宇宙人が地球を観察していたら
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宇宙人が地球を観察していたら
- しているのではなく、させられている? -
福岡伸一著「動的平衡2」木楽舎
を読んでいたら、こんな記述があった。
(以下水色部引用)
現在、地球上で最も多く存在している生物はトウモロコシである。
人間は約70億人いて、
1人の体重を50キロとすると3.5億トンくらいになるが、
トウモロコシは毎年8億トンちかく収穫されている。
2番目が小麦で約6億トン、3番目が米で約5億トンである。
もし、宇宙人が地球を観察していたら、
この星を支配しているのは
トウモロコシという黄色い実のなる植物で、
彼らはヒトに世話をさせて隆盛を極めていると思うだろう。
宇宙から見ると、地球上では
トウモロコシという最大勢力かつ隆盛を極めている生物が、
人間という弱小生物を奴隷のように使って、
自分たちの世話をさせている。
そんな風に見えるのかもしれない。
「おもしろい!」と思いながらも、
「宇宙人が地球を観察していたら」のフレーズに、
ある景色が急によみがえってきた。
あのとき、ちょうどその言葉が浮かんでいた。
米国ニューメキシコ州に、1995年に世界遺産にも登録された
カールズバッド洞窟群国立公園(Carlsbad Caverns National Park)
という国立公園がある。
その名の通り、巨大な洞窟の自然遺産。
(暗くてコンパクトカメラではほとんど写せなかったのですが、
少しでも雰囲気が伝われば、と思い、
1997年に家族で遊びに行った時の写真を少しだけ添えておきます。
まだフィルムによるカメラの時代。プリントをスキャンしたもの)
ここの洞窟はとにかく規模がケタ違いに大きい。
Wikipediaには
全米最深(489m)、長さは世界第5位(203km)という、
数字で表現されているが、
見どころのひとつである「ビッグルーム」と呼ばれる
空間だけでも、
天井の高さが80m前後、サッカー場が14面も入る、
とてつもなく大きな石灰岩の洞窟である。
中には、つらら石、石筍、石柱などなど、
さまざまな石灰生成物があり、その造形を楽しむことができるが、
歩いて回ると暗い洞窟の中ながら、その巨大さと迫力ゆえに
「洞窟の中」であることを忘れてしまう。
暗い巨大な別世界に連れて来られた、という感じ。
というわけで、洞窟だけでも見どころ満載なのだが、
この公園には夏の間、もうひとつ大きな観光の目玉がある。
ちょっとこれをご覧頂きたい。
正面の大きな洞穴を囲んで円形劇場のような座席が作られている。
さてさて、これは何でしょう?
この円形劇場こそが、もうひとつの舞台。
実はこの巨大な洞窟には、
メキシコ・オヒキコウモリ(Mexican Free-tailed Bat)
をはじめとする何種類かのコウモリが棲みついていて、
6月頃に出産、そして、10月頃まで、
ここで子育てをしながら過ごしているのだ。
国立公園として、洞窟も周りの自然も大切に保護されているので、
子育てには絶好の環境といえるだろう。
10月以降は冬の寒さを避けて南のメキシコに移動するらしいのだが、
それまで、ここで子育てをするコウモリの数は
実に、数十万匹から百万匹とも言われている。
日中は真っ暗な洞窟の中にいる数十万匹のコウモリ。
そのコウモリたちが、日没直前、
エサを求めて一斉に飛び立つのだ。
「一斉に、円形劇場の中心にある、あの洞穴から」
日没を目指して集まってきた観光客は、
円形劇場の席に座り、パークレンジャーの話を聞きながら、
コウモリが飛び立つのを待つ。
パークレンジャーは、
一晩で自分の体重の半分近くものエサ(虫)を食べることやら、
天井にぶら下がったまま出産をすることやら、
赤ちゃんもお母さんにしがみついて
逆さのままお乳を飲むことやら、
コウモリの解説をする一方で、
シャッター音や
フラッシュ充電時の「キーン」という音に敏感なので、
飛翔を見る時は絶対に写真を撮らないでくれ、といった
注意事項の徹底も忘れない。
日没の時間が迫ってくる。
まだか、まだか、の観光客の強い期待に煽られてか、
パタパタと2,3匹のコウモリが洞穴から飛び出してきた。
緊張感が一気に高まる。
まさにその直後、
パタパタパタ、パタパタパタ、と
奥の方から低い音が迫ってきたかと思うと、
突然、黒い煙のようなものが洞穴から湧き出してきた。
コウモリだ!
先頭グループだけで数千匹はいるだろうか。
最初の一群が飛び出してくると、
それに続いて、黒い帯はどんどん成長していく。
ものすごい数だ。
穴から黒く立ち上った柱は、まさに煙のごとく、
高くのぼっては空中で薄くなっていく。
パタパタパタ、パタパタパタ。
洞穴からはすこし距離があるものの、圧倒的な数のせいか、
体温を感じさせるぬわっとした生暖かい空気が
独特な生臭さといっしょに流れてくる。
大集団の飛翔は15分から20分くらいは続いただろうか。
その後もしばらくは、
パラパラと小集団が間欠的に飛び出してきたりもした。
「もう、出てこないよね」
最後尾を見送るころにはかなり暗くなっていた。
観光客は少し離れた駐車場にゆっくりとした足取りで向う。
まわりは灌木だらけの沙漠地帯で、近くには街もないので、
一面まさに真っ暗な世界だ。
そんな中、数百台の車が「一斉に」ヘッドライトをつけ、
片側一車線の道にお行儀よく一列に並んで「一斉に」動き出す。
その時、「宇宙人が地球を観察していたら」
われわれ観光客自身が、コウモリのように見えているかも、
とふと思った。
毎夕、日没後、ある時間になったら
真っ暗な沙漠の中、突然発光して一斉に動き出すコウモリ。
あるいは、これ、われわれは見に来たつもりになっているが、
実はコウモリのほうに完全に操られているのかもしれない。
気がつけば全員、
無意識のうちにコウモリ時間で動いているのだから。
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興味深いお話をありがとうございます。
私は行ったことはありませんが、夕刻に群れをなして飛んでいくコウモリが目に見えるようです。
そして、帰っていく車のヘッドライトの「群れ」。「宇宙人が地球を観察していたら」ライトをつけて行く人々の群れをどう観察するか?
ちょっと広大な話に、いろいろな風景を想像してしまいました。
今やロケットで宇宙に飛び出し、宇宙から地球の某を細部にわたって観察できる時代、ガガーリンが言ったように、いつまでも、青いきれいな地球でありたいものです。
投稿: Ossan-taka | 2014年7月12日 (土) 21時26分
Ossan-takaさん、コメントをありがとうございます。
米国は、食べるものに魅力はありませんが、
大自然系はすばらしいところがいっぱいあります。
特に国立公園は、管理も設備も必要最低限、
でも十分というラインをキチッと守っていて、
どこも気持ちよくすごせます。
あの米国で、
公園内にはマクドナルドですら一切出店できないのですから。
安っぽい土産物屋の看板だらけになってしまっている
日本の国立公園も、そういった点はぜひ見習って欲しい。
自然そのものがすばらしいのだから・・・
国立公園の魅力もときどき書いていけたら、と思っています。
投稿: はま | 2014年7月13日 (日) 10時39分