「ブルーグラス 箱根フェス2013」
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「ブルーグラス 箱根フェス2013」
- キャンプ場の夜空の下に -
2013年8月24日夜、
Hakone Sunset Creek BLUEGRASS FESTIVAL(箱根フェス)に行って、
ブルーグラスにどっぷりと浸ってきた。
ブルーグラスとは、
アメリカ人ビル・モンローによって確立された
アメリカに入植したスコッチ・アイリッシュの伝承音楽をベースにした
音楽の一スタイルのこと。
ブルーグラスという名は、彼のバンド名に由来している。
がブルーグラスの説明となるが、これだけでは「なんのこっちゃ?」という感じだろう。
ディズニーランドをご存知の方は、
「カントリーベア・シアター」のクマたちが演奏するカントリー調の曲、
というのが一番イメージしやすいかもしれない。
ギター、フラットマンドリン、フィドル(ヴァイオリン)、
バンジョー、ドブロ、ウッドベース
といった小規模な楽器編成にボーカル(歌)が加わって演奏される。
曲はアップテンポの曲が多い。
百聞は一聴(?)にしかず。
今回のフェスで聴いた「BLUEGRASS☆POLICE」というバンドの演奏が
YouTubeにアップされていたので、「こんな感じ」ということで、
3分弱、一例としてご試聴あれ。
「ワンマイク」と呼ばれる一本のマイクを奪い合うように演奏するスタイル。
楽器の音の濃淡を [楽器ごとのマイク+ミキサー] に任せるのではなく、
「動き」で表現しているので見ていて楽しい。
ワンマイクではないが、「Bremen Backpackers」というグループの演奏は、
こんな感じ。
箱根フェスは、プロ、アマを問わずブルーグラスバンドが
まさに日本中から集まって、3日間を過ごす年に一度のお祭りだ。
演奏するバンドの数は3日間でなんと180以上!
ステージはひとつしかないので、
すべてのバンドがそこで演奏を披露することになる。
「夕日の滝」という滝のそばのキャンプ場に、
びっしりとテントを張って、
多くの人が「朝から晩まで」、
と言うか「朝から明け方まで」音楽とともに過ごしている。
ちなみに、上に貼った「BLUEGRASS☆POLICE」の演奏も、
実際に演奏しているのは25日の午前2時過ぎ、真夜中だ。
ステージはキャンプ場から少し登った木立の中に作られている。
回りはゴツゴツした岩が飛び出していたりして、
どこにでも腰をおろせるような広い平らな草原ではないが、
各自キャンプ用のイスを持ち込んだりして、
思い思いの姿勢で楽しんでいる。
客席後方の木と木の間にハンモックを貼り、
寝転がって聴いている人もいる。
見ると、ハンモックには、
小さなクーラーボックスまでぶら下がっており、
手を伸ばせば冷えたビールにも寝たまま手が届く。
私が聴いたのは24日午後8時から25日午前3時までの約7時間。
1バンドの持ち時間は10分。
曲はすべてブルーグラス調のものだが、
次々と演奏者が変わるので飽きることはない。
「夕日の滝」が近いので、滝の音が常に小さく聞こえている。
ステージの明るい照明に引き寄せられて、
かなり大きな虫も元気に飛び交っている。
最初のころはアブラゼミが多かったが、
夜が更けるにしたがって虫の種類も変わってきた。
風が吹けば葉擦れの音が、森の会場全体を包みこむ。
時間とともに空気がひんやりしてくると、
聴衆の中に長袖を羽織る人が増えてくる。
途中、キャンプ場内をうろつくと、
あちこちから小さな演奏が聞こえてくる。
これから演奏するバンドが
リハーサルを兼ねて練習していたり、
すでに演奏が終わったにもかかわらず、
興奮冷めやらずセッションを続けていたり、
小さなランタンを囲んで、気の向くままに音を合わせていたり、
だれに聞かせるでもなく自分たち自身が楽しんでいる。
一方、近くのテントわきでは、モウモウと煙をたてて、
バーベキューで盛り上がっている。
肉を頬張り、酒を飲んでの歌声なのに、一部きれいにハモっていたりする。
ここでの主役はもちろん音楽だが、
音楽だけが威張ってはいない。
音楽があり、食事があり、酒があり、おしゃべりがあり、
滝の音があり、肉の焼けるにおいがあり、
歌っている人があり、楽器を抱えている人があり、
そして、キャンプ用の狭いベッドで気持ちよさそうに眠っている人がいる。
山の中の小さなキャンプ場の夜空の下に、全部ある。
会場に戻ると、ステージの演奏は続いていた。
出番を待つウッドベースとドブロが草の上に置かれている。
自然も人間も音楽も、なんの仕切りも区切りもなく、
自由に混ざり合っている感じがなんとも心地よい。
こういう開放感は夏フェスならでは、だ。
午前3時、最後のバンドの演奏が終わった。
アナウンスが流れた。
「以上で、本日のプログラムはすべて終了です。
次のプログラムは朝7時40分から始まります」
ステージ会場から引き上げてきたキャンプ場の一部では、
最後の演奏を引き継ぐように、再び音を出し始めるグループがあった。
黒い山に演奏がこだましている。
プログラムが終ったのだから寝る。
皆が寝るのだから音は出さない。
そういう、常識的な縛りが、
このフェスにおいては、いかに小さくてつまらないことか、
そういうことが、全員で気持ちよく共有できている空間に流れる音楽は、
深夜であっても、じつに軽やかで生き生きとしている。
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hama-1987さん こんにちは
Bluegrass 30年以上前に北海道で少しだけやっていました。そのころから箱根フェスにも、いつか行きたいと思っていましたが、ついに行けないまま、今や、バンジョーもケースの中に眠ったままです。
今も札幌のフェスも健在なようで、こちらは、今年39年目だったようですが、箱根は50年近いのかなあ
Khaawでした
投稿: Khaaw | 2013年9月 1日 (日) 14時09分
Khaawさん、
コメントをありがとうございます。
最初に出演してから20年以上にもなるような話をしていたバンドもあったので、
ずいぶん古くからやっているンだなぁ、と思って聞いていましたが、
50年近くにもなるンですか。
長い歴史があるンですね。全然知りませんでした。
キャンプ場内に溢れている、好きな音楽を心ゆくまで楽しもうという
自由な空気がほんとうに素敵で、すっかりリフレッシュできました。
耳だけではない、五感で感じるリセット感は、
鬱積していたものを洗い流してくれるようで、
まさに身も心も軽くなったような気分です。
投稿: はま | 2013年9月 1日 (日) 20時32分