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2014年3月 8日 (土)

したの? されたの?

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したの? されたの?

- 主役は『ワタシ』なんだから -

 

前回、「お茶が入りました」と言う日本語の自動詞的表現について書いたが、

高橋こうじ著「クイズで楽しむ日本語のふしぎ: あなたの日本語力を磨く100問」新水社
を読んでいたら、受動態、能動態について、おもしろい問題が出ていた。
                          (以下水色部、本からの抜粋)

 

本はクイズ形式になっているので、まずは問題から考えてみよう。

問題86 したの? されたの?

 日本語と日本の暮らしにすっかり慣れたドロシーさんとバーバラさんが、
来日当時の誤解や勘違いを笑いながら打ち明けあっている。

 ドロシー 「私は病院の待合室で周囲の人の話を聞くうちに、
       『あら、ここは引退した外科医が患者として集まる病院なんだわ』って
       思ったのです」

 バーバラ 「私は、年末に町内会の人たちと話していて、
       『ここは、慈善募金の活動家が集まっている町なんだ』って思いました」

 二人とも、日本人が「私は……をした」と言うのを聞いて、
「した側の人」だと思ったら、実は「された側の人」だったのだという。

それぞれどんな言葉を聞いたのだろう。

 

解答篇はこうなっている。

ドロシーさんは、
私は(内臓などの)手術をした」という言い方を聞き、
 みんな外科医なのだと思った。

バーバラさんは、
私は募金をした」という言い方を聞き、
 箱を持って街頭に立ち、寄付金を募ったのだと思った。

 

「私は手術をした」の解説は...

 私たちは「手術を受ける」患者の側であっても、
「私は去年、胃の手術をした」などと言います。

おそらく、「自分は手術による治療を選択、決断した」という思いが
この言い方を生み、定着させたのでしょう。

 

病院関連でよく耳にするこの能動態、私も前から気になっていた。

「手術してきた」 「傷口を縫ってきた」 「注射してきた」

どれも「された側」なのに普通はこのように能動態的表現を使う。
なぜなのだろう?

 

この話、ある酒の席でしたら、
「病院関連ばかりでもありませんよ」と反応してきたのは女性陣だった。

「パスポート用の写真、撮ってきた」もそうだし、

「髪切ってきた」もそうですよね、と。

もちろん、自分が撮ったり、切ったりしたわけではない。

 

「どうして能動態的な表現を使うのだろう?」と聞いてみると、
「たぶん」と前置きはあったものの、興味深い回答が返ってきた。

「『写真撮ってきた』『髪切ってきた』ではなくて、
 『写真を撮られた』 『写真を撮ってもらった』、
 『髪を切られた』 『髪を切ってもらった』、
 って言われた時のことを考えてみて下さい。

 反射的に『えっ、誰に?』って聞きたくなりません?

 それって、関心の主役が向うに移っちゃうってことでしょ。
 それがイャなんじゃないかな。
 もちろんそれを意識して言っているわけじゃないけれど。

 写真も髪型も、主役は『ワタシ』なんだから」

 

なぁるほど。主役は『ワタシ』なんだから、か。

 

 

この本、日本語のおもしろいネタ満載だ。

「洗う前」と「洗った後」、正反対と言ってもいい状態のものなのに
同じ「洗濯物」を使ってよく混乱しないな、みたいな楽しいネタから、
現在の心境なのに「困った」「参った」「弱った」などはなぜ過去形で言うのか。
似た動詞なのに「苦しんだ」「悩んだ」とは言わないのに。といった深い話まで、
いろいろな角度からの日本語の問題100問が並んでいる。

日本語好きな方、ぜひ挑戦あれ。

 

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コメント

いつもながら楽しい話題有り難うございます。

欧米圏の人の方が日本人よりもずっと自分中心と思っていたのですが、意外と日本人もちゃんと自分を主張していたのかと新たな発見がありました。

外科医の私ですが、患者さんが「手術をしてきた」と言ってくれた方が何となく嬉しいです。痛い思いをしてなおかつ「切られてきた」では患者さんが可哀想ですから

コメントをありがとうございます。
>外科医の私ですが、患者さんが「手術をしてきた」と言ってくれた方が何となく嬉しいです。
お医者さま自身からコメントがいただけるなんて、まさにネットならではのことで、
それこそこちらが嬉しくなってしまいます。

omoromachiさんのような優しい先生に「切ってもらえる」なら、
患者さん自身も「よし、治そう」って能動的に思えるのではないでしょうか。

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