現れ
「青い花のテーマパークを作りたい」
と提案してきた。

社長は、
「たくさんの人が幸せになることに反対ですか」
「ひとりではこの貴重な花を守れないでしょう。
 会社が花を守りますから」
と言葉巧みに気の進まない男を言いくるめ、
高い給料の約束とともに、
テーマパークへの協力を男からとりつけてしまった。

 

人が人を呼んで、
見物人はますます増え、
門の前には行列ができた
・・・
それでも、人々はうれしそうだった。
花はなんといってもすばらしいからだ。

ところがある日、状況が一変する。

理由の分からない男は社長に電話して尋ねた。
社長はこう言った。

「あんたか。
 テーマパークはやめた。
 理由?
 ほんとに知りたいかね?
 あんたの花は青くないからだよ。
 あんたはウソをついた。だから約束はなしだ」

「ウソ? 青くないって、
 それはどういうことですか?」

「バカらしくて説明する気にもならん。
 まあ、明日の新聞を読むんだね」


朝刊に出たのはこんな記事だった。
「伝説の青、発見!」
古代の遺跡から特殊な石が掘り出された。
それはほぼ完全な球形で、なめらかな表面を持ち、
だれも見たことがない色をしている。

著名な学者のコメントがのっていた。
遺跡はきわめて旧い、
これまで存在すらうたがわれていた
古代王の墓と見られ、
古文書の記録と照らしあわせると、
この石こそ王が神からさずかった
「青い石」と推定される-。

それからまもなく、
「大きな町」の国立博物館で、
世紀の大発見とされる「青い石」が公開された。

男は石を見に行く。
似てはいるが、
彼の花とは違う色をしていた。

男の家を尋ねる者は次第に少なくなり、
そしていなくなった。

「おれの花は青くないのか?
 では何色なんだ?
 この花はなんだ?」

もう男には花が美しいのかもわからなかった。
「美しいってなんだ?」

 

ある日の夕方、ひさしぶりに、
花を見たいという客が来た。
自分ではなく、
病気の娘に花を見せたいのだと言う。

「花の価値」を見失ってとまどっていた男は、
病気の少女との交流を通じて、
「ある価値」に気づいていく。
(その過程は、ご興味があれば
 どうぞ本のほうをご覧下さい)

 

 * 美しい花。
 *「まぼろしの青」の可能性。
 * 行列。
 * テーマパーク。
 *「別な青」の登場。
 * 学者のコメント。
 * 消える行列。

男が咲かせ、
人々が美しいと言って見に来た「花の価値」は、
ほんとうの価値は、どこにあるのか。
どこにあったのか。

「美しいってなんだ?」

いろいろ考えさせられる、大人の絵本だ。

 

 

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