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2015年7月 5日 (日)

「妙正寺川」歩き (2)

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「妙正寺川」歩き (2)

- 「起こるかもしれない」を前提とした準備 -

 

前回からのつづき。
「妙正寺川」歩きの2回目。

 

妙正寺川を川沿いに歩いていると、
このような

P5101444s

細長い大きな開口部(スリット)を
何度か目にすることになる。

さてさて、これは何でしょう?

 

なぜ、こんな低い位置に大きな口があるのだろう。

川が増水した時のことを考えてみよう。

子どもでもわかる通り
開口部には大量の水が流れこむことになる。

そう、正解は、
「調節池」の取水口だ。

まずはいくつか並べて見てみよう。

【妙正寺川 落合調節池】

P5101451s

開口部の上は公園になっている。
川が増水すると、その地下に水が流れ込んで
下流の洪水を防ぐ、という仕組みだ。

P5101453s

 

中野区の哲学堂公園まで行くと、
【妙正寺川 第一調節池】

P5101467s

P5101471s

 

そのすぐ隣には、
【妙正寺川 第二調節池】

P5101473s

と大きな調節池が並んでいる。

どこも外からでは、口しか見えないが、
中はいったいどうなっているのだろう。

第二調節池のそばに断面図があった。

P5101475ss

右端の数字をご覧あれ。
なんと深さ23m!
隙間に入る、なんていう量ではない。
巨大な地下空間が公園の下に広がっているのだ。

P5101475s

案内板によると、この第二調節池は
最大10万m3の水を
一時的に貯留することができる、とのこと。


小学校の標準的なプール
(幅12m×長さ25m×深さ1.2m)
で考えると、270個分以上。

さらに上流に向かって歩くと、
【妙正寺川 鷺宮調節池】

P5101542s

ここも調節池の上は、グラウンドになっている。

P5101540s

 

森林が減り、道路を始め
あらゆるところが舗装されて土が消え、
自然の力による保水・吸水能力が
大幅に衰えてしまった都会は、
水害に対してほんとうに弱くなってしまった。
そのうえ、最近よく話題になるゲリラ豪雨。

川に一気に流れこむ水は、
こんな景色を生み出してしまう。

その対策のひとつとしての調節池。

巨大とは言え、自然の前では小さな池だ、
どの程度の力を発揮しているのだろうか。

 

そう言えば、ここ妙正寺川の話ではないが、
一般的な日本の川の傾斜について、
降った雨が一気に海に流れ込んでしまうことを
元大分地方気象台台長の花宮廣務さん
NHKラジオ文化講演会
「雨と日本人~緑の雨・紅い雨・黒い雨・白い雨~」

(2015年4月19日放送)の中で、
こんなふうに言っていた。

これだけ雨が振っているのにかかわらず
頭から胸ぐらいまで
35%は蒸発して空に返っていくんです。

で、胸から膝ぼんさんぐらい
45%は洪水を起こしながら海に返っていくんです

私たちが使っている生活用水、農業用水というのは
降る雨の20%しか使っていないンですよ。

たくさん降るんだけれど、ほとんどの雨がですね、
もうダイレクトに海に返っていくンですね。

川が急で、一気に海に流れ込むため、
我々が利用できる水は、
降った雨のたった20%でしかないようだ。

 

「一気に海に流れ込む」のと対照的な
平坦な川については、
日本工芸会会長だった
安嶋彌(やすじまひさし)さんが
「最近イギリス漫語-自然と歴史」

こんなことを書いている。
(以下緑色部は「文芸広場」2007年1,2月号からの引用)

 (イギリスの)テムズ川は、全長338kmの長さである。
信濃川の367km、利根川の322kmと比べても遜色がない。

水源のテムズ・ヘッドとロンドンの落差は120mだから、
イギリスがいかに平坦な土地かが分かる。

同じ島国でも日本とは大違いである。

(中略)

これに比べると日本の河川は、短く、かつ急流で、
流量は季節によって激変する。

明治の頃やってきたオランダの土木技師は、
日本の川を見て
「これは川ではなく、滝だ」
といったそうである。

かつて白河上皇は、不如意なものとして、
双六の賽・山法師とともに加茂川の水をあげられた。

日本の川しか知らないと、
約340kmで落差120m、にも驚くが、
平坦さという意味では、アマゾン川について
驚くべき数字を披露している。

 ちなみにアマゾン川も変った川で、
全長が6,200kmもあるが、
河口との水位差は、1,460km上流のマナウスで22m、
3,460km上流でも100mにすぎない。

ほんとうだろうか。
思わずネットでも検索してしまった。
日本語版Wikipediaによると、

アマゾン川の標高は
河口から1,600km遡っても32m 、
3,800km遡っても80m しかない。

ピッタリ一致というわけではないが、
まぁ、似たような数字だ。

「降った雨が海に流れ込む」日本の川とは大きく違う。

話が横道にそれ過ぎてしまった。

閑話休題。

もちろん、調節池だけでなく、
川の氾濫についての準備は至るところでなされている。
よく目にするのは「氾濫危険水位」の表示。

P5101501s

そして「警戒水位」の表示

P5101554s

 

川の水位を見張っている
妙正寺川「河川情報システム」も
あちらこちらにある。
装置には「水位警報局」と書いてある。

P5101528s

 

また、野方駅手前、環七通りには「冠水表示板」も。

P5101508s

完全に避けることはできない以上、
「起こるかもしれない」を前提とした準備は、
なんにつけても大事なことだ。

妙正寺川の洪水対策は、十分
「起こるかもしれない」を前提とした準備となっている、
と言っていいだろう。

「妙正寺川」歩きの話、もう少し続けたい。  (つづく)

 

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コメント

hamaさん こんにちは
最近はあちこちで避難勧告が出たりと、水の恐ろしさを身近に感じる季節です。
オランダの技師、デ・レーケが言ったという有名な言葉「これは川ではない滝だ」の川、富山の常願寺川に随分と昔に尋ねたことがあります。立山の雪解けを集めて流れる川を見て、故国でライン川などのゆったりした流れを見てきたオランダ人技師がそういうのも無理ないなと思いました。
一方、オランダのポルターで家に背丈より上の壁や柱に印があって、これは19○○年?の洪水の時に浸水した位置を示しているということも聞いたことがあります。上流から少しずつ水位が上がり、逃げられない洪水の恐怖もまたあるのだと思いました。4年ほど前のタイの洪水も似たような洪水でしたね。
それぞれの土地・気象に合わせた防災計画が必要ですね。

Khaawさん、
コメントをありがとうございます。
デ・レーケ、初めて知りました。
よくご存知ですね。
調べてみると、30年も日本に滞在し、
砂防や治山の分野で大活躍した方とか。

「お雇い外国人」という言葉は
どうしても好きになれないので使いたくないのですが、
世界遺産になった富岡製糸場をはじめ、
明治初期、
さまざまな技術を伝えるために
海外からやってきた外国人の方々と日本人は
いったいどんな関係をもち、
どんな働き方をしていたのでしょう。

もちろんいろいろあったことでしょう。
でも、想像するだけで、ある種の
新しい時代の勢いみたいなものを感じます。

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