おいしい料理とは
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おいしい料理とは
- 高橋忠之さんの言葉 -
昨日、2015年6月6日の朝日新聞朝刊一面には、
こんな記事があった。
伊勢志摩で2016年、主要国首脳会議(サミット)が
開かれることが決まったようだ。
会場となる予定のホテルは、
賢島にある「伊勢志摩観光ホテル」。
伊勢志摩観光ホテルと言えば、知る人ぞ知るの料理長
高橋忠之さんがいたところだ。
地元の食材を大事にする数々の名物料理だけでなく、
言葉においても多くの名言を残している高橋さん。
今日はそんな中から、
特に印象的だったインタビュー記事をひとつ紹介したい。
古いスクラップブックをめくって見つけた記事は、
なんと1988年4月28日の朝日新聞夕刊。
今から27年も前の記事だ。
日に焼けてまさに真っ黄色になってしまっている。
(以下水色部は記事からの引用)
聞き手は、2008年に亡くなってしまった筑紫哲也さん。
「筑紫哲也の気になるなんばあわん(NO.1)」
高橋さんは、中学卒業後、修行15年。
29歳の若さで料理長に就任した。
【徒弟制度的な修行について】
科学的に解体していって、
もう一回積み重ねていって
組み立てられるものだと思います。
ものを正しく計る、
分量、時間、温度を計ることで99%出来る。
修業は一年あれば十分です。
もちろんこれは「料理を作る」に限った話。
「料理法を考える人」「料理長」となれば、
別な目が必要になる。
それは自然を見つめることです。
アワビの場合だと太陽と土と海。
太陽の光が届くところに海草がある。
その海草の生育には川の水がどういう土壌を得て
海に流れ込むかを知る。
そしてプランクトン、海底の地形、黒潮の流れ。
それに水温、水質、塩分など、
データから問いかけていくとアワビの成長の姿が決まる。
それから素材の成分。
例えば、たんばく質、糖分、脂肪などを追いかけて
火の通し方、調味料などを考える。
脂っこい魚に
バターやクリームを加え過ぎるとまずくなる。
アワビについて意外な発見は
大根といっしょに炊くと、
やわらかさとおいしさが出てきたことです。
タコと大根を炊く料理法から
偶然ヒントを得たんですが。
【こちらから行かなくても、むこうからやってくる】
旅を除いて志摩を動かない。
代わりにフランスから有名な料理人がやってくる。
その一人、
「好きなだけ滞在して私の店で食べていいが、
パリに店を出さないでくれ」。
別の一人、
「もう一回来る。
その時は食べるのではなくて一緒に働きたい」
「ご飯とみそ汁にたくあんがあれば一番」
という声に対しても、それを否定することなく
自分の料理をひと言で表現している。
それと食べ慣れない非日常の
ごちそうのおいしさとは別の世界。
一緒にしちゃいけないんですね。
私が作っているのは非日常の料理。
無類の勉強家で、
休まない、眠らない(睡眠四時間)。
月百冊の本を読む読書家?
の質問に。
本を買ったことがあります。
(略)
「料理人の世界」には反発がありましたが、
字をひっくり返したもの「世界の料理人」になるんだ、と、
いろいろ考えさせられる言葉の数々だが、
いまでもこの記事を捨てられずにいるのは、特に
【おいしい料理とは】
の説明があまりにもすばらしかったからだ。
物語というか神話に近いものを持たねば
だめだと思うんです。
食べておいしかったということと併せて、
食べてみたいという潜在的なお客さまを
つくり出すことからスタートする。
日本料理は様式美の世界だと思うんですが、
フランス料理は絶対美の世界に
お客さまの気持ちをもっていかないと、
ドラマは成功しない。
おいしかっただけでなくて、
またいつか引き返して来たいと
思わせるまでいかないと・・・。
食べたことのない人には、
「食べてみたい」と思わせる。
食べた人には、
「またいつか引き返してきて、
もう一度食べたい」と思わせる。
「食べておいしかった」だけではダメなのだ。
これ、料理だけでなく、
「いい仕事」にはすべてあてはまる名言だ。
読んだことのない人には「読んでみたい」と思わせる。
読んだ人には「もう一度読みたい」と思わせる。
ほんとうにいい小説にはそういう魅力がある。
「読んでおもしろかった」だけの小説は、
「食べておいしかった」で終わりの料理と同じ。
仕事どころか人も同じかも。
「会ってみたい」「もう一度会いたい」
そう思わせる人こそが、
まさに魅力的な人物なのではないだろうか。
【オマケ1】
記事右上隅の広告にご注目あれ。
「5月17日創刊 AERA 全72ページ300円」
週刊アエラは1988年5月の創刊だったんだ。
【オマケ2】
2015年と1988年の記事を同時に見て、
その文字の大きさの違いにビックリ。
同じ朝日新聞だ。
同一解像度でスキャンしたものを並べてみた。
つまり実サイズ比そのまま。
上が2015年の記事、下が1988年の記事。
これを、情報量が減ったと考えるか、
読みやすくなったと考えるか。
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