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2013年7月31日 (水)

江戸の粋(イキ)と上方の粋(スイ)

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江戸の粋(イキ)と上方の粋(スイ)

- 吐き出してイキ、吸い込んでスイ -

 

漫画家・江戸風俗研究家の杉浦日向子さんが、
深夜番組「夜中の学校」で江戸の話をしていたことがある。
4回に渡った講義の内容は、
「大人の学校」と名前を変えてそのまま本になっている。

今日はその中から、「粋(イキ)」と「粋(スイ)」についての話を紹介したい。

(以下水色部、「大人の学校 卒業編」静山社文庫からの引用)

「第四講 江戸前の色と恋」というタイトルの講義の冒頭部分。

 江戸と言えばはずすことのできないことを、お話ししておきます。

この「粋」という字を、
江戸では「イキ」と読み、上方(かみがた)では「スイ」と読むんです。


おんなじじゃないかと思われるかもしれませんが、全然違うんですね。

「粋(イキ)」と「粋(スイ)」。

さて、どう違うのか...

「イキ」には、いろいろ当て字があるんですけれども、
まず、意見の「意」に気持ちの「気」。
「意気地(いきじ)」を張るとか、つっぱりの感じが「意気」です。

ちょっと着崩した感じとか、不良っぽいのが「いきだね」という場合は、
この「意気」を書きます。


 それから、「好む風」。
「好(い)い風」と書いても「好風(いき)」と読みます。
さわやかな感じがする、見た目がすがすがしい、
「ちょっと感じがいいね」という場合に、この「好風」を書くんです。


で、これとはちょっと観念が違うんですけど、
「通る」と書いて「通(いき)」と読ませる場合もあります。
これは、情報に通じている、いろんなことを如才(じょさい)なく知っているので
「いきだね」という場合、これを使います。

 これに対して、上方の「スイ」は、割とこの「粋」の字一つのようです。

「イキ」のほうは、「意気」「好風」「通」と書いたりもする。
一方「スイ」のほうは、「粋」。

 で、実はこの「粋(イキ)」というのは、呼吸の「息」に通じるんです。
ということは、上方の「粋(スイ)」は、「吸う」に通じます。

上方の「粋(スイ)」は、身の回りのあらゆるものを自分の身の内に取り込んで、
血肉として自分を磨いてゆく。


いろいろ習い事をしたり、情報を集めたり、教わったり教えたりという、
人の間でもまれて身の内に吸収して、「粋(スイ)」になっていく。

おしゃれにしてもそうです。白粉(おしろい)を塗る、紅を重ねる、
着物を重ねるというふうに、どんどん乗せていく、プラスの美学なんです。

上方の「粋(スイ)」は「吸う」で、プラスの美学。

 これが「粋(イキ)」になると、マイナスの美学ということになります。

さきほど、「粋(イキ)」は「息」だと言いましたが、
呼吸は吐いたときに「息」になるんです。
吸っているときにはただの空気で、それが人のからだの中を通って、
吐いたときに息になる。

この、身の内から外に出していくというのが、江戸の「粋(イキ)」なんです。

こそぎ落としていく、背負い込まない、吐いていく、削除していく、
そうやって、ぎりぎりの最低限のところまで削り取っていって、
最後に残った骨格のところに、何か一つポッとつけるのが、
江戸の「粋(イキ)」なんです。

江戸の「粋(イキ)」は「息」で、マイナスの美学。

 で、骨格まで削(そ)ぎ落とすというのが、
「洒落(しゃれ)」に通じます。

「洒落」というのはほとんど江戸の専売特許と言っていいような言葉で、
上方でも使うには使いますが、もっぱら江戸で盛んに言われることでした。

 言葉の洒落、ファッションの洒落、
両方のことですが、実は「しゃれこうべ」の「しゃれ」に通じるんです。

行き倒れの死体が野ざらしになって、お肉が全部取れて、
真っ白な骨になっちゃった、そこまでなるのが「洒落」ということなんですね。

きれいな「舎利(しゃり)」となって、
さて、そこから何が必要なのか、
何をつけたらいいのかを考えなおそう ―
それが江戸の美学の一つであるわけです。

全部吐き出す江戸の「粋(イキ)」。
落語をはじめ思い当たるエピソードがいくつもある。

 プラスじゃない、マイナスの文化というのは、つまり、
最低限の元手をいかに生かしていくかというゲームですね。

対して、上方のプラスは、豊富な材料を、いかにアレンジメントするか、
という地道な生活感が核になります。

ゲームに近い生き方の感覚が、江戸に発生したということなんです。

江戸と上方の文化の違いを「粋」一文字で印象深く語るなんて、
なんとも「粋」な説明だ。

 

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