「勝つ論理と負けない論理」
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「勝つ論理と負けない論理」
- 「ヒト科」の生き物にふさわしい社会か? -
ゴリラの社会から人間の社会を見つめる
京都大学学長の山極寿一(やまぎわ・じゅいち)さんの、
NHKカルチャーラジオでの講義。これまで
(1)
「円くなって穏やかに同じものを食べる」
(2)
言葉は新しい道具
について紹介した。
ほかにもいろいろ考えさせられる話題があったので
この講義の内容、もう少し続けたい。
今日は、「勝つ論理と負けない論理」について。
(以下水色部、2014年12月7日の放送から)
【勝つ論理】
これは構えで決まる話なんですね。
さっきのニホンザルは勝つ論理です。
勝敗を決めてしまって弱いほうが引き下がる。
これはヒヒもそうなんです。
ヒヒもニホンザルの仲間でサルと言っていい。
これは、二頭が出会えばどちらかが
一方が「弱い」という態度を表明して、
強い、勝ったほうがすべてを独占する。
だから、ケンカは起こらない。
実はこれすごく経済的なやり方なんですよ。
トラブルを起こす必要がないですから。
始めから勝敗は決まっているんで。
「円くなって穏やかに同じものを食べる」で紹介した通り、
一瞬で勝敗を決めてしまって、
強いほうがすべてを独占するのがサルの社会。
まさに「勝つ論理」の社会だ。
【負けない論理】
つまり勝ちを作らない。
だからみんなでこぞって負けそうなヤツを助けます。
だから勝者ができない。
これは負けない論理なんですね。
あの、体の大きさが違ってもですね、
決して負けるような態度をとりません。
これは構えの美学だと思うんですけれども、
負けない。
でもね、よくよく考えてみたら、
負けないでいることっていうのは、
勝つこととは違うんですよ。
我々人間はそれを混同、今し始めています。
一方、明確な勝敗を決めないのがゴリラの社会。
勝ってもいないが、負けてもいない。
仲間に負けたくない、という気持ちが非常に旺盛にある。
でも、それを見て親はですね、
この子は勝ちたいと思っているんだ、
と思って勝たせます。
そうすると、味方がいない場面で
その子に勝たせてしまったら
その子はどんどん孤独になっていきます。
なぜならば、勝つためには相手を押しのけて
屈服させなくちゃいけないわけですよ。
人間社会にはサルのようにですね、
始めから勝ち負けを作っている
なんていうことはおこりません。
だから勝った途端に
子どもはどんどん孤独になっていく。
仲間を失うわけですね。
屈服しちゃってみんな離れちゃう。
「勝った途端に子どもはどんどん孤独になっていく」
いろいろな場面が頭に浮かぶではないか。
相手と対等な位置に行くっていうことなんですね。
相手に勝つ必要がない。
だから、仲間は逃げません。
ただし、トラブルはずっと持続しますから、
その当事者だけでは解決できないことが多い。
だから第三者が間に入って、「まぁまぁ」と言って
メンツを取り持つ必要があるわけですね。
それがゴリラの社会です。
私たちの社会は
「ルーツとしてそっちの方から来ている」
んだと思います。
「円くなって穏やかに同じものを食べる」で紹介した通り、
ゴリラは「ヒト科」の生き物で、「サル」とは違う。
目を見る「対面」が相手への威嚇にはならず、
最初から決まっている勝敗により、
強いものがすべてを独占するわけでもない。
よって、強いものが弱いものに餌を分配する、という
サルの社会にはない食事の光景が成立する。
我々人間は、ゴリラと同じ「ヒト科」の生き物。
もともと
「強いものがすべてを独占する」
という社会を形成するような生き物ではないのだ。
「勝ち組・負け組」「富の集中」「格差」
今、社会問題として話題になっていることが
ゴリラの社会の話を聞くと、みんな繋がって見えてくる。
「ヒト科」の生き物にふさわしい社会から
どんどん離れていってしまっている現代、
「生き物」のいない「経済論」で修正できるはずはない。
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