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2013年12月

2013年12月27日 (金)

山田太一講演会 2013

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山田太一講演会 2013

- 今は、おいしい、って言うことに・・・ -

 

「男たちの旅路」、「岸辺のアルバム」、「ふぞろいの林檎たち」、
「早春スケッチブック」といったテレビドラマの名作を数多く世に送り出してきた
脚本家・山田太一さんの講演会を聞いてきた。

山田太一講演会 - 今ここで生きているということ -

2013年12月4日@川崎市高津市民館大ホール  (以下水色部、講演のメモから)

ご自身を「本の病(やまい)」とおっしゃっていたが、天野忠さんの詩集から始まり、
何冊もの本からの引用を交えた内容たっぷりの二時間だった。

その中から三つだけ印象に残った言葉を紹介したい。

 

(1) 私の人生に彩りがあるとすれば・・・

永井荷風がある随筆で次のように書いていた。

『自分の人生はつまらない人生だった。彩りがなんにもない人生だった。
 でも、私の人生に彩りがあるとすれば、さみしいときだった、悲しいときだった。

 その時、私の人生には、わずかに色彩があった。』

オヒオヒ、永井荷風の人生に彩りがないと言うなら、
いったい誰の人生に彩りがあるというンじゃ、とツッコミたくなるが、
山田さんはもちろんそんなヤボなツッコミはしていない。

なんでもかんでもプラスとマイナスに分けて、
マイナスは悪のように排除しようとする。
でも、例えば「悲しみ」っていうのはそんなに排除すべきものなのか。

手書きの文字がワープロに変わって、手書き文字が持つ多くの情報が失われてしまった。
多くの情報が失われているのに、それは一方的な進歩なのか。

マイナスって言われているものが、実はものすごく豊かなものを持っているンじゃないか、
少なくともそういうふうに思うことができないか、と。

 

(2) どんな旅をしてもそこで出会えるのは・・・

ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアの言葉。

どんな旅をしても、そこで経験するものはあなた自身なんだ。自分なんだ』

外に出かけて行って別な人間になろうと旅をしても、
その人の器量以上のものは手に入らない、見ることはできない。

『あなた自身を見に行くようなものだ』

 

(3) おいしい、って言うことに・・・

山田洋次監督から聞いた渥美清さんの話。

おいしいものがあると飛行機ででも食べに行く、という人がいるって聞いて
渥美さんは、『なんだか悲しいね』とつぶやいたという。

「僕(山田さんご自身)はね、この気持ち、ちょっとわかるンです」

「今は、おいしい、って言うことに恥じらいがないですよね

 

「絆」や「勇気をもらいました」という、最近よく聞く言葉への気持ち悪さ、
言葉と本質とのズレ等、話は他にもいろいろあったが、
個人的に強く印象に残ったのは、上の三点。

プラスと呼ばれることのマイナス面を見ようとしないこと。
マイナスと呼ばれることのプラス面を見ようとしないこと。

プラスだマイナスだと騒いでみても、冷静にゆっくり考えてみれば、
総和という点ではもしかしたら同じなのかもしれない。

 

「ゆっくり(Slowly)考える」で思い出した曲がある。
今年は最後にそれを添えておきたい。

2007年の映画「once ダブリンの街角で」から。
グレン・ハンサード(Glen Hansard)とマルケタ・イルグロヴァ(Marketa Irglova)が歌う
「Falling Slowly」 
街で出逢ったふたりが楽器店のピアノを借りて、初めてハモる曲。

(下の写真またはここをクリックするとYouTubeに移って再生されます)

Once

アイルランド・ダブリンを舞台にした、音楽で繋がる男女の小さな物語。
地味な映画だが、中で歌われる曲はどれもいい。
若いころの**を思い出すシーン満載のお気に入りの映画のひとつ。

 

皆様、どうぞよいお年をお迎えください。

 

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2013年12月21日 (土)

役に立たないモノは魅力的

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役に立たないモノは魅力的

- 人間はウイルスが積み重なってできたもの? -

 

