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2013年4月14日 (日)

和菓子のおいしさを表わす言葉

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和菓子のおいしさを表わす言葉

- 気分を前後でちゃんと楽しむ  -

 

前回の、ワインの話の中で、
福田さんは日本酒のことを次のように書いていた。

  日本人が慣れ親しんできた日本酒とは、温暖多湿な気候で、
  水が大量に利用可能な条件ではじめて作られうる飲み物、
  まさしく豊富な水が生んだ「水の精華」のなのだ。

米や日本酒に限らず日本では、(ワインと違って)
大量の、かつ「おいしい水」がその品質に深く結びついているものが多い。

和菓子もそういったもののひとつだ。今日は、
和菓子家、金塚晴子さんの「水の国のお菓子」 (2004年「文藝春秋」九月臨時増刊号)
を読んでみたい。(以下水色部 引用)

まずは「水」について。

和菓子は、意外とシンプルな配合で出来ています。
主に粉類と水と砂糖と餡。

製作過程においても水を大量に使っている。

和菓子は湿度の国、水の国のお菓子だ、ということです。
なぜなら和菓子を作っていると、たくさんの水を使うことに気がつくからです。
例えば餡を作るには豆をたっぷりの水で、水をかえながら煮上げ、
そして冷たい大量の水でさらして美しい小豆色の餡に仕上げます。

その水の量に、初めてこの作業を見る方達は驚かれるのです。
葛やわらび粉、寒ざらし粉(白玉粉)も、その精製過程で冷たい大量の水を必要とします。
まず水がよく、そしてその水がふんだんにないとよい材料が出来ないのです。

和菓子のレシピ(配合)を見ると、その基本は米や小麦の粉と水と砂糖、そして餡。
西洋のお菓子が粉をパターと卵でつないだものが多いのに対して、
和菓子は粉を水でつないでいるのです。

和菓子のおいしさを思い浮かべてみよう。どんな言葉が浮かぶだろうか。

和菓子のおいしさを表わすのに味のことよりも、しっとりしている、
もっちりしている、ぶるっとしている、こしがある、とろける、といった
食感もしくは触感と言える言葉が返って来ます。

中でも特に多いのがしっとりしていておいしいという言葉です。
そう、和菓子は湿度があってこそのお菓子なのです。

和菓子には「湿度が作るおいしさ」のほかに、
もうひとつ大事な要素がある。
季節に合わせて次々と変化する、色、形、そして名前だ。

この月、私のお教室で作っている和菓子は、ういろう製の"青葉の陰"、
ひすい色した葉の型で餡(あん)をくるりと巻いてあります。
ういろうというとようかんのように切って食べる棹物(さおもの)を思い浮かべる方が
ほとんどかも知れませんが、その半透明、すりガラスのような美しい質感は
上生菓子として茶席にもよく使われるのです。

春、夏、秋、冬。色を変え形を変え、様々な銘(なまえ)を持つ和菓子に変化します。

春、桜色のその菓子の名前は"初桜"、
初夏、青緑に染めて"青梅"、
九月、黄色に色づけ尾花の焼印を押して月見の宴にそなえます。
冬、紅色の菓子の銘は玉椿でしょうか、梅衣でしょうか。

ういろうという素材(種)からだけでも何十もの和菓子が思い浮かぶのです。

たしかに、東南アジアの国々にも、ういろうによく似たお菓子が何種類もありますし、
もともと中国から伝わったものです。

同じ米の文化圏、米の粉と砂糖と水から出来ているおなじようなお菓子があって当然ですが、
そのういろうを季節のうつろいに合わせて様々な色と形にし、
名前をつける国は日本だけではないでしょうか。

デザイン的には大きくデフォルメされていながらも、
繊細に描き出される自然の色、形。それに与えられるふさわしい銘(なまえ)。
しかも、ひとつひとつには、手作りならではの小さなばらつき、ゆれ、ゆがみがある。

人の手が作った上手の上のお菓子には、手仕事ならではの洗練とあたたかさがあると思うのです。

そのお菓子にはほんの少しのゆれやゆがみがあり
その味わいが日本ならでは、和菓子ならではの美しさになっているのではないかと思います。

  月も雲間のなきは嫌にて候 (村田珠光)

ただ、ただ、ひたすらまんまるのおまんじゅうなんて嫌にて候。
そう思うのはきっと私だけではないでしょう。

「水」との深い繋がりをベースに、色も形も名前もまさに変幻自在。 
やさしく季節に寄り添う和菓子たち。

 

以前、縁があって、真摯に仕事に取り組んできた和菓子職人を先生に
和菓子作りを体験させてもらったことがある。

 

葛は、まさに水によって作り出される質感で菓子全体が表現されている。

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練り切りでは、三角棒(菊芯無)と呼ばれるへらを使って、
同じ材料から様々な花を作り出すことができる。

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そう言えばそのとき、「服が汚れることがありますから...」との
事前アナウンスがあったにもかかわらず、
受講生のなかに和服で来ていた女性がいた。和服に襷掛(たすきがけ)と前掛け。

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「和菓子を作るのですから、家をでる時からその気分に、と思って」と
サラリとおっしゃっていて、ぜんぜん特別なことをしているって感じじゃぁない。
いやぁ、おしゃれだ。

気分を前後でちゃんと楽しむ、っていうのは、環境ではなく姿勢の問題だ。

 

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