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2013年8月14日 (水)

「雀の羽色」と「キメ色」の江戸前ファッション

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「雀の羽色」と「キメ色」の江戸前ファッション

- 人まねではサインにならない。 -

 

漫画家・江戸風俗研究家の杉浦日向子さんの「ぶらり江戸学」の講義から。

  (1) 江戸の粋(イキ)と上方の粋(スイ)
  (2) 「愛」より「恋」、「恋」より「色」
  (3) 江戸は「情けねえ」土地
  (4) おかず」は食事、「料理」は行事

に続く第5回目。

(以下水色部、「大人の学校 卒業編」静山社文庫からの引用)

きょうは、江戸前のファッションについての話を紹介したい。

 まず、江戸前のファッションは、上方とはまったく違います

上方では、色彩が華やかで大柄の模様 ― そうですね、
カラフルなプリントスカーフのような
着物の柄(がら)ゆきをイメージしていただくといいんですけれど、
豪華絢爛(ごうかけんらん)が好まれていました。
しかもそれを、女らしく着る。

はんなり」という言葉がありますけれども、
ふんわりと、女性のからだの丸みを生かすような、
華やいだ感じで着こなすのが好まれました。

 男の人のほうは、堅実な装い、
いまで言うと、黒っぽいダークスーツといった感じでしょうか。
そういったものを中心に着られていました。

 元禄(げんろく)のころまでは、
江戸も上方を真似していました

それが中期になって、江戸独特の好みが出てきます。

ファッションに限らないが、
なんでも上方を真似ていた江戸の文化が
独自のスタイルになっていくのは、江戸も中期以降だ。

「坂東(ばんどう)武士」という言い方がありますが、
それまでの上方模倣とは違う、坂東風な、無骨で男っぽい、
気骨があってさっぱりしたファッションが好まれるようになりました。

その結果、男性も女性も同じようなものを着るようになって、
恋人同士が着物を取り換えっこしても十分街を歩けるような、
そういうパイセクシヤルなファッションが、江戸の特徴となりました。

 

第一の特徴は「無地」。

 具体的にはどんなものかと言いますと、
上方の大柄で立派な友禅に対して、
江戸は一に「無地」です。

これはやっぱり、絢爛な柄に反発してのことだと思うんですが、
無地の着物が非常に好まれました。

 

第二の特徴は「縞」。

 次に、「縞(しま)」です。
最も江戸らしい粋(いき)な着こなしというと
縞をあげなきゃなりませんが、
まあ順位をつけるとすれば、無地が一、縞が二。

 

そして三番目に「小紋」。

 そして、次が「小紋(こもん)」です。
「江戸小紋」と言いますが、
その中でも一番江戸らしいのが、「鮫(さめ)小紋」。

ワサビをすりおろすときに、サメハダを使いますけれど、
あの鮫の肌のように、ポチポチポチッという小さい絞の模様のことを
「鮫小紋」と言います。

「無地」「縞」「小紋」が三大傾向。そして色は「雀(ジャン)」

 この三つが、江戸のおしゃれの三大傾向です。
これをひと口で覚えるのに便利なのが、「ジャン」。
つまり、「雀(ジャン)」、雀(すずめ)の羽色なんです。
雀を思い浮かべてみてください。

頭から、黒、茶色、ベージュ、グレー、白・・・そんなような、
雀の持っている色すべてが、江戸好みの色です。
まあ、おおざっぱに言ってモノトーン感覚ですね。

それに茶色系が入って、紺色がプラスされるぐらい。
江戸好みの色は雀の羽色、と覚えてください。

 

この雀の羽色、生活空間にも多く、事実上保護色のようになっている。

 これを考えますと、江戸の家屋も、すべてこの色で構成されているんです。
江戸の建物は、瓦が黒、壁が白、柱が茶色、障子が白、畳がベージュ ―
生活空間の色が、全部雀の羽色の中でまかなえます

しかも、よく考えるとこの雀の羽色というのは、
日本人がヌードになったときにも全部ある色ですよね。
髪の黒、肌のベージュ、白目の白 ― 
日本人がもともと持っているグラデーションです。

そういう色を身にまとい、同じ色調の居住空間に住まうというのは、
ほとんど保護色ですから、落ちつくわけです。

 江戸は派手なイメージがあるんですが、
実は基本はこの雀の羽色なんです。
それを大基本として、キメ色を上手に使っていく。

で、ここに「キメ色」登場!。
これこそが江戸前ファッションの真髄。

大部分の面積は基本の色で埋めておいて、
その中に真っ赤をチョコッとつけるとか、
紫色をスッと入れる、
あるいは見目(みめ)鮮やかな若緑をパッとしめる。

そうやって、雀色の中に一つだけキメ色を効かせるというのが、
江戸の真髄と言っていいような、おしゃれの基本でした


 江戸のおしゃれの仕方は、自分のセンスをアピールする。
「こういうセンスなんだよ」ってアピールして、
この組み合わせをわかってくれる人と友達になりたい、というサインなんです。

だから、人真似のおしゃれというのは、
まったくと言っていいほど、ありません。
人真似をしていたんでは、サインとして成立しえないってことですから。

雀色の中に一つだけキメ色を効かせるというのが江戸の真髄、
しかも、人まねはしない。
人まねをしていたんでは、サインとして成立しえないから。

なんとも風が流れるようだ。

 

 

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コメント

江戸の風俗についての連作、楽しく読ませてもらっています。
どれも非常に独特の日本文化ですね。
この風俗・文化が、開国によって、西欧の文化の風が入ってきて大きく変化していくのでしょう。その恩恵は大きかっただろうけど、失ってしまったものも多々あるのでしょうね。
西欧文化を受け入れ順応していくには、日本人の小器用な性質が、適していたのだろうけど、果たしてそれが良かったのか悪かったのか。
ハコモノの西欧化だけでなく気質までも西欧化しつつある昨今、日本映画が海外で評価されているのを見ると、必ずしも良かったとは言えないようです。

Ossan-takaさん、
コメントをありがとうございます。

そうですね。
気質をどう引き継ぎ、育てていくか。
投資対効果と勝ち負けだけの価値観の中では、
結果の評価だけはあっても、なんにも育っていませんから。

吐き出す粋(イキ)も、
吸い込む粋(スイ)も、
文化としてさまざまな形で「色」を持っていたのは、
単なる「借り物」や「買い物」ではなく、
まさにそれを支える気質があったからこそ。

知識の多寡ではなく、
想像力を刺激する言葉に満ちていた、という点で、
杉浦さんの講義は印象深いものでした。

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