(一回割り込みがあったため、前々回からの)DNAの話の続き。

石浦章一著「サルの小指はなぜヒトより長いのか」(新潮文庫)
を読みながらのDNAの話の2回目。(以下水色部、本からの引用・要約)

間が空いてしまったので簡単に復習すると、前回のポイントは次の2点。

* DNAにはタンパク質の設計図となる「遺伝子」のほか、
  タンパク質の合成には使われない「ジャンク」と呼ばれる部分がある。

* 遺伝子の中にも、「大事な部分(エキソン)」と「いらない部分(イントロン)」がある。

では、このタンパク質の合成には使われない「ジャンク」「イントロン」といった部分は、
DNA全体の中でどの程度の比率で存在しているのであろうか。

 

【適所で発現するよう調節している「転写調節領域」】

エキソンの間にあるイントロンは切り出されますが、
では、一番最初のエキソンの前にある部分は何かというと、
この部分は遺伝子をいつ、どこで、どれくらい発現させるかを決めている部分なんです。

遺伝子は体の中で、みんな同じようにできては困ります。
髪の毛のタンパク質は髪だけで作られなければいけないし、
脳の遺伝子は脳だけで発現しなければいけません。

そのような調節を行っている部分が遺伝子の前に存在し、
時として後の方に存在する場合もあります。

この部分を転写調節領域と言いますが、
エキソンとイントロンにここを含めて全部を広義の遺伝子と言います。

 

三度の登場となるが、先に示した図2をココでもう一度示しておきたい。
転写調節領域とエキソンとイントロン、この部分が「遺伝子」というわけだ。
一番上の青い矢印<遺伝子>の範囲ということになる。
Mrna
   図2 DNAからタンパク質ができるまで

 

 

【では、遺伝子以外のところは? ジャンクは何と7割!】

 そうすると、遺伝子以外のところって何でしょうか。
遺伝子以外の部分をジャンクと言いますが、全くランダムで、
文字がどう並んでいるか見当も付かない、ただ並んでいる、という部分です。

人間の場合は、このジャンクと遺伝子が7対3くらいの割合になっています。

 

【「大事な部分(エキソン)」と「いらない部分(イントロン)」の比率のほうは?】

 実は私たちのDNAでエキソンという部分は非常に少ない。
逆に、イントロンという部分は非常に長いことがわかってきました。

人間の場合は、1対20くらいの長さです。
エキソンが1としますと、イントロンが20くらいあります。

 

つまり、ざっくり長さの比で絵を書くとこんな感じになる。
一番左側の小さな青い部分のみが「大事な部分」というわけだ。

Hiritsu
   図3 DNAの中のエキソンの割合

 

【体を作る情報はDNAの中のわずか2%】

つまり、人間の遺伝子はDNA全体の約30%で、
エキソンの部分に限ると約2%しかないということになります。

つまり、私たちの体を作っているDNAの部分は全体の2%と、非常に少ないんです。

 

では、DNAの7割を占めるジャンク部分には、いったいどんな情報が眠っているのだろう。

【人間のDNAの三分の一はウイルスの欠片(かけら)】

 面白いことに、このジャンクと呼ばれているところに
驚くべきものが存在することがわかってきたんです。

人間のDNAの70%を占めるジャンクの部分に、
なんとウイルスの欠片みたいなものがいっぱい見つかってきたんです。

私たちのDNAの約30~40%、つまり70%あるジャンクの
半分くらいはウイルスの名残りということがわかってきました。


私たち人間は、昔のウイルスの名残りを体の中にたくさん蓄えている、ということなんです。

 

【LINE(ライン)とSINE(サイン)で合わせてDNA全体の34%】

 ジャンクの中には「LINE(ライン)」と呼ばれている、
約6千~8千塩基対の、ある特殊な配列があります。

これは、生物が進化していく途中、
ウイルスみたいなものが体の中に入り込んできた名残りみたいなもので、
私たちの体の中に85万コピーも存在します。
・・・

これは驚くべき数で、僕らのDNA全体の21%を占めています。
つまり、私たちのDNAの二割は、
ウイルスの名残りであるLINEという配列だということになります。

 もう一つ「SINE(サイン)」という配列があって、
非常に短い数百の塩基対の配列なんですが、
僕たちの体は150万コピーももっています。

これは全体の13%を占めています。
二つを足し算して34%です。
すごいですね、僕らのDNAの三分の一はウイルスの名残り配列です。

 

