山田太一講演会 2013
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山田太一講演会
2013
- 今は、おいしい、って言うことに・・・ -
「男たちの旅路」、「岸辺のアルバム」、「ふぞろいの林檎たち」、
「早春スケッチブック」といったテレビドラマの名作を数多く世に送り出してきた
脚本家・山田太一さんの講演会を聞いてきた。
山田太一講演会 - 今ここで生きているということ -
2013年12月4日@川崎市高津市民館大ホール (以下水色部、講演のメモから)
ご自身を「本の病(やまい)」とおっしゃっていたが、天野忠さんの詩集から始まり、
何冊もの本からの引用を交えた内容たっぷりの二時間だった。
その中から三つだけ印象に残った言葉を紹介したい。
(1) 私の人生に彩りがあるとすれば・・・
永井荷風がある随筆で次のように書いていた。
『自分の人生はつまらない人生だった。彩りがなんにもない人生だった。
でも、私の人生に彩りがあるとすれば、さみしいときだった、悲しいときだった。
その時、私の人生には、わずかに色彩があった。』
オヒオヒ、永井荷風の人生に彩りがないと言うなら、
いったい誰の人生に彩りがあるというンじゃ、とツッコミたくなるが、
山田さんはもちろんそんなヤボなツッコミはしていない。
なんでもかんでもプラスとマイナスに分けて、
マイナスは悪のように排除しようとする。
でも、例えば「悲しみ」っていうのはそんなに排除すべきものなのか。
手書きの文字がワープロに変わって、手書き文字が持つ多くの情報が失われてしまった。
多くの情報が失われているのに、それは一方的な進歩なのか。
マイナスって言われているものが、実はものすごく豊かなものを持っているンじゃないか、
少なくともそういうふうに思うことができないか、と。
(2) どんな旅をしてもそこで出会えるのは・・・
ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアの言葉。
『どんな旅をしても、そこで経験するものはあなた自身なんだ。自分なんだ』
外に出かけて行って別な人間になろうと旅をしても、
その人の器量以上のものは手に入らない、見ることはできない。
『あなた自身を見に行くようなものだ』
(3) おいしい、って言うことに・・・
山田洋次監督から聞いた渥美清さんの話。
おいしいものがあると飛行機ででも食べに行く、という人がいるって聞いて
渥美さんは、『なんだか悲しいね』とつぶやいたという。
「僕(山田さんご自身)はね、この気持ち、ちょっとわかるンです」
「今は、おいしい、って言うことに恥じらいがないですよね」
「絆」や「勇気をもらいました」という、最近よく聞く言葉への気持ち悪さ、
言葉と本質とのズレ等、話は他にもいろいろあったが、
個人的に強く印象に残ったのは、上の三点。
プラスと呼ばれることのマイナス面を見ようとしないこと。
マイナスと呼ばれることのプラス面を見ようとしないこと。
プラスだマイナスだと騒いでみても、冷静にゆっくり考えてみれば、
総和という点ではもしかしたら同じなのかもしれない。
「ゆっくり(Slowly)考える」で思い出した曲がある。
今年は最後にそれを添えておきたい。
2007年の映画「once ダブリンの街角で」から。
グレン・ハンサード(Glen Hansard)とマルケタ・イルグロヴァ(Marketa Irglova)が歌う
「Falling Slowly」
街で出逢ったふたりが楽器店のピアノを借りて、初めてハモる曲。
(下の写真またはここをクリックするとYouTubeに移って再生されます)
アイルランド・ダブリンを舞台にした、音楽で繋がる男女の小さな物語。
地味な映画だが、中で歌われる曲はどれもいい。
若いころの**を思い出すシーン満載のお気に入りの映画のひとつ。
皆様、どうぞよいお年をお迎えください。
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