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2013年3月10日 (日)

「スッキリ県」と「チグハグ県」

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「スッキリ県」と「チグハグ県」

- 仙台が中心なのになぜ仙台県ではなく宮城県? -

 

今年の大河ドラマ「八重の桜」は福島が舞台となっているが、
福島と聞くと思い出す話がある。

高島俊男著「お言葉ですが…<7> 漢字語源の筋ちがい」(文春文庫)にある、
< 「スッキリ県」と「チグハグ県」 >。

「仙台が中心なのになぜ仙台県ではなく宮城県なのだろう」
という素朴ながら、これまでだれも答えてくれなかった疑問に、
たいへん興味深い回答を示してくれている。

要約しながらその一部を紹介したい。

岡山県で一番大きなまちは岡山。
兵庫県で一番大きなまちは神戸。
神戸の手前に兵庫という駅があるがちっちゃな駅で急行もとまらない。
「名古屋が断然でっかいのになぜ名古屋県じゃなくて愛知県なんだろう」
「仙台が中心だのになぜ宮城県というんだろう」

岡山県のような県庁のある大きなまちの名がそのまま県の名であるものを「スッキリ県」、
兵庫県のようにチグハグなのを「チグハグ県」と呼ぶことにする。

三府(いまは一都二府)および北海道沖縄をのぞく全国42の県を両者にわけてみると、
「スッキリ」は26県(62%)対して「チグハグ」は16県(38%)
(埼玉県は「チグハグ」に入れた。長年、県庁所在地は浦和だったので)

概して西日本にはスッキリ県が多い。九州は七つある県すべてがスッキリ。
対して東日本はチグハグ県が多い。
特に東京周辺は、神奈川県、山梨県、群馬県、栃木県、茨城県、埼玉県と
チグハグの天下、スッキリは千葉県だけ。

チグハグは何を意味しているのか。

この疑問に衝撃的な解答を提出したのが、
昭和16年に出た宮武外骨の『府藩縣制史』(名取書店)であった。

戌辰戦争の際に、
薩長新政府がた(つまり天皇がた)についたのがスッキリ県名をもらい、
徳川がたについたのがチグハグ県名をあたえられた。
「スッキリ県は良い子県」「チグハグ県は悪い子県」で、
チグハグ県名は朝敵に対する懲罰であった、というのである。

たとえばおなじく徳川御三家であっても、
紀州はすばやく朝廷に忠誠を誓ったからスッキリ名、
尾張と水戸は態度がよろしくなかったからチグハグ名、というわけだ。

 

さて、ここで質問。

「それならなぜ、会津の所在する福島県はスッキリ県なのだろうか?」

ちょっと考えてみていただきたい。
徳川がたについたのがチグハグ県名なら、会津はどう考えてもチグバグ県になるはず。

 

じつは、単にチグハグだけではない、強い懲罰が、
逆に一見スッキリの中に潜んでいる。

会津若松は28万石の大城下町、福島は3万石のちっぼけなまちだ。
その福島へ県庁を持って行って、県名もそっちでつけて、
「お前なんか県庁も県名もなんにもやらないんだからね、ざまあ見ろ」と言ってるんだから、
これほど意地のわるい懲罰はない。

雄藩米沢にも庄内にも県庁をおかず、
小さな山形において県名もそれにしたスッキリ山形県も事情はおなじだ。

つまり、一見スッキリでも、官軍に敵対した大藩を蹴とばして
小さなまちを県都に立てたのも一種のチグハグなのである。

廃藩置県では当初300を超える県があったこと、
それが同じ年のうちに72県にまで減ったこと、などなど
県や県名についての歴史が続く。

たとえば現在の福島県一つをとってみても、
明治二年にはすでに、若松県、福島県、白河県の三つの県ができており、
廃藩置県でそこへ二本松県、棚倉県、中村県、三春県、平県、湯長谷県、泉県ができて
合計十県になった。

その四か月後にはこれらが整理されて二本松県、若松県、平県の三県になり、
ついで二本松県は福島県、平県は磐前県と県名が変った。

この三県が統合していまの福島県ができたのは明治九年八月である。
つまりこの時まで「若松県」はあったのだ。

そればかりではなく、

実際明治五年はじめごろの段階で見ると、
若松県だけでなく、仙台県もあるし、名古屋県もある。
そのほか、盛岡県、宇都宮県、金沢県、大津県、松山県などもある。

 

もっと詳しく知りたい方はぜひ原文を参照あれ。
週刊文春への連載をまとめたものだが、雑誌に掲載されたあとの追加情報が
〔あとからひとこと〕として加筆されているので、雑誌本文より本の方がお薦めだ。

 

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