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2014年1月12日 (日)

カマキリは雪を予想できるのか?

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カマキリは雪を予想できるのか?

- 自然界にはすでに多くの信号がある。 -

 

前回、芝居やテレビで降る雪とほんとうの雪との違いを
津軽弁でやさしくうたった伊奈かっぺいさんの詩を紹介した。

「雪」と聞くと、もうひとつ思い出す文章がある。

「暮しの手帖」2005年春号に
(株)イートラスト 特別顧問・工学博士の酒井輿喜夫(さかいよきお)さんが書いていた
「カマキリの雪予想」   (以後水色部は引用)

 

北陸地方を襲った昭和38年の豪雪「38豪雪」を機に、酒井さんは、

 ・・・なんとか積雪の予想ができないものかを考え始めた。
雪の多い地域だけに、雪にまつわる言い伝えは、数多く残されている。

「カマキリが高いところに産卵すると大雪」

「蛇、蛙が地中浅く冬眠すると少雪」
などの言い伝えは、狩猟や農耕生活から生まれた経験的なものに過ぎないが、
気象の予想を自然の営みから読み取りたいという、先人の生活の知恵でもある。

 

酒井さんは、この言い伝えに沿って、観察を始めた。

カマキリは、時には一本の木に今年、昨年、一昨年と、
三年分の卵嚢が残っていることがある。
この卵嚢の地上からの高さと積もる雪の高さを、時系列で比較してみることにした。

うまくいきそうと気をよくしたものの、そう簡単なものではない。

気象情報で積雪1mと発表されても、同じ町内の吹きさらしのところは20~30cm。
反対に吹きだまりでは2mもある。
カマキリの卵嚢の高さは同じである。

また、市街地に棲むカマキリの卵嚢は、
建物や構造物に大きな影響を受けているから始末に困る。
そこで、もっぱら統計的に補正しながら、もっとも深い積雪の予想を始めてみた。

・・・

精度の向上と、この要望を満たすため、いきおい調査する場所も増やさざるをえない。

多い年では、長野、富山、福島、山形など、
約9000kmの道のりで279カ所、2842個の卵嚢を調べたこともあった。

 

多くの観察を通じて、酒井さんはカマキリの産卵位置と積雪量に関係があることを確信するようになる。

 今にして思えば幼稚な調査だったが、10年も観察していると、
言い伝えにはかなりの信憑性があることを確信するようになった。


・・・

 1986年(昭和61年)、長岡は最深積雪228cmの大雪となった。
ある日、お客様から
「あんたの積雪予想はよく当たる。世間話ではなく、
 ちょっとした印刷物にしてもらえないか」
と要望があった。

・・・

 最深積雪がどれくらいかを予想するのは、人間の感覚。
一方、カマキリはなぜこの場所を選んだのかは、
カマキリの「心と目」になって、環境をみることが必要になる。

これが積雪の予想をまとめた「冬を占う」の第一歩となった。

 

昆虫の行動からわかることは、積雪量だけではない。

 カマキリの産卵を調べていると、天気もかなり正確に予知することが分かってきた。

 例えば、カマキリの産卵時、卵嚢は雨に滞れると溶けてしまうので、
産卵に要する4、5時間は雨が降らない。
また、寒気や初雪が早い年は産卵も早く、遅い年は産卵も遅い。
つまり、カマキリは冬の気温の変動を予知して産卵を始めるのである。

 アシナガバチは、春先に巣造りを始める際、台風や強風を予知して、
もっとも風の抵抗の少ない方向で巣を造る。
さらに雨の多い年は、物陰にかくれるようにして造る。

野ネズミやモグラは、洪水や水害が起こる前に高台に避難したり、
地震の2、3日前に逃げる。

鳥などは、落雷の前に早々と避難している。

なんとも神秘的に感じる。

 

昆虫はどこから気象情報を得ているのであろうか?

 いったい、昆虫や動物たちは、完璧ともいえる気象情報を
どこから得ているのであろうか。
発信源は? 受信手段は? 

