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2013年5月19日 (日)

どっちが作用で、どっちが副作用?

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どっちが作用で、どっちが副作用?

- 医薬業界、5つのトピックス -

 

佐藤健太郎さんの著書「医薬品クライシス―78兆円市場の激震」(新潮新書)
を読みながらの、薬の話、5回目。(以下水色部 引用・要約)

「副作用のリスクを考えても、自然治癒を待つよりはいい」
そのときはじめて薬が投与される、というのが前回の話。

作用がプラスで、副作用はマイナス、そう簡単に考えてしまいがちだが
作用と副作用、それ自体かなりあやふやなものでもあるようだ。
今回は、この作用と副作用の話から。

 

【臨床試験:バイアグラの例】

バイアグラは、当初狭心症の薬として開発が進められていた。

狭心症は心臓の冠動脈が詰まって血流が止まる病気であるから、
血管を広げてやれば発作は治まるはずである。
しかし実際には、この薬の狭心症に対する効果は低いものだった。
...
 
 ところがこの臨床試験の過程で、
男性の服用者に勃起現象が起きることが判明した。
この薬は目的の冠動脈には作用しなかったが、
陰茎周辺の血管には作用して充血を促し、
結果として勃起が起きるということが明らかになった。

 開発を進めていたファイザー社はこの結果を見て
思い切ってED(勃起不全)治療薬へと方針を切り替え、
こちらの用途では臨床試験は見事成功を収めた。

偶然から生まれたこの薬は画期的新薬として世界の話題をさらい、
同社に年間3000億円もの売上をもたらす
ベストセラー薬となったのはご存知の通りだ。

試験中に現れた副作用を、メインの作用として認定し売り出したわけだ。

 

他にもこんな例がある。

【抗アレルギー剤か、睡眠改善剤か】

花粉症や風邪薬に用いる抗ヒスタミン薬の中には、
眠気を引き起こすものがある。
これは薬が脳に入り込み、中枢にあるヒスタミン受容体に作用して
鎮静作用を引き起こすためだ。

最近ではこの点を考慮し、脳に移行しないような分子設計を施した、
眠くならない「第二世代抗ヒスタミン薬」も登場している。

面白いことに、眠気を引き起こすという抗ヒスタミン薬の副作用を逆手に取り、
睡眠改善剤として用いているケースもある。

エスエス製薬から発売されているドリエルがそれで、この薬の有効成分は
抗アレルギー剤として用いられている塩酸ジフエンヒドラミンそのものだ。
この場合、主作用が入眠作用で、抗アレルギー作用が副作用ということになる。

このように、主作用と副作用の関係は絶対的なものでなく、用途によって変わる。

入眠か抗アレルギーか、ここでも当初の作用と副作用が入れ替わっている。

 

さて、最後の話題に行く前に、
医薬業界独自の話題を幾つかピックアップしてまとめておきたい。

【医薬業界のトピック1:価格の決定権】

医薬の価格も、メーカーには決定権がない。
自社製品の価格を自分で決められない製造業というのは、
医薬品業界くらいのものだろう。

 薬の価格すなわち薬価は、公定価格として国が取り決め、
税金や健康保険から支払いが行われる仕組みになっている。
つまり医薬品メーカーの収益は、基本的に公金から得ていることになる。

薬価は、原則的に二年に一度、市場で流通している価格に合わせて改訂される。

メーカーに価格の決定権がないとは。

 

【医薬業界のトピック2:わずか数種の薬に依存している大企業】

例えば日本最大手の武田薬品は、一時期タケプロン、アクトス、ブロプレスという
たった三品目で利益の8割を稼ぎ出していた。

塩野義製薬は、利益の74%をクレストール(高脂血症治療薬)一製品に依存している。

 欧米のメガファーマ(巨大製薬企業)はもう少し多数の製品を抱えてはいるが、
数本の柱だけで巨体を支えている構図は基本的に変わりない。

例えば世界最大手のファイザーは約4兆5000億円もの総売上を誇るが、
そのうちリピトール(高脂血症治療薬)の売上は
全体の三分の一近くを占めている(2007年)。

なので、

たった一つの製品が失われることが会社の運命を左右する。

こんな巨大企業がわずか数種の製品のみに依存している、というのもかなり特異な業界だ。
しかも、下で述べるように特許期限の問題があり、
いつまでも同じ薬で儲け続けるわけにもいかない。

 

【医薬業界のトピック3:とんでもない額の買収劇】

結局ファイザーはAHP社に20億ドルを支払い、
総額892億ドルでワーナー・ランパートを買収する。

 この買収金額だけで、世界二位である日本の医薬品市場総額を
上回ってしまう
のだから凄まじい。

日本の市場総額を上回る額での買収って、いったいどんな巨大企業なンだ。ファイザーは。

 

