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2013年12月21日 (土)

役に立たないモノは魅力的

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役に立たないモノは魅力的

- 人間はウイルスが積み重なってできたもの? -

 

(一回割り込みがあったため、前々回からの)DNAの話の続き。

石浦章一著「サルの小指はなぜヒトより長いのか」(新潮文庫)
を読みながらのDNAの話の2回目。(以下水色部、本からの引用・要約)

間が空いてしまったので簡単に復習すると、前回のポイントは次の2点。

* DNAにはタンパク質の設計図となる「遺伝子」のほか、
  タンパク質の合成には使われない「ジャンク」と呼ばれる部分がある。

* 遺伝子の中にも、「大事な部分(エキソン)」と「いらない部分(イントロン)」がある。

では、このタンパク質の合成には使われない「ジャンク」「イントロン」といった部分は、
DNA全体の中でどの程度の比率で存在しているのであろうか。

 

【適所で発現するよう調節している「転写調節領域」】

エキソンの間にあるイントロンは切り出されますが、
では、一番最初のエキソンの前にある部分は何かというと、
この部分は遺伝子をいつ、どこで、どれくらい発現させるかを決めている部分なんです。

遺伝子は体の中で、みんな同じようにできては困ります。
髪の毛のタンパク質は髪だけで作られなければいけないし、
脳の遺伝子は脳だけで発現しなければいけません。

そのような調節を行っている部分が遺伝子の前に存在し、
時として後の方に存在する場合もあります。

この部分を転写調節領域と言いますが、
エキソンとイントロンにここを含めて全部を広義の遺伝子と言います。

 

三度の登場となるが、先に示した図2をココでもう一度示しておきたい。
転写調節領域とエキソンとイントロン、この部分が「遺伝子」というわけだ。
一番上の青い矢印<遺伝子>の範囲ということになる。
Mrna
   図2 DNAからタンパク質ができるまで

 

 

【では、遺伝子以外のところは? ジャンクは何と7割!】

 そうすると、遺伝子以外のところって何でしょうか。
遺伝子以外の部分をジャンクと言いますが、全くランダムで、
文字がどう並んでいるか見当も付かない、ただ並んでいる、という部分です。

人間の場合は、このジャンクと遺伝子が7対3くらいの割合になっています。

 

【「大事な部分(エキソン)」と「いらない部分(イントロン)」の比率のほうは?】

 実は私たちのDNAでエキソンという部分は非常に少ない。
逆に、イントロンという部分は非常に長いことがわかってきました。

人間の場合は、1対20くらいの長さです。
エキソンが1としますと、イントロンが20くらいあります。

 

つまり、ざっくり長さの比で絵を書くとこんな感じになる。
一番左側の小さな青い部分のみが「大事な部分」というわけだ。

Hiritsu
   図3 DNAの中のエキソンの割合

 

【体を作る情報はDNAの中のわずか2%】

つまり、人間の遺伝子はDNA全体の約30%で、
エキソンの部分に限ると約2%しかないということになります。

つまり、私たちの体を作っているDNAの部分は全体の2%と、非常に少ないんです。

 

では、DNAの7割を占めるジャンク部分には、いったいどんな情報が眠っているのだろう。

【人間のDNAの三分の一はウイルスの欠片(かけら)】

 面白いことに、このジャンクと呼ばれているところに
驚くべきものが存在することがわかってきたんです。

人間のDNAの70%を占めるジャンクの部分に、
なんとウイルスの欠片みたいなものがいっぱい見つかってきたんです。

私たちのDNAの約30~40%、つまり70%あるジャンクの
半分くらいはウイルスの名残りということがわかってきました。


私たち人間は、昔のウイルスの名残りを体の中にたくさん蓄えている、ということなんです。

 

【LINE(ライン)とSINE(サイン)で合わせてDNA全体の34%】

 ジャンクの中には「LINE(ライン)」と呼ばれている、
約6千~8千塩基対の、ある特殊な配列があります。

これは、生物が進化していく途中、
ウイルスみたいなものが体の中に入り込んできた名残りみたいなもので、
私たちの体の中に85万コピーも存在します。
・・・

これは驚くべき数で、僕らのDNA全体の21%を占めています。
つまり、私たちのDNAの二割は、
ウイルスの名残りであるLINEという配列だということになります。

 もう一つ「SINE(サイン)」という配列があって、
非常に短い数百の塩基対の配列なんですが、
僕たちの体は150万コピーももっています。

これは全体の13%を占めています。
二つを足し算して34%です。
すごいですね、僕らのDNAの三分の一はウイルスの名残り配列です。

 

【人間はウイルスが積み重なってできたもの?】

だから、人間は万物の霊長ですばらしい遺伝子をもっているわけではなく、
ウイルスが積み重なってできたものであるらしい、ということも
明らかになっています。

 

少し話が変わるが、遺伝子の話の中ではスプライシング現象についても触れておきたい。

【タンパク質の種類は遺伝子の種類より多い】

 もう一つ大事なのは、
一つの遺伝子から何種類もタンパク質が作られるということです。

これも非常に珍しい現象で、
一つの遺伝子からできるタンパク質は一種類だけかと最初思っていたんですが、
そうではないということがわかってきました。

 

