人生を四期に分けて
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人生を四期に分けて
- いい作品には昔話ふうのところがある。 -
つかこうへい著 「つかこうへいインタビュー 現代文学の無視できない10人」 集英社文庫
つかさんが井上ひさしさんと物語について話をしている中で、
井上さんがグリム童話のひとつを紹介している。(以下水色部、引用)
物語というのは依然有効です。
ドキュメントやノンフィクションを超えられると思います。
グリム童話に『寿命』というのがありますね。
ある時、神さまが人間と動物を集める。
その時、人間の寿命は三十年。
人間はこれでは短かすぎるからもうちょっと寿命をのばしてくれと頼む。
一方、ロバの寿命も三十年なんだけど、
毎日荷物を背負ってつらいから十二年でいいという。
犬もそれからサルも同じく神さまに三十年では多いからといって寿命を返すんです。
それで神さまは、ロバと犬とサルが返した寿命を人間にくれてやる。
おかげで、人間の寿命はのぴたんですが、
もとからあった寿命の三十年はすごく楽しい、
だけど、ロバからもらった十八年は、
これはものすごい重い荷物を背負って、苦しい毎日。
それから十二年、六十歳までは犬の寿命なんですが、
歯が欠けたりして、吠えてもだれも見向きもしない。
最後の十年でしたか、七十歳まではサルの寿命で、ポヤーッとしている。
これを河合年雄さんの本で読んで感心しました。
これこそ物語の祖型ですね。
つまりこの物語によって三十歳以降の人間の人生がわかるわけです。
この話、いろいろなところで引用されていて、
グリム童話の「寿命」以外の原典も聞いた気がするのだが、
原典探しが目的ではないので、出典についての詮索はしないことにする。
さて、整理すると年齢によって人は
0- 30歳 | 人間 | 30- 48歳 | ロバ | 49- 60歳 | 犬 | 60- 70歳 | サル |
の生を生きるということらしい。
「グリム童話、寿命」で検索すると、こんな記述も出てくる。
このようなわけで、人間の寿命は七十年となったのです。
はじめの三十年は、人間が元から持っている寿命です。
人間はその三十年間に、子どもをつくって家をたてます。
次に来るのが、ロバの十八年です。
この十八年間は、色々な重荷を背負わされます。
家族の為に、いっしょうけんめいに働かなくてはなりません。
そして次に、イヌの十二年がやってきます。
この頃になると足腰が弱くなり、歯も抜けていくのです。
そして最後に来るのが、サルの十年です。
だんだんと頭がにぶくなり、笑われるつもりはなくても、
おかしな事をして笑われる事があります。
これが人間の、一生なのです。
ロバはわかりやすいが、犬やサルになにを思うかはひとによってずいぶん違うことだろう。
人生を4つの時期に分けると言えば、五木寛之さんは、著書「林住期」 幻冬舎
のなかで、インドの思想を紹介していた。
0- 25歳 | 学生期(がくしょうき) | 将来のために学ぶ。 | 25- 50歳 | 家住期(かじゅうき) | 家族や人のために働く。 | 50- 75歳 | 林住期(りんじゅうき) | 家を出て森林に住む。 | 75歳以降 | 遊行期(ゆぎょうき) | 解脱を求めて独り巡り歩く。 |
「林住期」や「遊行期」に憧れる人もあるだろう。
時間に名前をつけてちょっと分けるだけで、それぞれの物語が生まれてくるからおもしろい。
井上ひさしさんは「寿命」を紹介したあとこう続けている。
これこそ物語の祖型ですね。
つまりこの物語によって三十歳以降の人間の人生がわかるわけです。
ああ、自分たちの問題は単純にいうとこういうことなのかと。
そうすると、読者は別の生き方や防御策や
そんなものがいろいろ出てくると思うんですね。
そういう小説がいま必要だと思うんです。
だから、過去の作品を読みぬいて、物語の祖型を見つけだしてくる、
だけど、それだけじゃしようがないんで、いま生きてる人に向けて、
いまの感覚でつくりなおすんです。
僕は、いい作品にはみんな、そういう昔話ふうとか、
神話ふうのところがあるような気がするんです。
「いい作品にはみんな、昔話ふうのところがある」
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