【人間はウイルスが積み重なってできたもの?】

だから、人間は万物の霊長ですばらしい遺伝子をもっているわけではなく、
ウイルスが積み重なってできたものであるらしい、ということも
明らかになっています。

 

少し話が変わるが、遺伝子の話の中ではスプライシング現象についても触れておきたい。

【タンパク質の種類は遺伝子の種類より多い】

 もう一つ大事なのは、
一つの遺伝子から何種類もタンパク質が作られるということです。

これも非常に珍しい現象で、
一つの遺伝子からできるタンパク質は一種類だけかと最初思っていたんですが、
そうではないということがわかってきました。

 

どうやって、遺伝子の種類より多くのタンパク質が作られるのであろうか。
以下の図を見ながら説明を読んでみてもらいたい。

Multiprot
   図4 一つの遺伝子から複数のタンパク質が作られる

 

【スプライシング現象とは?】

これは、タンパク質のスプライシング現象と言います。
・・・

タンパク質というのは飛び飛びにあるエキソンから作られます。

例えば、一つのタンパク質の情報は、
DNA上に飛び飛びにあるエキソン1、2、3という別々のところにあり、
それらがつながってメッセンジャーRNAという一つのタンパク質を作る
中間段階になります。

ここで普通は1、2、3と順番に並ぶわけですが、
ものによっては1から3まで飛んだメッセンジャーRNAができる場合があるんです。

つまり、2を飛ばして1と3だけでメッセンジャーRNAを作ることになり、
ここからできるタンパク質は真ん中の部分が欠けたタンパク質になります。

 このようにして、1と3だけではなく、例えば1と2だけでできるようなものもあるし、
ものによっては2と3だけでできるような場合もあります。

このように、エキソンがいくつかあった場合、
そこからできるメッセンジャーRNAは何通りも可能になります。
そうすると、そこから作られるタンパク質というのは長かったり、
真ん中が欠けていたり、端が欠けていたりするものができて、
結果的に機能の異なるタンパク質が何種類もできてくるわけです。

 これがスプライシングという現象で、
スプライシングを使うと非常に多様なタンパク質を作ることができます。

 

【2万5千の遺伝子から、10万種以上のタンパク質が作られる。】

だから、人間の遺伝子は2万5千しかありませんが、
タンパク質は十万種類以上あるんです。

どういうことかというと、一個の遺伝子から何種類も別々のタンパク質ができていて、
例えばあるタンパク質は脳で働き、
異なるスプライシングでできたタンパク質は筋肉で働く、
というように別のところで別の時期に働いているんです。

そういう時間空間的な多様性がスプライシングという現象で
生じてくるということがわかってきました。

人間の多様性というのは、
一個の遺伝子から機能の違うタンパク質をいくつも作るという多様性から生まれてきたわけです。

 

それにしても、ジャンクとイントロンがDNAの約98%を占めるというのには驚く。

でも、ほんとうにそうなのだろうか?
ジャンクは単にウイルスのかけらというそれだけのものなのだろうか?

この分野、全くの素人ながら「何かが見つかっていないだけ」という気がしてしかたがない。
研究が進んだのちの世では、ジャンクの新たな真相が明らかになっているのではないだろうか。

知れば知るほど驚くことだらけの生物の仕組みのなかで、
「役に立たないモノ」というはまさに未知の謎を抱えているようで、かえって魅力的だ。

 

 

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2013年12月12日 (木)

「違う世界の人」のひと言

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「違う世界の人」のひと言

- 大金で買える唯一のもの -

 

前回に続いてDNAのイントロン(いらない部分)とジャンクの話を、と始めたいところだが、
先日、人気ブログ「Chikirinの日記」を読んでいたらちょっと興味深い「お題」が目に留まった。
「お題」には提出期限があったので、今日はDNAの話を一回休み、そちらに挑戦してみたいと思う。