・・・

 ある日、思いがけず解決の糸口をつかんだ。
何気なく、卵嚢が産み付けられた杉の葉に手が触れた瞬間、
枝が微かに震えているように感じたのだった。


振動数は緩やか、つまり、振動周波数は低く、振幅は極めて小さいということである。
それからというものは、この謎の振動を追跡するのに明け暮れた。

 

枝が振動している!? よく気がついたものだ。

謎の振動は、地中から発信していて、樹木が共振していることが分かってきた。

さらに、樹木の幹に水分の量のちがうところがあり、
その年の気候によってその位置が上下に移動する現象を確かめることができた。

また、樹木はその年の気候によって、土壌の水分が変動するため、
水分の量のちがう部分を高くしたり低くしたりして、
一定の含水量を保つことが分かった。

この位置こそが、降雪期に入った時の最深積雪の位置、
つまり、雪面より高からず、低からずの位置で、
昆虫や動物は樹木が発信する位置を利用していたことになる。

 

となると、カマキリの産卵を待つ必要はなくなる。

 そこで、カマキリの卵嚢に頼らず、樹木の弁の位置を探る手段を開発することにした。

自然林に生息するカマキリの卵嚢の高さを調べて、
人の住む地域の積雪を予想するための複雑な計算をするより、
予想したい場所に木が生えてさえいれば、その木を測ればいいことになる。

卵嚢を介した予想と木から調べた結果を、数年間、比較してみたが精度に問題はなかった。

 最新の実例では、2003年(平成15年)秋に予想した長岡市内14カ所の平均値は99cm。
翌年2月に実測した14カ所の平均値は101cm。実測値は予想より2cm多かった。

 

紙幅の都合からか、この記事だけでは不明なことが多く、
木々の振動、カマキリの産卵位置、積雪量との関係が
スキッと明確になる、とまでは言えないが、
木々や昆虫は、これから積もるであろう雪の量について、
なにかを知っているのではないか、と考えることはおもしろい。

 

 今、私たちは、自然から学ぶことを忘れてしまったようだ。

人間のご都合主義で自然を破壊、ひょっとして、人間が地球の癌細胞かも知れない。
私は子供のころ、
「親と自然に逆らうな」
と親に言われた記憶がある。
今、自然界は、慢心した人類に反撃を加えているように思えてならない。

・・・

 台風や大雨、地震といった自然災害は、広域的に発生する。

・・・

 せめて被害を最小限に食い止め、犠牲者を出さないためにも、
自然災害の予測はもっとも重要な課題だろう。
傍観するのではない。
必死に取り組めば、必ず避難する時間は確保されるものと考えている。

すでに多くの信号が自然界にはあり、
植物や動物はそれらをちゃんと受信している。

人間だけがそれらを感知できず、あるいは感知しようとせず、
科学や知識に振り回されながら、
実は大きな遠回りをしているのかもしれない。

 

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コメント

「すでに多くの信号が自然界にはあり、植物や動物はそれらをちゃんと受信している。」
そんな例は多くの伝承などにも見られますね。
「人間だけがそれらを感知できず、あるいは感知しようとせず、」
古代、人間も「それら」を感知できたと考える人もいる。「第六感」はその名残りであると。

そう考えると、確かに、「科学」なんてものは、感知できたはずの「それら」を理論づけて探り続けていることなのかもしれませんね。
そして、その中には「科学」で説明しきれないもの、「感」のようなものが存在する。それこそが「科学」の限界……?
追いかけても追いかけても、残る謎、その存在が人間を駆り立てるのは、生物学界だけではないのでしょう。

いや、興味深い話を読ませてもらいました。

Ossan-takaさん、

コメントをありがとうございます。
>人間も「それら」を感知できたと考える人もいる。
私もそう思います。
いつごろからか頭でっかちになって、
理屈で説明、解明できることだけを信じるようになってしまった気がします。
人間だって動物の一種なんだから、本来そういう感性がないはずはない。
頭で塞いでしまっているだけではないかと。

自然からの信号だけでなく、すべてのコミュニケーションにおいて、
もっともっと「感じる」べきなのでしょう。
そういえば、今書いていて思い出しまたが、
ブルース・リーの名セリフにありましたね。

Don't think. Feel! 「考えるな、感じろ!」

I personally value the effort you placed into your conclusions and hope to see more of your opinions in the near future.

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