どうやって、遺伝子の種類より多くのタンパク質が作られるのであろうか。
以下の図を見ながら説明を読んでみてもらいたい。

Multiprot
   図4 一つの遺伝子から複数のタンパク質が作られる

 

【スプライシング現象とは?】

これは、タンパク質のスプライシング現象と言います。
・・・

タンパク質というのは飛び飛びにあるエキソンから作られます。

例えば、一つのタンパク質の情報は、
DNA上に飛び飛びにあるエキソン1、2、3という別々のところにあり、
それらがつながってメッセンジャーRNAという一つのタンパク質を作る
中間段階になります。

ここで普通は1、2、3と順番に並ぶわけですが、
ものによっては1から3まで飛んだメッセンジャーRNAができる場合があるんです。

つまり、2を飛ばして1と3だけでメッセンジャーRNAを作ることになり、
ここからできるタンパク質は真ん中の部分が欠けたタンパク質になります。

 このようにして、1と3だけではなく、例えば1と2だけでできるようなものもあるし、
ものによっては2と3だけでできるような場合もあります。

このように、エキソンがいくつかあった場合、
そこからできるメッセンジャーRNAは何通りも可能になります。
そうすると、そこから作られるタンパク質というのは長かったり、
真ん中が欠けていたり、端が欠けていたりするものができて、
結果的に機能の異なるタンパク質が何種類もできてくるわけです。

 これがスプライシングという現象で、
スプライシングを使うと非常に多様なタンパク質を作ることができます。

 

【2万5千の遺伝子から、10万種以上のタンパク質が作られる。】

だから、人間の遺伝子は2万5千しかありませんが、
タンパク質は十万種類以上あるんです。

どういうことかというと、一個の遺伝子から何種類も別々のタンパク質ができていて、
例えばあるタンパク質は脳で働き、
異なるスプライシングでできたタンパク質は筋肉で働く、
というように別のところで別の時期に働いているんです。

そういう時間空間的な多様性がスプライシングという現象で
生じてくるということがわかってきました。

人間の多様性というのは、
一個の遺伝子から機能の違うタンパク質をいくつも作るという多様性から生まれてきたわけです。

 

それにしても、ジャンクとイントロンがDNAの約98%を占めるというのには驚く。

でも、ほんとうにそうなのだろうか?
ジャンクは単にウイルスのかけらというそれだけのものなのだろうか?

この分野、全くの素人ながら「何かが見つかっていないだけ」という気がしてしかたがない。
研究が進んだのちの世では、ジャンクの新たな真相が明らかになっているのではないだろうか。

知れば知るほど驚くことだらけの生物の仕組みのなかで、
「役に立たないモノ」というはまさに未知の謎を抱えているようで、かえって魅力的だ。

 

 

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コメント

タンパク質、DNA、遺伝子、……最初、門外漢の私(私の在学中の専門は宇宙物理学でした)には難しい話かな、と思って読み始めました。でも、読み始めたら、面白い。特に後半の話はまったく知らない話、「人間はウイルスが積み重なってできたもの」というくだりと、はまさんが提示した、ジャンクには「何かが見つかっていないだけ」ではないか? という部分は何か胸躍る発見のような気さえしてきました。
なぜ、学校(中学、高校)ではこういう話をしないのか?
私は、宇宙に関する教育でも、なぜ、「特殊相対論」の話を学校ではしないのか、ということに疑問を持ってきました。生物学でもそうでしょうが、物理学でもその最先端では非常に夢のあることが研究されています。それをかみ砕いて提示し、学生たちにまず興味を持たせること、それが大事なことではないかと思っています。
ここに書かれているDNAや遺伝子の話は、学生でも興味の持てる話だと思います。なぜこういう話が教科書の巻頭に載らず、「花のつくり」のような基本的な暗記科目にしてしまうのか、そんなことを考えながら読み終えました。
個人の多様性というものが、生物学的には、「一個の遺伝子から機能の違うタンパク質をいくつも作るという多様性から」うまれてくる。興味深い締めくくりでした。

Ossan-takaさん、丁寧なコメントをありがとうございます。
>なぜ、「特殊相対論」の話を学校ではしないのか、ということに疑問を持ってきました。
私もほんとうにそう思います。
「同時」とはどういうことかを突き詰めて考える中で導かれるローレンツ収縮、
そして座標変換系から特殊相対論に繋がっていくあの過程を知った時の興奮は今でも忘れられません。
確かにきっちり計算でつなごうとするとかなり面倒な点もありますが、
大事なのは「考え方」自体で、そのおもしろさは上手に教えれば誰にでも興味を持ってもらえると思うのですが。
まぁ、この「上手に教えれば」がむつかしいンですよね。

宇宙物理学や分子生物学は、ここ20年くらいで
飛躍的にわかったことが増え、また同時にわからないことも増えた非常にホットな研究分野だと思っています。
そういう最先端の研究成果がもっともっと広く知られて、若い人の刺激になるといいのですが。
(一部おじさんへの刺激にはなっていますが...)

And in the German wiki article Helmut Schmidt is quoted as saying neither he nor his family knew, even though some gave temporary refuge to Jews, and they lived near two camps, and like many others then, and that the first he knew was after the war. Clearly there were many who did not, and it is not surprising for the reasons enunciated.

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