ちきりんさんのブログ、
「Chikirinの日記」のこのエントリーに提示されていたお題は以下のものだ。

もし自分が、

・いつもは行かない初めてのスーパーに入ったら、
・価格が驚くほど高く、周りの客の服装もいつものスーパーより、かなりハイソな感じだった。そして、
・「オーガニック納豆をください」と店員に話しかける “6歳ぐらいの女の子”を目撃した
としたら、その経験から、ブログの読者にたいして「何を伝えたい」と思うか、ぜひ考えてみてください。

(中略)

みなさんも、ちょっくらやってみてください。

 

ブログには、自分自身が感じたり、学んだりしたことの中から
「これは」と思ったネタだけを書こうと心がけてきたつもりだったので、
そとから与えられたお題で何かを書いた、ということはない。

でも、こういった実験も、ときには頭の体操としておもしろい気がする。
他の方が同じお題に対して、どんなことを書くのかにも興味があるし。

というわけでお誘いにのって「ちょっくらやって」みることにした。

 

高級スーパーで「オーガニック納豆をください」と言った“6歳ぐらいの女の子”。

元ブログを書いたJazzy-Tさんは、この少女のひと言に
>この格差たるや・・・
とショックを受けている。
その気持ちは「いつもは行かないスーパーで見た格差」というタイトルにも現れている。

このお店の「オーガニック納豆」がいくらなのかはもちろんわからないが、それでも納豆だ。
非オーガニックの安いものとの差はせいぜい百円玉で何枚か、という程度だろう。
つまり、言うまでもないことだが、金額自体にショックを受けているわけではない。

ショックを受けたのは、
“6歳ぐらいの女の子”が口にした「オーガニック納豆」という単語を通して、
少女の日常(世界)と、自分自身の日常(世界)との差が、
急にリアルに浮かび上がってきたからだろう。

 

年収何千万円とか、資産何億円とか言われても何も響かないが、
こういった些細なひと言が「違う世界の人」を急にリアルにすることがある。

では、これまでの自分の体験の中で、そう思ったひと言にはどんなものがあっただろう?

「違う世界の人」が急にリアルに迫ってきたひと言を
今回は「金持ち」というテーマに限定して思い出してみたい。

 

最初に思い浮かんだのは、Jazzy-Tさんの「オーガニック納豆」と似た小さな経験だ。

小学生にグラムという単位を教えることがあった。
説明を聞いたあと、その小学生はこう口にした。

「あぁ、レストランでステーキを頼むときに使うあのグラムのことね」

 

学生時代の家庭教師先ではこんな経験もあった。

家庭教師をしていた歯科医院の息子が無事、大学二校に合格した。
どちらの学校がいいだろう、と書類をもって相談に来た。
初めて見る私立歯科大の入学書類。

二校の入学時納入金の差は、
当時私が通っていた私大理工学部の学費四年分とほぼ同額だった。
納入金が、ではない。 納入金の差が、だ。

一度で読めないゼロの多い納入金一覧表に戸惑う私の横で、

「問題は国家試験なので、どちらでもいいンですけど

 

思わずツッコミたくなるこんな言葉もあった。

テレビの対談番組に品のいい初老の女性が出ていた。
親の代からの資産家らしいが、
関係した事業が大きく失敗したこともあるらしく、
そのころの苦労話をしていた。

彼女曰く
「あのときは、貧しくて貧しくて、ほんとうにつらい時期でした。
 あまりにも生活が苦しかったので、別荘をひとつ売りました」

 

お金関連で一番強いインパクトを残したのは、やはりコレ。

リーマン・ショックの前、日々億単位の金を動かして
大きく成功しているというデイトレーダーがラジオにでていた。

「大金が手に入ったら何しますか?
 家を買う? 車を買う? ファーストクラスで世界旅行?
 最初は買うものも、やることもいっぱいあるでしょう。
 でも、ひと通り手に入れたら、次に何を買います?
 家だって何軒もいらないでしょ。

 お金ってね、ある一定額以上になると、もうお金しか買えないンですよ

 

