医師国家試験と受験参考書
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医師国家試験と受験参考書
- 受験参考書に従えばいいんですね。 -
医師国家試験に次のような問題が出題されたことがある。
第97回医師国家試験G3問
次のような外来患者が訪れた。
「ずっとセキが続いていて、風邪だと思っていたんですけど、
ここのところ熱も出てきちゃって体中が痛くなってきて...
きっとインフルエンザですよね。
暮に予防注射を受けようと思っていたんですけど、
ワクチンが品切れだって言われて断られちゃったんですよ。
来年はワクチンいっぱい仕入れといて下さいね、先生」
これに続く医師の言葉として適切なものはどれか。
(1) 熱はいつから何度くらい出ていますか。
(2) インフルエンザかどうかは検査しないとわかりませんよ。
(3) ワクチンを仕入れるのは院長の仕事ですよ。
(4) 熱が出て、体が痛いんですね。今日ここまで来るのもつらかったでしょう。
「医療面接」という分野からの出題らしい。
もちろん私は、勉強したことも受験したこともないが、
こんな問題が出ること自体、ちょっと驚く。
医療の専門知識がなくても回答できるので、ぜひちょっと考えてみてもらいたい。
さて、どれが正解だろう。
メール仲間にも考えてもらった。
友人Tの回答
意見を述べさせるのならわかるけど、
四者択一というのが馬鹿馬鹿しいね。
わたしが受験生なら、
(2)インフルエンザかどうかは検査しないとわかりませんよ。
にマルをつけるかな。
理由は、いいかげんな自己診断に対しては、
とりあえず否定の言葉を返しておかないと、
あとで訴えられる可能性があるから。
こういう答えはどうでしょうか。
(5)来年じゃなくて今年の暮ですね。
言われてみると最後の(5)によく気がついたなぁ、とは思うが、友人Kからは驚くべき回答が来た。
友人Kの回答
正解は
(4)熱が出て、体が痛いんですね。今日ここまで来るのもつらかったでしょう。
でしょう。
そして、参考書の解説は、こうなっているはずです。
お客様の言うことを共感的に聞くのは、
医療に限らず接客業の基本中の基本。
そう、医師も今や接客業、皆さん(受験生=医師の卵)は
男性ならホスト、女性ならホステスなのです。
まず患者様の言うことを、
それがどんなにでたらめで感情的で取るに足らないものであっても、
よく聞き、どこかとっかかりを見つけ、肯定的な言葉を返すべきです。
そうやって、患者様をリラックスさせ、
「ああ、このホスト/ホステスなら信頼できそうだし、
金を払ってやってもいいなあ」と
思っていただいてから、初めて商売の話、じゃなかった、
治療・診断に関する話を持ちかけることができるのです。
そういった心遣いもせずに直ちに
(1)熱はいつから何度くらい出ていますか。
のような核心に迫るような話をしてはいけません。
彼女/彼氏にしたい人に、いきなり
「あなたの○○を××したい、ああしたい」
なんて言ったりしないのと同じことです。
(2)インフルエンザかどうかは検査しないとわかりませんよ。
(3)ワクチンを仕入れるのは院長の仕事ですよ。
のような突き放したような言い方、
他人事のような言い方など論外です。
さて、正解は...
友人Kの回答があまりにも完璧で驚くが、正解は、
(4)熱が出て、体が痛いんですね。今日ここまで来るのもつらかったでしょう。
受験参考書では
(1)熱はいつから何度くらい出ていますか。
==> 調査的態度
(2)インフルエンザかどうかは検査しないとわかりませんよ。
==> 評価的態度
(3)ワクチンを仕入れるのは院長の仕事ですよ。
==> 逃避的態度
(4)熱が出て、体が痛いんですね。今日ここまで来るのもつらかったでしょう。
==> 共感的態度
となっているそうで、まさに患者の言うことを共感的に聞くことが
医師に求められる姿勢なんだとか。
この受験参考書を見た人が、その感想を次のように雑誌に書いていた。
メモしか残っておらず、筆者も雑誌名も不明なのだが...
受験参考書にはこう書いてある。
「ポイント:共感的態度、それは『~なんですね』がキーワード!」
すばらしい! 答の選択肢に「~なんですね」を見つけたら、
それを選べばいいのである。さすが受験参考書。
この本で勉強すれば効率良く得点をあげられそうである。
そして、実際の場面でも
いかにも気の毒そうにこんなふうに言えばいいのだ。
「身体が痛いんですね」
「妊娠しちゃったんですね」
「借金がかさんでるんですね」
これなら国家試験に落ちてもほかの職でやっていけるだろう。
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