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2013年6月12日 (水)

女言葉に命令形はない!?

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女言葉に命令形はない!?

- he said、she saidがいらない言語 -

 

劇作家の永井愛さんが、
「『ら抜き』の夢から」という文章を文芸誌「すばる」(1998年3月号)に寄せていたが、
その中に興味深い記述があった。(以下水色部引用)

永井さんは、のちに、舞台作品としてさまざまな賞を受賞し、
その後NHKのドラマにもなる「こんにちは、母さん」を発表した劇作家だ。

このドラマ、笑いあり涙ありの会話劇だったが、単なる感傷的な物語ではなかった。

言葉そのものとしては、なにげないことを言っているのに、
セリフが往復すると、そこから、これまでのふたりの関係や
深い部分にある悪意や善意、迷いや決意、
そういったものがふわぁっと立ち上がってくる感じで、
まさに脚本の妙、セリフのプロを感じさせる作品だった。

そのセリフのプロが、日本語の女言葉のある面に驚いている。

 金田一春彦氏の著書『日本語』には
「男女の言葉のちがいがあるのは文明国の言語には例が少なく」
「主として未開民族国の言葉に見られる」とある。
へえと思った。
英語は勉強したはずなのに、男女が同じ言葉をしゃべっていると
気づかなかったのだから驚く。

 宇佐美まゆみ氏の編著『言葉は社会を変えられる』にはこうある。
「(日本の女は)だれかに何かを強く要求したいような時でさえ、
 『片づけてよ!』『やめて!』と、命令形でなく、柔らかい依頼形を使う

 そうか、日本の女言葉には命令形がないのだ。
命令形にすると、たちどころに男言葉になってしまうのだ。
女言葉をつかいながら、こんなことも知らなかった。

 

「日本の女言葉には、命令形がない」

念のため出典も参照してみよう。

宇佐美まゆみ編著『言葉は社会を変えられる』(明石書店)
 (以下薄茶部、引用・要約)

本では、れいのるず秋葉かつえ氏と対談しており女言葉について熱く語っている。

男言葉では「おい、ビール飲むか?」と普通体を使えるのに、
女言葉では「あなた、ビール飲みますか?」と丁寧体を使わなければならない。

言葉だけで性が明確にわかると、誰が言ったのかをいちいち記述する必要もなくなる。

よく例に挙げられるのは、英語の小説では、会話の描写にいちいち、
he said、she saidと付けないと話し手の性がわかりにくいのに対して、
日本語の場合、

  「君は早起きなんだね」
  「ゆうべ眠れなかったの」

だけで、話し手の性がわかると言われますね。

・・・
「早起きなんだね」「ゆうべ眠れなかったの」の話し手の性を入れ換えるためには、

  「早起きなのね」
  「ゆうべ眠れなかったんだ」

とすればいい。

つまり、男性の言葉と人々が判断する表現には、
いわゆる「断定の助動詞<だ>」がついており、
逆に、女性の言葉らしくするには、
断定の助動詞<だ>を取ればいいということなんです。

 

依頼形の話も、永井さんが引用した例のほか、次のような例も挙げている。

親しい間柄で多少イライラしながら「早く来い」ということが言いたいとき、
男性は「早く来いよ」と命令形を使うのに、
女性は「早く来てよ」と、依頼形を使う。

「女言葉」における命令形は依頼形になる、は
おもしろい指摘だと思うが、この「女言葉」について、
編著者宇佐美さんも対談相手も、通して妙にご立腹のご様子だ。

幾多とある女性にかかわる前近代的な価値観が埋め込まれた言葉を、
深く考えることなく、
あるいは単なる符号だと言い聞かせながら使っているのである。

とか、

実質的には命令したいようなときにも、女性はご依頼しないといけない、
というように言語形式はなっている。

ふつうは、そこまで考えて話すことはありませんから、
特に問題視もしないでしょうが、一度気づくと、いわゆる女言葉というものが、
社会がこれまで女性に期待してきたことを如実に反映しており、
それが知らず知らずのうちに女性に対する制約にさえなっていると
考えずにはいられなくなります。

とか。

 

そのうえ、依頼形のことだけでなく、こんな指摘までしている。

「悪妻」という言葉はあっても、「悪夫」という言葉はない。
「悪妻」という言葉は、謙虚な女が自らを「悪妻」であると反省する気持ちを
強化している。
それに対し自らが「悪夫」であると顧みたことのある男がどれほどいるだろうか。

まぁ、そうイライラせずに、新明解国語辞典で「悪妻」でも引いてみて下さい、
と声をかけたくなる。

 あくさい【悪妻】
            第三者から「わるいつま」と目される女性。
            [当の夫は案外気にしないことが多い]

 三省堂 新明解国語辞典 第5版

「当の夫は案外気にしないことが多い」ンですから。
それにしても・・・さすが新解さん、すばらしい国語辞典だ。

 

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