どれも私にとっては「違う世界の人」の言葉だ。

それにしても一度は言ってみたいものだ。

「お金ってね、ある一定額以上になると、もうお金しか買えないンですよ」

 

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2013年12月 8日 (日)

DNAと遺伝子は違う

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DNAと遺伝子は違う

- タンパク質の合成に「使われない情報領域」 -

 

石浦章一著「サルの小指はなぜヒトより長いのか」(新潮文庫)を読んでいたら、
DNAや遺伝子について興味深い記述があったので、今日はそれを紹介したい。
この本、文系の大学1年生向けの講義をまとめたものらしい。

     (以下水色部、本からの引用・要約)

 

我々の遺伝情報を担うデオキシリボ核酸(DNA)が二重螺旋(らせん)構造をしていて、
アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という四種類の化学物質が
塩基対というペアを作って二本の鎖を結びつけていて、
という基本的な話は今日は省略するが、
高校の生物で初めてこの構造を知ったときは、シンプルでかつ
なんて美しいンだろう、と感激した記憶がある。

この世紀の大発見の論文は、
ジェームズ・ワトソン、フランシス・クリックの連名で1953年に発表されたものだが、
論文自体は1ページ強しかない。極めて短いものだ。

ちょうど60年前の論文を見てみよう。ここに原文がある。

We wish to suggest a structure...
「構造を提案したい」と静かに始まる論文は、たったこれだけ。
発見の質に論文の長さは関係ないのだ。

ワトソンとクリックは、
モーリス・ウィルキンスやロザリンド・フランクリンらのX線結晶解析データをもとに
DNAの分子モデルをつくりあげた。
この研究でワトソン、クリック、ウィルキンスの3人が1962年にノーベル医学生理学賞を
受賞している。
女性研究者のフランクリンは1957年に亡くなっていたため受賞することはできなかった。


さて、今日の話を始めたい。

DNAは遺伝情報の塊(かたまり)ではあるが、その全部が重要というわけではないらしい。
「いらない部分」がある、ということについて見ていきたい。

 

【「大事な部分(エキソン)」と「いらない部分(イントロン)」がある】

私たちの遺伝子はどのようになっているのだろうか。
私たちのDNAは二本がらせんになって並んでいるのですが、
並び方が大事なものといらないものが順番になっています。
・・・

ある部分は非常に大事で、そこから先にいらない部分があり、
また大事な部分がくる、というように、
大事なものといらないものが交互に出てくることがわかっています。
・・・

それで、その大事な部分をエキソンと呼びます。
その後に出てくるいらない部分をイントロンと言います。

 

【センス鎖とアンチセンス鎖】

遺伝子は必ずATGから読まれてタンパク質が作られるという規則があります。
ATGという三文字があるところから始まりますから、
ATGがある方の鎖が本当の遺伝子がある方で、センス鎖と言います。

もう一方のATGがない鎖(TACとなっている鎖)は、
その相補的な鎖になるわけで、アンチセンス鎖といいます。

ちょっと専門用語になって申し訳ないけど、
このように、センス鎖とアンチセンス鎖というのがあります。

 

【遺伝子の始まりはATG、終わりも決まっている】

では、遺伝子はどこで終わるのかというと、終わる場所も決まっていて、三通りあります。
その三つとはTGA、TAG、TAAで、遺伝子はこの三カ所で終わることがわかっています。

 

【書く時はセンス鎖、という決まり】

 で、遺伝子を書くとき、両方の鎖を書かなければ本当はいけないのですが、
大事な方はセンス鎖ですから、センス鎖を書くという決まりがあります。
・・・

でも、実際は裏側にもう一本DNAがあって、
ATGの裏側はTACとなっているんだということを知っておいてください。

 

【ここで簡単に復習】

もう一度復習しますよ。
DNAの途中にATGがある。遺伝子はここから始まって、例えばTGAで終わる。

ちなみに、この後に「AATAAA」という場所がありますが、
何のためにこれがあるかは後ほど説明します。

 

