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2013年8月 4日 (日)

「愛」より「恋」、「恋」より「色」

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「愛」より「恋」、「恋」より「色」

- 「色」は想像力の世界 -

 

前回に続いて、
漫画家・江戸風俗研究家の杉浦日向子さんによる、
「江戸前の色と恋」の講義の内容から。

(以下水色部、「大人の学校 卒業編」静山社文庫からの引用)

 

今日は、「愛」と「恋」と「色」について。

 現代では「愛」と「恋」を比べると、
「愛」のほうがなんとなく立派なものだと思われていますね。

人間愛とか純愛というのが、ちょっと高尚なものに聞こえるし、
恋が発展して愛になるようなイメージがある。

未熟な世代に恋をして、それがやがて愛になるという、
こういう図式を思い浮かべてしまいますが、江戸のころは逆でした。
愛が出世して恋になるんです。

まず、「愛」とはどんなことを指していたかと言うと...、

 いまは、愛というと「神々の愛」とか「いつくしみ」という意味に使われるので、
こうなってしまったんですが、江戸のころの愛は、
壺(つぼ)を愛するとか茶碗を愛するといったように、
物に対する執着心のことを言いました。

「これを失いたくない、これは俺のものだ」という、
とても即物的な執着心を指したわけです。

一方、「恋」とは?

 恋というのはそこから一歩進んで、
その愛するものを手に入れようとする行動を伴うことなんです。
つまり、愛するものを自分のものにしようとして、
どんどんアプローチをしていくこと、それが恋なんですね。

 愛というのを人に対して使えば、
人を物としてしか見ていないということです。
例えば「女の子を愛する」と言った場合は、
その女の子を人形か何かのように愛すること。

「子供が愛らしい」と言えば、おもちゃのようにかわいいと見てるだけで、
つまり、人格がないものに対して「愛」という言葉を使うんですね。

「恋」は人に対しても十分使える言葉で、さきほど言ったように、
獲得しようという気持ちが恋になります。
この愛と恋が、上方がリードしてきた男女の文化でした。

その中でも、元禄(げんろく)時代あたりまでは、
男女の間には恋という感情が主流にありました。

上方がリードして来た男女の文化が「愛」と「恋」というわけだ。

そこに江戸中期以降「色」が登場する。

 これが江戸も中期以降、江戸前が出るに至って、
「色」というものが出てきます。

それまでの「恋」は、結局「彼が好きだ」「彼女が好きだ」という、
割と動物的な本能で突き進めるものです。
そして、「恋は命賭け」というように、命と引き換えにするほどの、
衝動的な、ものすごい激情なんです。

 それに比べて、「色」はゲーム感覚で、
「色はその日の出来心」と言って、
その日の天気や気分によって恋人をとっかえひっかえする - 
身の内からわき起こってくる要求に従って行動する「恋」とは違い、
「色」は想像力の世界なんですね。

「色」は想像力の世界、とはなんともいい言葉ではないか。

「色」と「恋」の一番端的な違いは、
恋は相思相愛ですが、色は相思相愛とは限らない。

つまり、女郎買いの遊びがそうなんです。
女郎買いというのは、初めて会った男女なのに、ずーっと一緒にいるように、
夫婦の契(ちぎ)りを交わして、とても濃密な時間をすごす。

あるいは、逆に、とても惚(ほ)れ合っている同士の男女なのに、
決して肌身を合わさないというような素人の恋愛の仕方も「色」なんです。

 惚れ合っててもからだを合わせない、
あるいは惚れてないのにからだを合わすという、
想像力で補う部分を必要とするのが「色」で、
つまり、「恋」よりも大人の意識がなければならない。

想像力で補う大人の意識が「色」には必要、ということらしい。

ですから、心中にしても、
上方では男女双方思いつめて死んでしまうことが多いんですが、
江戸では、落語にある「品川心中」のように、
遊びの途中のかけひきでもって、その場のノリで死んじゃう。

恋の果ての突きつめた、昇華した姿としての心中ではなくて、
成りゆきでうっかり死んじゃったという、言ってみれば事故死ですね。
江戸の心中は、ほとんどこの事故死と考えてかまいません。

 西鶴(さいかく)、近松(ちかまつ)のような 「情」の世界は、
とうてい江戸にはなかった
、ということを、ひとつ覚えて、
明日からせいぜい楽しい「色」の世界を学んでいただければ幸いです。

西鶴も近松ももちろん上方。

17世紀末からの上方を中心にした元禄文化、
18世紀末からの江戸を中心にした化政文化、
のような受験勉強的分類に、
まさに「色」を与えてくれる説明だった。

「想像力」こそが重要で、かつおもしろいのは、
「色」や「歴史」の世界だけではないはずだ。

 

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