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2015年10月 4日 (日)

第62回 日本伝統工芸展

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第62回 日本伝統工芸展

- 魂がしおれないように -

 

日本伝統工芸展を観に行った。
今年でもう「第62回」にもなると言う。

Dentokogei15_1

親に連れられて初めて観に行った小学生のときから
すでに40年以上、もちろん見逃している年もあるが、
毎年たのしみにしている大好きな工芸展のひとつだ。

陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸
の7部門の入選作品約600点を観ることができる。

似たような名前の工芸展は他にもあり、
いくつか観に行ったこともあるのだが、
ここの入選作がもつ
真正面から訴えてくる美と技の迫力は
他を圧倒している気がする。

もちろん工芸については素人なので、
「自分にとってヒット率の高い工芸展」
が、正確なコメントなのかもしれないが。

Dentokogei15_2

簡単には真似のできない、
確固たる技(わざ)に支えられて
初めて姿を現す美の世界。

効率とか生産性とかとは無縁の、
気の遠くなるような工数と修練と工夫。

逆に、効率や生産性にばかり
日々追われているエンジニアの私としては、
ときどきはこういうモノを見ないと、
魂がしおれてしまう。

 

これまでは、自分の好みもあり、7部門の中では
陶芸と木竹工に惹かれる作品が多かった。

ところが、今回はこれまであまり興味のなかった
金工と人形にすばらしい作品があった。

「日本工芸会」の写真を借りて
特に印象に残った作品を数点紹介したい。
(写真はすべて「日本工芸会」のページから。
 写真をクリックするとその作品を紹介した
 元データのある「日本工芸会」のページに
 直接飛びます
)

 

 

まずは、金工の作品。

家出隆浩(いえでたかひろ)さんの
編込接合器「ひびき」
(あみこみせつごうき「ひびき」)

Dentokogei15_as

赤銅と四分一(しぶいち)の
二種の薄い金属板を編んだあと叩いて成形、
その後、銀ろうを流し込んで接合するという、
竹工の網代編みの技法を金工に応用した鍛金作品だ。

成形された薄い一枚の板は
凸凹しているわけではないが、
文様自体は、細い金属板を編みあげて作ったもの、
ということになる。
作者は「あやおりがね」と呼んでいるらしい。
見たこともない技法だ。

でも、だからと言って技法だけでは作品にはならない。
規則正しい文様をもった板が、
大きく口を広げたやわらかみのある形に打ち出され、
美しい器となっている。
寄ってみると、
金属ならではの薄さからくるシャープ感に気づいて、
ちょっとはっとするような驚きもある。

 

続いて、人形。

井上楊彩(いのうえようさい)さんの
桐塑彩色「目覚めの刻」
(とうそさいしき「めざめのとき」)

Dentokogei15_cs

これまであまり人形という分野に
魅力を感じていなかったのだが、
これにはまいった。

桐塑彩色とは、
桐の木粉(おが屑)と生麸糊(しょうふのり)を
練りあげた粘土状の素材に彩色したもの。
柔らかい質感が若い女性の表現にまさにぴったり。

とにかく形がいい。
手の指先からつま先まで、
伸びをしたときの生命感が
すみずみにまで宿っている。
品のある顔もいい。

人形そのものだけでなく、
人形を包みこむ朝の空気まで感じさせるような
そんな魅力がある。

 

陶器の中では、これが印象的。

井戸川豊(いどがわゆたか)さんの
銀泥彩磁鉢
(ぎんでいさいじはち)

Dentokogei15_bs

井戸川さんは昨年(第61回)も
カイワレ大根の作品で入選していたと思うが、
同じカイワレ大根の作品ながら、
今年の作品のほうがずっといい。

形も色も上絵も側面の質感も、
カイワレ大根をモチーフに、
ここまで統一感があり、
かつ美しい作品を作れるものだろうか。

陶器の絵柄としてではなく、
カイワレ大根そのものが
陶器になって生まれ変わったような、
そんな気にすらさせる一体感がある。

 

他にも、
一見単純な幾何学模様のように見えるのに、
実物を見ると、なんとも不思議な世界に
幅の狭い帯ながら引き込まれてしまう

細見巧(ほそみたくみ)さんの
綴帯「晨」
(つづれおび「しん」)

Dentokogei15_ds

など、魅力的な作品がたくさんある。

技はもちろん必要だけれど、
技の競技大会ではない。
そこから美にどうつなげていくか。
全体の絶妙なバランスの中、作品となって
まとまった姿はほんとうにすばらしい。

工芸品を通して
見えない「なにか」に惹きつけられる。
この快感は、この展示会の大きな魅力のひとつだ。

 

そう言えば、東日本大震災のあとは、
不安定な形の作品が倒れないよう、
テグスで作品を固定する品数が一気に増え、
一時は、特に陶芸エリアは、
蜘蛛の巣で覆われたようになっていた。

その比率も余震の減少とともに
ずいぶん元に戻ってきた。

もちろん壊れやすい作品もあるので
地震や転倒は心配だろう。

しかし、細い透明な糸であっても、
あの蜘蛛の巣は、観る側の視界を
「細さ」以上に塞いでしまう。

背の高い作品等、
ぜひ必要、というものだけにしてくれたのは、
観る側にとってはありがたい。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

この日本伝統工芸展、
今年の東京は終わってしまいましたが、
このあと来年3月まで、全国の主要都市を回ります。
もし、ご興味があれば足を運んでみて下さい。
工芸の好きな方にはお薦めです。

他の開催地はよくわかりませんが、東京は
ずーっと一貫して日本橋三越で開催されており、
入場も無料。
今年見逃した方はぜひ来年。

毎年9月中頃、NHKの日曜美術館で
入賞作品の紹介もしていますので、
観てから行くと、技法の背景までわかって、
より深く楽しめるかもしれません。

工芸品に限りませんが、
やはり実物を観てみないと、細部はもちろん、
質感とか透明感とか色とか角度による変化とかは
わかりません。

20回拭漆を重ねる、50万回叩く、
そんな言葉が飛び交っています。

美しいものを作るために、
美しいものと出逢うために、
なぜそこまでするのでしょう。

その先に初めて現れた美しさは
どんなものなのでしょう。

美と技の世界は、
まだまだ未知の魅力にあふれています。

 

 

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