絵を書くと次のようになる。
ここでは二本の鎖をまっすぐに伸ばして、センス鎖とアンチセンス鎖として描いている。
[ATG]から始まる部分を持つほうがセンス鎖だ。

黄色い部分がイントロン、「いらない部分」を表している。
青色の部分がエキソン、つまり「大事な部分」。
イントロンとエキソンは鎖上で交互に並んでいる。

Photo
   図1 センス鎖とアンチセンス鎖

 

【いよいよタンパク質の作成開始】

私たちの体を作るときには、
アンチセンス鎖を鋳型(いがた)にして一次転写産物というのを作ります。

アンチセンス鎖を鋳型にするので、始めはTACの相補的なものができます。
普通に考えるとATGとなりますが、
実は一次転写産物というのはRNAという物質でできているため、
Tの代わりにUという別の物質が入ってきます。
・・・

DNAではTだったのが、RNAではUという文字に変わります。

だから、一次転写産物はAUGから始まって、例えばUGAで終わり、
そしてAAUAAA……と続きます。

 

ここからが面白い。

【大事な部分だけが繋がる。】

次にメッセンジャーRNA(mRNA)という物質が作られるのですが、
そのときにいらないものがなくなっちゃいます。

イントロンという、いらない部分が切り取られ、
大事なエキソンの部分だけがつながっていきます。

そして、後ろには先ほどお話しした「AAUAAA」という場所が必ずあり、
そのちょっと後ろのところでちょん切られます。

一方、このメッセンジャーRNAの分解を防ぐために、
始めの方にキャップと呼ばれている帽子が付きます
・・・

 ここでできたメッセンジャーRNAというのはアンチセンス鎖の相補的なものですから、
実は、並びがセンス鎖とそっくりになるわけです。
TがUに変わっただけですね。
つまり、大切な方のセンス鎖が、そのままメッセンジャーRNAに出てくるわけです。

 

絵で示すとこんな感じだ。
タンパク質合成のために、DNAの一部のみが転写されるが、その際、
黄色い部分(いらない部分:イントロン)が除かれ、
青色の部分(大事な部分:エキソン、E1,E2,E3)のみが繋がっていくことになる。

Mrna
   図2 DNAからタンパク質ができるまで

 

【メッセンジャーRNA(mRNA)とは?】

 それで、先ほどの「AAUAAA」が
実は「ポリA(Aがたくさんつながっているという意味)を付けろ」という
シグナルになっていて、このシグナルの後にAという物質ばかりがずっと並んでいきます。

これが正式なメッセンジャーRNAというものです。
この「AAUAAA」というところがあると、何かがこれを見分けて、
すぐ後ろに「AAA…」と並べていくわけです。

つまり、私たちの体では、
できたメッセンジャーRNAには必ずキャップが付いて、
エキソンが並んでいて、ポリAが付く、
こういう構造になります。

 

【タンパク質はmRNAにしたがって合成される】

 それで、このメッセンジャーRNAから皆さんの体が作られていくわけです。
皆さんの体はタンパク質でできていますが、
タンパク質というのはメッセンジャーRNAを読み取って作られているんですね。
で、面白いことに、読み取られていくときは三文字ずつなんです。

例えば、最初のAUGを読み取るとメチオニンというアミノ酸ができます。
また、UUUというのがあると、フェニルアラニンというアミノ酸ができます。
細かいことはどうでもいいんですが、
とにかく三つずつ読み取っていくとアミノ酸がつながってタンパク質ができていくわけです。

 つまり、タンパク質が体を作るので、
皆さんの体というのはDNAのセンス鎖の並びで決まっているわけです。

 

【DNAと遺伝子は違う】

 では、DNAと遺伝子はどう違うのだろうか? 
遺伝子とDNAを同じように考えているかもしれませんが、実は違うんです。

 遺伝子というのは、そこからある一つのタンパク質ができるところを言います。
例えばエキソンが三つあったとき、
間のイントロンがなくなって三つのエキソンがつながり
一種類のメッセンジャーRNAができます。

そこから一つのタンパク質が作られますね。
そういう場所のことを遺伝子と言います。

 

スクロールして隠れてしまっていると思うので、ここで再度、同じ図2を示したい。
Mrna
   図2 DNAからタンパク質ができるまで

 

黄色い部分はイントロンで、mRNAには反映されない。

つまり転写領域には「いらない部分」があるわけだが、
一番上に示した通り、DNAには転写領域とは別に「ジャンク」と呼ばれる領域もある。
ここもタンパク質の合成には使われていない。

DNAにはこのようにあちこちに使われない情報領域がある。
では、この「イントロン」と「ジャンク」はDNAにおいて
どれくらいの比率で存在しているのであろうか?

