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2015年9月20日 (日)

「イグ・ノーベル賞」授賞式と講演会

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「イグ・ノーベル賞」授賞式と講演会

- たった1分と5分に笑いも -

 

「イグ・ノーベル賞」の発表が2015年9月17日、
米ハーバード大であり、
キスをするとアトピー性皮膚炎患者の
アレルギー反応が弱まる
ことを示した
大阪府の木俣肇さんが医学賞を
スロバキアの研究者らと共同受賞した。

「情熱的なキスの生物医学的な利益
 あるいは影響を研究するための実験」
が受賞理由。

いい医者に巡り会えたので今は完治しているが、
私もアトピー性皮膚炎で一時期たいへん苦労した。
なるほど、
「情熱的なキス」が足りなかったのかもしれない。
と、バカな冗談はさておき、
日本人の受賞は9年連続という。

ニュースには
「木俣さんは授賞式には出席せず、
 19日にマサチューセッツ工科大である
 講演会に参加する」
とあった。

この、授賞式と講演会、
ニュースで詳しく報じられることはないが、
イグ・ノーベル賞を2度も受賞した
中垣俊之さんが書いた
「粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う」文春新書

の第一章を読むと、
「出るのもなかなかたいへんだなぁ」
ということがよくわかる。

どうたいへんか。

ちょっと覗いてみよう。
(以下水色部、本書からの引用)

著者中垣俊之さんは、
2008年に
「単細胞生物の粘菌という生物が、
 迷路などのパズルを解くことを証明した」

ことで、イグ・ノーベル賞を受賞している。
その後2010年にも。

本書は2回の受賞の対象となった
粘菌の不思議さやおもしろさについてだけでなく
「不安定化」についても丁寧に語っている
読みやすいながらも
かなり深い内容を含んだ本なのだが、
今日は、
「第一章 イグ・ノーベル賞顛末記」だけに
フォーカスして紹介したい。

最初に、イグ・ノーベル賞とは、を確認しておこう。

 イグ・ノーベル賞とは、
本家ノーベル賞のパロディとされており、
毎年ユニークで風変わりな研究を行った
数名の人に与えられるものです。

主催しているのは
マーク・エイブラハムズ(Marc Abrahams)という
元ハーバード大学の研究者(応用数学専攻)で、
『ありえない研究年鑑』
(Annals of Improbable Research)という、
ユニークな研究を紹介する、
ややふざけた雑誌の編集長でもあります。

彼の他にもハーバード大学の研究者が
大勢賛同して運営体をなしていて、
その中には本物のノーベル賞を受けた人が
何人もいます


 賞の方針は、
「まずもって人々を笑わせ、
 次に考えさせる研究成果」
 
に与えることであり、
ともすれば権威主義的になりがちな
科学というものに
警鐘を鳴らしているかのようにも
受けとめられるのですが、
賞のセレモニーには
そのような構えた雰囲気は一切なく、
むしろ科学ネタで盛り上がる
演芸大会のようで、
人々は大いに笑っていました。

もらえるのは、
「賞状とトロフィーと総額零円の賞金」
そう賞金はないのだ。

まず、授賞式。

 式典では、どの受賞者も
1分間のスピーチをすることになっていました。

受賞内容を分かり易く
伝えなければいけないのはもちろんなのですが、
必ず笑いを取るようにと
念を押されていることについて、
どうしたものかと話し合いました。

与えられるのはわずか1分のみ。
しかも、笑いまで取らないといけない。

言うまでもなく、笑いを取るのはむつかしい。

そう言えば、ブラックアングル等で永年
数々の「笑い」を提供してきた山藤章二さんも、
近著「老いては自分に従え」岩波書店
こんなことを言っている。
(以下緑色部、本からの引用)

「ユーモアに国境はない」という格言が
通用した時代もあった。
大ウソである。

ユーモアほど民族や因習や知的レベルを
限定するものはない。
国境のないユーモアは"下ネタ"くらいのものだ。

 

1分のスピーチの中に、研究内容の説明と
まさか下ネタを並べるわけにも行かないだろうし。

いずれにせよ、1分なんてあっという間だ。
超過することだってあるだろう。
もしそうなってしまうと...

 スピーチの1分間も
非常に厳格に測定されていて、
万が一にも時間オーバーしようものなら、
それがたとえ1秒であったとしても、
舞台の袖からかわいらしい
ミス・スイーティー・プーと呼ばれる
8歳の女の子が演壇までやってきて、
「もうやめて! 私退屈したわ。
 もうやめて! 私退屈したわ。
 もうやめて! 私退屈したわ…」
(Please stop. I'm bored.) 
といつまでも同じ調子で言い続けます。

やっている方はこりゃたまらんが、
実際の様子はこんな感じ。

 

中垣さんが、授賞式において
どのようなネタで笑いをとったか、
についてはここでは省略したい。
ご興味のある方は、新書のほうをどうぞ。

そして、授賞式の翌々日には、
マサチューセッツ工科大学(MIT)で、
インフォーマルなレクチャーをしなければならない。
これが「講演会」ということになるのだろう。

一人あたりの持ち時間は
式典のスピーチの5倍の5分
そしてここでもまた、本式典と同じように
笑いをとるようにとの要望がありました。

それでも持ち時間は、たったの5分。
ここでは、会場との質疑応答が
ユーモアたっぷりでいい。

レクチャーを終えると、会場からの質問を受けます。
質問もユーモアいっぱいで、
答えもまたユーモアで返すというしきたりです。

これは大盛り上がり。さながらユーモア合戦です。
MITの学生なぞに負けてたまるか。
英語なぞ分からなくたって、
武士道精神で臨戦態勢です。
さあ諸君、かかってらっしゃい! 
そんな心持ちでした。

 初めの質問は、
パズル愛好家だという女子学生さんから、

「パズルがうまく解けることがあれば、
 また解けなかったりするのだけれど、
 粘菌のパズル解きから何かアドバスをもらえないか?」

というもの。これには

「粘菌に直接聞いた方がよろしい」

と返答。見事返り討ち成功です。


 2番目の質問は、

「粘菌が株価変動を予測できると思いますか?」

というもの。粘菌の知性がどこまで賢いものなのか、
と問う質問ですね。これには

「あなたには、教えたくない」と返答。

切れ味冴え渡ってまたしても返り討ち。


 3番目は、

「グーグルなどが、
 サーチ(探索)アルゴリズムの改善目的で、
 あなたもしくは粘菌に
 コンタクトをとってきましたか?」という質問。

「カーナビヘの応用は考えている。
 将来、カーナビのコントロールボックスをあけると
 粘菌がいる、そうなることが私の夢だ」。

おお、なんという余裕のあしらい。
実際、粘菌の迷路解きを応用して
カーナビヘの展開をも研究しているのです。

なかなかこういう対応はできないものだ。
もちろんこれは、中垣さん自身のセンスに
支えられてのものだけれど、
読んでいると、会場の雰囲気全体が、
その場に隠れていたおもしろさを
引き出してきているのではないか
と思わせるようなシーンが多々ある。

会場のノリが作り出す「いいライブ演奏」は、
そのとき限り、演奏者も驚くような
ある到達点を示すことがある。

そんなことをふと思い出す
ライブ感あふれる授賞式と講演会の
「イグ・ノーベル賞顛末記」になっている。

 

 

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