【医薬業界のトピック4:新薬が生れなくなっている】

合併によって巨大な研究資金、
世界を網羅する研究開発体制を作り上げたはずの製薬各社から、
ぱたりと新薬が生まれなくなったのだ。

しかもこれは特定の一社二社の話ではない。
全世界の研究所から、一斉に新薬の産声が上がらなくなってしまったのだ。
1998年、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、一年間で53三品目の新薬を承認したが、
2000年以降は年間30品目を超えたことは一度もなく、
2007年には18品目にまで落ち込んだ。

この間、製薬業界全体の研究開発費総額はほぼ倍に伸びているから、
単純計算で生産性は六分の一に低下してしまったことになる。

なぜ新薬が生れなくなっているのか。その理由について見てみよう。

 

【新薬が生れなくなった理由:わかりやすい疾患の薬がでてしまった】

 二十年、三十年前とは比べものにならないほど創薬技術は進歩したのに、
なぜ新薬が生まれなくなったのか。
原因は単純ではなく、いくつもの要因が複合的に作用していると思われる。

 ひとつには、作用機序のはっきりした「わかりやすい」疾患
-高血圧、胃潰瘍、細菌感染症など - には
すでに完成度の高い薬がいくつも出てしまったためだ。

では、「わかりにくい疾患」の薬はなぜ作りにくいのか。
理由のほうはわかりやすい。

 

【動物試験が難しい:疾患モデル動物がいない、作れない】

もちろんいまだに有効な薬がない、未解決の疾患は残っている。

例えば巨大な市場があり、根治療法が存在しないアルツハイマー症の治療薬は、
まさに世界が欲するものだろう。
...
これはひとつには、動物試験の難しさが原因となっている。
すなわち、創薬の過程では適当な「疾患モデル動物」が必要となる。

例えば炎症の薬であれば、実験動物に結核菌の死骸を注射して炎症を起こさせ、
その症状を医薬候補化合物がどの程度抑えるかで評価が行われる。
人間でもマウスでも炎症の仕組みは基本的に同じだから、
このモデルはある程度信頼をおける。

しかし、アルツハイマー症のモデル動物とはいったい何だろうか?
一応各種薬物を投与して、記憶力を減退させたマウスなどが実験に用いられてはいる。
しかしそれが果たして人間のアルツハイマー症の症状を
きちんとシミュレートできるようなものか、素人考えでも疑問に思うところだろう。
特にこのような中枢系の疾患には、動物実験の難しさがつきまとう。

ひとつの理由は、疾患モデルの動物がいない、作れない、ために実験ができない、というわけだ。
もちろん、次に挙げることも理由のひとつ。

【製薬メーカの姿勢】

 会社の規模が大きくなれば、年間売上が200~300億円程度の
小粒な薬を創っても腹の足しにはならない。
特に臨床試験通過確率が低く、費用も大幅にかかるようになった現状では、
一つ一つの新薬が大きく稼いでくれないと会社はやっていけない。

自然、大企業は手堅いヒット狙いではなく、ホームランを狙った大振りになっていった。

 

そして新薬が生まれなくなっているがために、こんなことも起きている。
どのメーカーもわずか数種の薬に依存しているにもかかわらず、
それらの特許が次々と切れていくのだ。

【医薬業界のトピック5:特許が切れる】

 例えば武田薬品の主力商品のうち、
2007年に4007億円を売り上げたタケプロン(抗潰瘍薬)は2009年11月に、
同じく3962億円を稼ぎ出したアクトス(糖尿病治療薬)は2011年1月に、
2231億円のブロプレス(降圧剤)は2012年6月に米国での特許が失効となる。

同社からは99年以来大型新薬が登場しておらず、
この三剤合計一兆円の穴を埋め合わせる目途は立っていない。

 他のメーカーも事情は大同小異だ。

アステラス製薬でも、エーザイでも、
また日本ばかりでなく世界中で、あらゆるジャンルの薬が
2010年前後に枕を並べて特許切れを迎える。

このことは、ジェネリック医薬品登場のきっかけにはなるが、
同時に、その後の利益確保という点で、製薬各社の大きな課題となっている。

 

以上、特徴あるトピックスを抱える業界ではあるが、
一番肝心な病気の治療法自体は、医薬を含めて確実に進歩していっている。
その例をひとつ。

【今なら助けられる(!?)夏目雅子】

女優の夏目雅子は、急性骨髄性白血病のため1985年に亡くなったが、
よい治療法のある現在であれば彼女は助かっている可能性が高いといわれる。

渡辺謙は彼女と全く同じ病気にかかりながら、
カムバックを果たして大活躍しているのはご存知の通りだ。

 

薬の話、もう一回だけ続けたい。
実は次回が一番書きたかった薬に関するネタだ。

 

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