また、「ジャンク」の部分にはいったいどんな情報が書き込まれているのであろうか?

この話、次回に続きます。

 

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2013年12月 1日 (日)

10puzzle 「おもしろい問題」って?

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10puzzle 「おもしろい問題」って?

- 解ではなく問題を探す。 -

 

今日は算数パズルの話題。
Google Nexus7のCMでこんな内容のものが放送されていた。

 

【1,1,5,8で10を作る】

この問題、私が学生のころは電車の切符でよくやった。

Img_6926s

この切符なら【6847】を解く。

切符に印刷されている4つの数字を使って四則演算だけで10を作る式を探す。
それだけの問題だ。

ご存じない方のために、例を示すと、

 【 1234 】の場合、

   「 1 + 2 + 3 + 4 = 10 」   でもいいし、
   「 (2 x 4) + 3 - 1 = 10 」  でもいいし、
   「 ((3 x 4) - 2) x 1 = 10 」 でもいいし、

とにかく、4つの数字を全部、一度だけ使って四則演算のみで10にする式を見つければいい。
数字を使う順番は問わない。

(この問題、実際にそう呼んだことはないが、
 「10puzzle」、「make10」、「テンパズル」、「10 Puzzle」、「Ten Puzzle」などと
 呼ばれているようなので、
 このブログでも「10puzzle」を使わせていただくことにする)

だれが早く解を見つけられるか仲間で競争したり、
目的の駅までに解けず、モヤモヤした気分のまま電車を降りたり、
いろいろな思い出がある。

Suicaの登場以降、切符を手にする機会はすっかり減ってしまって、
もうずいぶん長い間、この問題で遊んではいない。
CMを見て、久しぶりに思い出した。

 

【解法プログラム】

当時、理系学部の学生だった私は、
友人とこの問題をプログラムで解くことにも挑戦した。

「マイコン」なんて言葉がようやく知られるようになった
そのころのコンピュータの思い出話を始めると、それだけでキリがなくなるので
ここでは全部省略するが、メモリわずか数KBという貧弱なハードウェアリソースでも
なんとか解が導ける手頃な問題であった。

ちょうどそのころ、共立出版から「bit」という雑誌が出版されていた。
(2001年に休刊となってしまったのだが、)
計算機に関するかなり硬派な内容の雑誌だった。

この雑誌がこの問題(10puzzle)を解くプログラムを募集していたことがある。

自分が応募したわけではないが、応募作品が掲載された号の、
その解説を興味深く読んだ記憶がある。
いかにエレガントに解くか、
アルゴリズムに「美」を求めていたような時代だった。

と、ここまでは単純な問題解決プログラムの話。

 

Img_6898s

切符の数字の例:
もちろん、JR以外の切符にも4つの数字はある。
この切符の場合は【9468】が問題となる。

 

【雑誌「bit」が出した次の問題】

ところが、「bit」は、この問題をこれで終わりにしなかった。

「10pluzzle」、実際にいろいろな問題に挑戦してみるとわかるが、
このパズルには「おもしろい問題」と「つまらない問題」とがある。

上に挙げた
【1234】の出題に対して
「1 + 2 + 3 + 4 = 10」と解けても、「おもしろい問題だ」とは思えないだろう。

ところが、CMで取り上げられている【1,1,5,8】に挑戦して、
自らの力で解の式に到達できれば、思わず「おもしろい!」と声をあげるはずだ。

 

