世界ことばの旅 (1)
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世界ことばの旅 (1)
- 80言語を収録したCD -
映画「アナと雪の女王」
映画そのもののヒットに続いて、
今週発売になったBD/DVDのほうもおおいに売れているらしい。
私自身は出張の際の機内映画として観たので、
どちらかと言うと観たのは偶然という感じなのだが、
映画館の大きなスクリーンで見れば
印象もずいぶん違っていたかもしれない。
この映画、吹き替えも含めて音楽についての話題が多い。
そんな中、私の一番のお気に入りは、やはりこれだ。
「Let It Go」の25言語連続バージョン。
(下の写真、
またはここをクリックするとYouTubeに移って再生されます)
これだけのハイレベル、
かつ同質の声の持ち主を25言語で揃えてしまう
ディズニーの制作力の底力と、
なんの違和感もなくごく自然に繋がっている編集力の完璧さに
とにかく驚かされるが、
各歌手の振りや表情の違いも興味深く、
思わず何度も見てしまう。
(こうしてお顔まで見られると、
美しいのは声や歌だけでないこともよくわかるし...)
中国語は、
Mandarin(マンダリン)とCantonese(広東語)の
両方が入っているし、
Catalan カタロニア語
Serbian セルビア語
Flemish フラマン語
なんていう言語も含まれている。
このクオリティで全世界で42言語版も作ったというのだから
ほんとうに驚く。
PCのOS Windows7が提供している言語数だって35だと言うのに、
って比較にならないか。
さて、世界の言語と言えばずいぶん前に、
英語関連の書籍でよく知られた研究社が、
「世界ことばの旅」というCDを出していたことがある。
80言語が録音された言葉のカタログ。
2枚組のCDで発売当時6200円。
買ったからと言って、
しゃべっている内容の翻訳がついているわけでもなく、
何を言っているのかもわからない言語をただ聞き流すだけ。
友人のひとりが、
「こんなのがあるよ」と
その存在を教えてくれたとき、
「そんなもの誰が買うんだよ」と
おもわず反応してしまった記憶がある。
ところが、
気がつくとなぜか買ってしまっていた。^^;
収録されている80言語は、コレ。
CDには解説の小さな小冊子がついている。
企画から制作までの話やら、各言語の特徴やらが、
コンパクトにまとまっている。
その中からちょっと興味深い部分を紹介したい。
監修の東京外国語大学教授の千野栄一さんは、
こんなふうに書いている。(以下水色部小冊子からの引用)
たまたま職業上の要請から日本人としては
比較的数多い外国語を耳にしたことのある私でも、
数えてみると、この2枚のCDに収録されている言語の中で、
きいたことのある言語は半数以下の30にすぎず、
きいただけですぐに何語かの見当がつくのが20、
さらに話されている内容が分かるのはその半数の10なので、
監修といっても、このCDを作るのにあたって、
若干の助言をしたにすぎない。
この80言語、元は日本コロムビアの企画によるものだが、
「それぞれの言語はすべてその言語を母語とする
ネイティブが吹き込んだものです」
とCDの裏表紙にも明記してある通り、
「話し手の第1言語」であることを条件に
集めたものになっている。
これらの録音を集めて回ったのは、
当時、千野さんのゼミにいた遠藤健也さんという
たったひとりの学生さんだった。
遠藤さんは、録音機材をかついで外国人の知人の間を走り回った。
留学生会館、大学、大使館...
そうやって、さて、ナン言語集められるものだろうか。
1979年、携帯電話もネットもない時代のこと。
情報収集能力とともにフットワークが命だ。
その結果、驚くべきことに遠藤さんは
80言語のうち77言語を「東京」で録音してしまったのだ。
アイヌ語、
高砂族といわれる台湾のツォウ族の言語ツォウ語、
南ア共和国のコサ語、
この3言語だけが、
録音を提供してもらったもので東京以外での録音。
(例外と言えば、80言語のうち、
「エスペラント語」だけは、
「話し手の第1言語」の条件を満たしていない。
第1言語が人工言語である「エスペラント語」という人は、
残念ながらいないからだ)
いずれにせよ、3言語を除いて、ほかはすべて
1979年の前半に東京で収録された言語からできている、
という点でもユニークな記録になっている。
さて、話者を得られたとしても、
「何を録音するか」という問題がある。
録音するにあたって、何を録音するかは大きな問題であった。
すべてに共通なテキストがあればそれにこしたことはないが、
そんなことは不可能であり、
もしそうしても不自然なものができあがったであろう。
(中略)
もし、ここで
「おはよう」、「さようなら」というような
挨拶を入れようとしたら大混乱に陥ったに違いない。
われわれはついこのような挨拶が
どの言語にもあると思いがちだが、
例えば、「さようなら」一つをとりあげても、
言語によっては、立ち去る人と、残る人では違う場合や、
お客と主人では違う場合など、
いろいろなケースがあるからであって・・・
まさに、英語ではGoodbyeだけなのに、
日本語では「行ってきます」「いってらっしゃい」のある世界だ。
何を録音したのか。
この話、もう少し続けたい。
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