雑誌「bit」が着目したのはこの点。

「10puzzleにおいて、『おもしろい問題』を探すプログラムを作れ。」

いい問題だ。解ではなくて、問題のほうを探すプログラム。

そもそも挑戦したときに、
「おもしろい」と感じるポイントはどこにあるのだろうか。

すぐに解ける簡単な問題は、多くの場合「おもしろい問題」ではない。
【1234】はまさにこのグループだ。
ある程度の困難さは必要な気がする。

では、難しければそれだけで「おもしろい」のだろうか。
そもそも「難しい問題」とは、どう定義すればいいのだろう。

「解の式がただひとつ(1種類)しか存在しない組合せ」
「解の式に引き算や割り算を多く含む組合せ」
「計算の途中で整数以外を経由する組合せ」
「いかにもすぐに解けそうなのになかなか解がみつからない組合せ」などなど。

もちろん「おもしろい」の定義に絶対的な正解があるわけではない。

「おもしろい問題」をみつけるための評価関数について
仲間内で、あれやこれや議論したりもした。

 

<ひとこと補足>
 解の式の「かず(種類)」の定義については、
 ここでは深く述べないことにする。
   (1+2)+3+4=10 と (1+4)+2+3=10 は同じ式(1種類)だが、
   (1+2)+3+4=10 と (2x3)+(4x1)=10 は違う式(2種類)とする、程度の意味。

 たとえば
 【5558】の場合、

   ((5+5) - 8) x 5 = 10
   ((8-5) x 5) - 5 = 10
   ((5+5) / 5) + 8 = 10

 と「解は3種類ある」と数えることにする。

 

さて、いくつかの具体例で「おもしろさ」について見てみよう。

 

【例題1:1167】

【1167】

ちょっとお考えあれ。

それほど時間をかけなくても解けることだろう。
答えは

6/(1+1) + 7 = 10

この問題、実はこの1種類しか解がない。
1種類しか解がないのに、たいていの人はあまり時間をかけずに簡単に解けてしまう。

解が1種類しかないのに、比較的簡単に解ける組には、

【1116】
【1149】
【1555】
【1566】
【1599】

などがある。

解が少ないことが、難しさやおもしろさと直接繋がっているわけではない。

 

【例題2:2477】

【2477】

「簡単、簡単」と思った方、浮かんだ解はおそらくこれだろう。

(7/7 + 4) x 2 = 10

ところがこの組合せには、もうひとつ別な解がある。

(2 - 4/7) x 7 = 10

解はこの2種類のみ。一方は易しいのに、
もう一方を探そうとするとかなりの難問だ。
最初にこちらの解が浮かぶ人がどの程度いるのかわからないが、
この式で解けた人は「おもしろい問題だ」と思ったことだろう。

 

同じようなパターンには、
【2334】もある。

解は全部で4種類あるが、

(3x3 - 4) x 2 = 10
(3/3 + 4) x 2 = 10

は簡単。ところがこの問題には

(2 + 4/3) x 3 = 10
(4 - 2/3) x 3 = 10

という解もある。こちらの方はなかなか思いつかない。

10puzzleは、ひとつでも解が思いついた時点で「わかった!」となって終わってしまうので、
これらは「つまらない問題」に分類されてしまいがちだが、
おもしろい解を含んでいる問題であることに間違いはない。

【2477】の (2 - 4/7) x 7 = 10

【2334】の (2 + 4/3) x 3 = 10
などは、
「おもしろい問題か?」において、どのように扱うのが適切なのだろう。

 

このように、「おもしろい問題」を少ない条件だけで定義することはむつかしい。
むつかしいからこそ、考えるのはおもしろい、とも言えるのだが...

 

というわけで、いまだにプログラムで「おもしろい問題」を自分が納得できるかたちで、
すっきりと選ぶことはできていない。
しかし、経験的に「おもしろい」と思ったものを選ぶことはできる。

10puzzleの「おもしろい問題」、お薦めは以下の組合せだ。

【3478】
【1158】

【1199】
【2289】
【6699】

【4466】
【7899】
【9999】

ネットで解を「探す」のではなく、
自身の頭で解を探してみて下さい。
どの組合せも「解ける」問題です。

 

 

どうしても、の方はこちらをどうぞ。

完全版 テンパズル (10puzzle) 全問題 全解答一覧

 

(全体の目次はこちら

 

 

 

 

 

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